渋谷毅+川端民生『蝶々在中』(Carco、1998年録音)を発売日から聴いている。何しろ、故・川端民生とのデュオであり、聴かないわけにはいかない。渋谷毅オーケストラでも浅川マキの歌伴でもいつもいたベーシストであり、独特のアナーキーなエレキベースや、リズムも何もあったものじゃない手拍子が大好きだった。風貌も只者ではなく、新宿ピットインに向かう途中でエレキベースを肩にかけた氏に遭遇し、何だか気圧されてしまった記憶がある。
この録音では、エレキベースでも手拍子(笑)でもなく、ウッドベースを使っている。こうなるとまた個性が違ってくるのが面白い。大胆というのでもなく、過激というのでもなく、もちろん程良いというのでもなく、そこにいて音楽を奏でているという感覚、これが中央線だ。
アケタの店には川端民生の写真が貼ってある
渋谷毅のピアノもいつも通りである。マンネリではなく、いつも違うのだが、いつも同じ。一聴して渋谷毅だとわかる、循環する展開と独特の和音。
「蝶々(てふてふ)」と「が、とまった」というオリジナル曲ではノンシャランとした世界を披露する。「There Will Never Be Another You」では、なぜか即興のメロディが天才アケタこと明田川荘之のものに聴こえて仕方がない(何でかな)。「You Don't Know What Love Is」は2つの演奏を収めており、それぞれアプローチが異なって比較が愉しい。そして手癖の「Lover Man」と「Body And Soul」を経て、「Misterioso」では、正直に攻めたソロピアノ『渋やん』(1982年録音)とは異なり、まるで全盛期のリー・コニッツのように最後まで主メロディを隠す工夫を見せる。
締めくくりの「無題」のみソロピアノであり、浅川マキとのライヴでも、ピアノソロ『Afternoon』(2001年録音)でも、宮澤昭とのデュオ『野百合』(1991年録音)でも、広木光一とのデュオ『So Quiet』(1998年録音)でも、もう限りなく弾いてきたのだろうという曲。なぜか「Beyond The Flames」と題していることもあり、何か意図的に使い分けているのかどうかわからない。やはりいつも通り、沁みてしまうのだった。
●参照
○見上げてごらん夜の星を
○渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン
○渋谷毅のソロピアノ2枚
○カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
○浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』
○浅川マキの新旧オフィシャル本
○宮澤昭『野百合』