Sightsong

自縄自縛日記

中南米の地殻変動をまとめた『反米大陸』

2008-01-04 23:53:35 | 中南米

伊藤千尋『反米大陸―中南米がアメリカにつきつけるNO!』(集英社新書、2007年)を読んだ。ここにきて、ベネズエラのチャベスやボリビアのモラレスのようにあからさまに反米を打ち出している国を含め、対米追従からの脱却を図っている左派政権が非常に多く誕生している。明らかな親米政権はコロンビアくらいという状況だ。この本では、ちょうど安部政権崩壊時に書かれたということもあり、最近までの中南米の地殻変動がよく整理されている。その後の事件といえば、アルゼンチンにおいてキルチネル前大統領の妻が新大統領に就任したこと、ベネズエラにおいて大統領の無期限再任を可能とする憲法改正が否決されたこと、が挙げられるくらいだろう。

何しろ多くの国で「裏庭」としてずっと好き放題行ってきた米国だから、新書のボリュームでは、地域も時間も飛びまくってしまうのはやむをえないところだろう。だから、この本で強調していることを、表にして整理してみた。あらためてわかる、唯我独尊、やりたい放題のオンパレードだ。

表 中南米各国における米国の介入(本書より作成) ※クリックで拡大

共通している点はいくつもある。

●米国資本(その多くは政治家に結びついている)の利権確保・拡大
●米国の理想とする正義(その多くはひとりよがり)に背く国の力による屈服
●軍事的な基盤としての利用
●目的遂行のための裏でのクーデター支援
●経済制裁の乱発
●愛国心を煽る被害者意識の利用(リメンバーのあとに「アラモ」「メイン号」「真珠湾」がくっつく)

といったところだ。これが19世紀のことならともかく、めんめんと現在にまでつながっていることに驚かされる。イラク攻撃と、石油利権・軍事産業との関係、「9.11」の悲劇を自分たちだけのものにした行動、イラクの大量破壊兵器があるように見せかけていた戦略、もともとビン・ラディンやノリエガを自ら作り上げておいて敵に回す行動、など、いくらでも思いつくことが可能だろう。

中南米諸国は、新自由主義を否定し、大きな政府を再度目指し、自らの資源(エネルギー、農作物、金属など)を米国のためではなく自分たちに使うようにし、経済圏も米国とは独立しようとしている。このような自立型の国を模索する動きを注視すれば、「テロとの戦い」という美名のもとに「国際貢献」をするのだと主張し、その実は米国の戦争に加担して多くの市民を犠牲にしている日本の動きが、どうしようもないものであることを、改めて痛感する。

もっとも、この本の展開は、米国をある型にのみ押し込めているような感があることは否めない。しかし、逆のベクトルを持つ本ばかりが氾濫しているいま、このような本は貴重な存在のひとつだろうとおもう。それに、そもそも、米国=善、米国=悪、といった単純な価値観ではなく、多様な視点をもつべきは「誰か」や「社会」ではなく、各個人だと考えるべきである。

「こうしたなかで日本の政治は、アメリカ従属が当たり前とされるようになった。日米安保条約が結ばれ、沖縄だけでなく日本全土に米軍基地がめぐらされた。しかも、その負担のかなりを「思いやり予算」の名で、日本国民が負担している。さらに自衛隊は法によって、アメリカの戦争を補完し、従属する役割を負わされた。」 「こうした政治が長く続いた結果、アメリカに追従しなければ日本はやっていけないのだと、国民の多くが信じ込むようになった。」 「中南米で行ってきたことを世界に広げたアメリカは、イラク戦争で失敗した。それは超大国としての威信を失墜させ、パックス・アメリカーナの世界観を崩壊させた。アメリカの行動に無批判なままついて行くだけのやり方は、今後は通用しない。世界各国は、自立型の道を歩むだろう。」

●参考
太田昌国『暴力批判論』を読む
モラレスによる『先住民たちの革命』
チェ・ゲバラの命日
『インパクション』、『週刊金曜日』、チャベス