『けーし風』第58号(2008.3、新沖縄フォーラム)では、米兵という存在が起こしている構造的な問題、それから高江、辺野古、やんばるの林道における環境や生活破壊について、特集が組まれている。
定期購読していないので、神保町の「書肆アクセス」が店をたたんだ今、新宿の「模索舎」まで買いに行かなければならない。他の資料なんかも物色したいので、敢えてそうしているのではある。今回も収穫があって、ついでに歌舞伎町の「ナルシス」で雑談して帰った(ついでに言えば、他のお客さんもいたので過激でない路線、ロリンズ『ニュークス・タイム』、オーネット『ゴールデン・サークル』、ブルーベック『タイム・アウト』、コルトレーン『アフリカ・ブラス』がターンテーブルに載った)。
しかし、やはり東京に1箇所のみというのは不便である。駿河台下の三省堂4階にも地方流通書コーナーが出来ているので、そこで取り扱ってほしいと思う。
最初の特集は、米軍・米兵という存在が必然的にもたらす恐ろしさを、現地の生の声から提示している。「良き隣人」という欺瞞でいかに虚飾しようと、性的暴行事件も騒音被害も不可避なものだということだ。勿論、結果としての被害だけではなく、そういう潜在的な存在があるということも問題とされる。座談会の中で印象的だったのは、米兵の声として「I kill you」よりも「I can kill you」のほうが怖いという指摘である。
さらには、現場で経験し、想像力を持たなければ、なかなか思い至らない点が指摘されている。
○性的暴力は「女性問題」に囲い込まれるものではなく、暴力的なシステムという政治的・構造的な問題に他ならない。またここには「女性」という差異だけでなく、同性、外国人、年齢などといった顕れにくい差異もある。
○事件に対する怒りは政治カードとして受け止められるものではない(岩国市長選の前にこの事件が起きていたら・・・とする言説もそうだろう)。国防や国際政治など他の問題と天秤にかけてもならない。
○「英会話を教えてくれ、ボランティアも行ういい人」という個別の観察で、構造問題を覆い隠す現象が起きている。被害者にも落ち度があったとする心無い指摘は、そのような構造について想像できないからだ。構造問題であるからこそ、問題は反復し再生産される。
○米兵の基地外居住の問題が明らかになってきたのは今回がはじめてだろう。住民登録もなされておらず、なし崩しに住居が建てられていて、全貌をとらえにくい。その基地外の住居にしても、がら空きのところもあり、「思いやり予算」の無駄な使い方が見え隠れする。
このような側面について、「綱紀粛正」などとことさらに憤慨するふりをしてみながら、基地撤去という解を隠してきたのがこれまでのあり方であり、それを助長しているのが大手メディアであることについては、あえて言うまでもないだろう。
次の特集は、やんばるの森における林道建設や、高江・辺野古の基地建設についてとりあげている。特に自分にとって有難かったのは、林道建設の現況に関する報告である。90年代までの大国林道(大宜味から国頭なので大国)建設以来、大皆伐は影を潜めてはいるが、実際のところ支線がどんどん拡大していて、まったく森林破壊が止まっていないことが示されている。ここで指摘されるのは、
○事業のための事業が行われている。イタジイなどの照葉樹林(ブロッコリーの森)が伐採され、かわりにイスノキやイジュが必然性なく新植されている。この、破綻が明らかな樹種転換は、30年前の本土の林業と同じである。
○これは森林整備事業としてなされており、補助金に過度に依存したあり方になっている。
○ヤンバルクイナ交通事故問題や(実際に効果が不明な)マングース捕獲キャンペーンにばかり、情緒的に対応するのは問題である。ヤンバルクイナが森を追われるなら、その森のあり方をこそ問うていかなければならない。
○世界遺産の水準を持つ森林生態系であり、IUCNの視察や洞爺湖サミットでの発信なども対策に加えたい。
といったところだ。もっとも、補助金に依存した林業の形は沖縄に限った話ではない。補助金がヘクタールあたり幾らとかいった指摘よりも、補助金適用のあり方こそが問題なのではないか、というのが、自分が最も気になった点である。要は、単純に「育成複層林」などのカテゴリーで規定するのではなく、森林の重要さや特徴をもっと優先する仕組が必要ではないか、ということである。実際、このように、補助金を得て、枝打ちや間伐などの森林経営をしなければならない森林が一般的だと思う。
辺野古の件については、真喜志好一氏が、米国国防省に厳しい判決となったジュゴン訴訟や、今回のアセスの破綻について詳述している。また、高江の件については、高江住民の方々や真喜志氏や議員が防衛省に要請した議事録が掲載されている。このなかで、ヘリパッドが、オスプレイ配備を念頭においていると考えられるほど異様に丁寧に作られていることが、真喜志氏によって指摘されていることが、特筆すべき点だ。
【参考】
●『けーし風』読者の集い(4) ここからすすめる民主主義
●『けーし風』2007.12 ここからすすめる民主主義、佐喜真美術館
●『けーし風』読者の集い(3) 沖縄戦特集
●『けーし風』2007.9 沖縄戦教育特集
●『けーし風』読者の集い(2) 沖縄がつながる
●『けーし風』2007.6 特集・沖縄がつながる
●『けーし風』読者の集い(1) 検証・SACO 10年の沖縄
●『けーし風』2007.3 特集・検証・SACO 10年の沖縄