ニコラス・フンベルト&ヴェルナー・ペンツェル『Brother Yusef』(2005年)のDVDを観る。ユセフ・ラティーフはこのとき84歳、田舎に引き籠ってたくさんの楽器とともに暮らしている。マエストロではあるが、あまりにも怪しいテナーサックスの音は、彼の評価をぐらつかせている、おそらく。そのラティーフが、自宅の扉を開けてくれたという作品である。
ジョン・コルトレーンについての思い出話。亡くなる2週間前にラティーフの家に来て、新しい家を物色する相談なんかをしていて、ラティーフはコルトレーンが病気であることを知らなかったのだ、という。涙目になっている。
室内、独りでのテナーサックスやフルートの演奏はもちろん見所で、怪しい音色は健在だ。ピアノを弾きながら、「時には母のない子のように」を歌ったりもする。そして、キャノンボール・アダレイのセクステット在籍時、1962年のライヴ映像が挿入される。ラティーフはフルートとバスーンを吹く。このブルージーな面々とキャノンボールの笑うアルトサックスと組むと、なおさらラティーフのヘンさが浮いてくるようだ。
そんなわけで面白いものではあったが、何しろ眠くなる。野外での奇妙な自作詩「Leaves」の朗読やレストランでピザを齧る姿はいいとして、暗い室内での精神論、しかも結構な時間は考えこんで黙っている。奇妙な男の胃の中で溶かされたような気分である。フンベルトとペンツェルは、フレッド・フリスらを追った傑作『Step across the Border』(1990年)を撮ったコンビではあるが、これはとても傑作とは言い難い。充分に睡眠を取って、余裕のあるときにまた観ることにしよう。