チック・コリアが苦手で、それというのも、『リメンバリング・バド』だとか『星影のステラ』だとか、何やら商売狙いの作品を連発されてウンザリしたことによる。数少ない例外は、アコースティック・バンドによるピアノトリオの『Live From The Blue Note Tokyo』(STRETCH、1992年)で、こればかりは愉しくて昔から聴いている。最近何かの雑誌のジャズ特集で、上原ひろみのフェイヴァリットでもあるそうで、わが意を得たりと嬉しくなってしまった(ミーハーか!)。
この録音の目玉は、ドラムスにヴィニー・カリウタが入っていることだ。フランク・ザッパやスティングなどのバンドで叩いていたジャズ畑外のドラマーであり、自分もこのときはじめて存在を知った。彼の野人ぶりと、チック、ジョン・パティトゥッチのテクニシャンぶりとが衝突して、スポーツのようだと言えばスポーツにも音楽にも失礼かもしれないが、まさに聴くたびに心が浮き立つ時空間が出来上がっているのである。
1992年11月、ブルーノート東京開店4周年記念ライヴだそうで、当然移転前、まだわずかに親しみを持てるハコだったころだ。外で待って出演者たちと話すこともできた。パット・マルティーノ、エリック・アレキサンダー(彼に頼んでマルティーノのいる楽屋に入れてもらったのである)、ジャッキー・マクリーン、ケニー・カークランド・・・、もう鬼籍に入った人もいる。残念ながら、学生だった自分には高嶺の花、このときのチック・コリアの演奏は観にきていない。
そんなわけで、昨日新宿でライヴDVDを発見し、一も二もなく確保した。プライヴェート盤であり、よく見ると当時BSで放送された映像である。CDにもDVDにも1992年11月とあるのみ、おそらく何回かの日・ステージから抜粋したものだろう。
CDと同じ演奏は「Humpty Dumpty」、「Tumba」、「New Waltse」の3曲で、その他に「'Round Midnight」、「Miniature No.3」、「Spain」が収録されている。逆にCDの方には「With A Song In My Heart」、「Chasin' The Train」、「Summer Night」、「Autumn Leaves」が入っている。CDに選曲されなかったからといって 何かが劣っているわけではない。
動く姿を観ると、なおさら3人それぞれの凄さを体感できて、文字通り眼も耳も離せない状態になる。全盛期のヴァンダレイ・シウバのように、闘うのが愉しくて仕方ない様子のヴィニー・カリウタは喜悦の表情を浮かべて叩きまくっている。チックとパティトゥッチは、それに対し、まるでヤンチャな子どもを手なずける大人のように余裕の技術と技を繰り出し続ける。何しろ、チックはこのとき、来日後にエレピを突然弾きたくなって急遽取り寄せたのだというから、モチベーションも高いところにあったわけである。フェンダー・ローズとピアノとを玩具のように使い分ける、チックはこんなのがいいね。