スリランカには1996年と97年の2回、それぞれ2週間くらい一人旅をした。それで愛着もあり、テレビで何か特集番組があれば観るようにしている。新年早々、BSジャパンで放送した『スリランカ・歴史を語る古代都市と知られざる大自然』(2007/1/2)は、スリランカの世界遺産を中心に2時間近く紹介していて、観光番組として楽しかった。
特に、上田紀行『悪魔祓い』(講談社、2000年)でも詳しく紹介している悪魔祓いの映像を観るのははじめてだった。私自身は2度目の訪問時に、長く居候させてくれたスリランカ人が、片田舎での夜、お婆さんとお供の男性2人が「お告げ」を行っているところに連れて行ってくれたことがある。しかしそれは、たぶん、悪魔祓いではなかった。
古都アヌラーダプラのジェータワナ・ラーマヤ大仏塔の映像には、目を疑った。10年以上前に見たそれは修復中で、手が付いていない部分は木や草が生えていた。また、修復のための足場ではハヌマンラングールがうろちょろしていた。これが、最上部を除いて修復が終っている。自分が見たより前の写真では(Nalini de Lanerolle 『A Reign of Ten Kings』、1985年)、ほとんど全体が草山のようだ。
ジェータワナ・ラーマヤ大仏塔(現在) 『スリランカ・歴史を語る古代都市と知られざる大自然』(BSジャパン、2007/1/2)より
ジェータワナ・ラーマヤ大仏塔(1996年) Pentax ME-Super、FA28mmF2.8、Provia 100、デジタルプリント
ジェータワナ・ラーマヤ大仏塔(1985年以前) Nalini de Lanerolle 『A Reign of Ten Kings』(1985年)より
番組では、近くにある同規模のアバヤギリ大仏塔の修復の様子を見せてくれた。ユネスコの予算で行っているのだが、なんと、現地採用の女性(若者から老人まで)が、レンガを手でリレーしているのである。現地の雇用促進という意味もあるのだろうか。おそらくジェータワナ・ラーマヤ大仏塔の修復も似たような形で行われたのだろう。
アバヤギリ大仏塔の修復の様子 『スリランカ・歴史を語る古代都市と知られざる大自然』(BSジャパン、2007/1/2)より
スリランカの世界遺産のなかで、第一印象としてインパクトの強いものはシーギリヤだろう。この番組でもさらっていたし、やはり正月、『ビートたけしの“新・世界七不思議”』(テレビ東京、2007/1/1)で、新たな世界七不思議を決めるといった趣向で紹介していた。たけし番組は意外に面白く、シーギリヤの宮殿を建てた、親殺しのカッサパ王のドラマを挿入しているのが楽しかった。ここではじめて知ったのは、巨大なシーギリヤ・ロックの横穴にいくつか残されている天女の壁画(シーギリヤ・レディ)が、通路の外側(ぴかぴかの「ミラー・ウォール」)にも描かれていることが発見された、ということだ。研究者が何気なく水をかけたら浮かび上がってきたということで、さらに見つかる可能性もあるのだろうか。高所恐怖症の自分には登るのがつらかった記憶があるが、いつかまた訪れてみたいと思う。
シーギリヤ・ロック(1996年) Pentax ME-Super、FA28mmF2.8、Provia 100、デジタルプリント
シーギリヤ・レディ(1996年) Pentax ME-Super、FA28mmF2.8、Provia 100、デジタルプリント
シーギリヤ・ロックの上には宮殿跡があり、現在は獅子の足だけが残されている。伊東照司『スリランカ仏教美術入門』(雄山閣、1993年)にはかつての予想図が描かれており、これがいちばんわかりやすい。ブッダミトラ『シギリ物語』(15世紀)によると、獅子像をレンガと漆喰で造り、両足の間の階段が胴の中に通じていて、山頂に登れるようになっていた。そして山頂の宮殿には、カッサパ王とその王妃しか入れず、何か用があれば、獅子の口先に鈴がついていて、それを鳴らして合図したそうだ。
シーギリヤの獅子(1996年) Pentax ME-Super、FA28mmF2.8、Provia 100、デジタルプリント
獅子のかつての姿 伊東照司『スリランカ仏教美術入門』(雄山閣、1993年)より
親殺しというクーデターにより王位につきつつ、贖罪のためにシーギリヤ宮殿を建て、天女の絵を描かせたカッサパ王。大分前のドキュ『アジア人間街道 よみがえれ!光り輝く島~スリランカ』(2002年、NHK)でも、美術学校の生徒たちをシーギリヤに引率した現代美術作家ジャガト・ウィーラシンハが、芸術と社会とのリンクについて語っている。芸術は社会や政治と無縁ばかりではありえず、積極的に関与すべきという考えだった。 ウィーラシンハの作品としては、『自爆』(2000年)などが紹介されている。この20年間を見れば、自爆テロの過半数はスリランカで起きているのだ。
ジャガト・ウィーラシンハ『自爆』 『アジア人間街道 よみがえれ!光り輝く島~スリランカ』(2002年、NHK)より
●参考