Sightsong

自縄自縛日記

ロバート・J・フラハティ『極北のナヌーク』、『日本人イヌイット 北極圏に生きる』

2011-10-16 21:59:12 | 北米

ロバート・J・フラハティ『極北のナヌーク』(1922年)が思いのほか面白かった(DVDを250円で買った)。最初の日本公開時には『極北の怪異』というひどい邦題が付いていたが、戦後、GHQの占領地政策の一環として東京で再公開されたときに、原題に近いこの邦題に変えられている。ドキュメンタリー映画史に名を残すサイレント作品である。

映画の舞台はカナダのハドソン湾岸の地域である。先住民族イヌイットはカナダ、アラスカ、グリーンランドの一部に居住しており、エスキモーという「生肉を食う者」という呼称を拒否している。そのため、この映画でも日本語字幕ではすべて「イヌイット」表記に変えられている。

とは言え、実際に彼らは昔も今もアザラシセイウチの生肉を食べるのであり、このフィルムでも、銛で突いて殺したその場で解体し、凍る前に貴重な栄養源として食べている姿が捉えられている。もちろん問題はそれを特出させて呼んだ視線にある。当時、米国人フラハティが撮った同じ大陸の生活の様子を、米国人たちはどのように観たのだろう。

サイレントながら、目が釘付けになる映像の数々だ。セイウチが群れで眠っているとき、一頭だけ起きて見張りをしている奴に気付かれないよう近づき、銛で突く。あまりにも重く、大勢でその一頭のみを引きずりあげる(『おおきなかぶ』のようだ)。アザラシは定期的に氷の空気穴の下に寄ってきて呼吸するため、待ち構えて、やはり銛で突く。糸の先にセイウチの牙をルアー代わりに付け、鮭を引っかけて、これも銛で突く。そして毛皮が貨幣経済に取り込まれる。

イグルーという丸い家の作り方も面白い。ナイフで雪の塊を切りだして器用に積みかさねていき、隙間を雪で埋める。一か所だけ氷を使い、これが明り取り窓になる。これが1時間くらいで終わるそうで、寝るときには、飢えた犬が子犬を食べないよう、一緒に入れるのである。

ところで、カナダよりもさらに北、グリーンランドの地球最北の村に、日本人一家が住んでいる。NHKスペシャルで2011年8月に放送された『日本人イヌイット 北極圏に生きる』(>> リンク)で、その様子を紹介していて、かなりの驚きではあった。この人は、大学の探検部時代に訪れたこの地の生活の虜になり、猟師に弟子入りし、いまでは孫が小学校に通っている。

彼らはもはやイグルーではなく家に住んでいる。十年以上前に近くに発電所ができ、子どもたちは家の中でゲームをして遊んでいる。アザラシやセイウチを獲るのは銛ではなく銃である。そして最大の驚きは、なんと長い棒の先に付けた網で、岩場すれすれを飛ぶアッパリアスという鳥を獲る姿だった。

こんな生活を見せられると、もちろん苦しいことは多々あるのだろうけど、都市住民の自分は何をやっているのだろうという気になるね。


ペーター・ブロッツマン@新宿ピットイン

2011-10-16 09:31:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

ペーター・ブロッツマンが来日していて、「生誕70周年記念ツアー」と銘打たれている。最近も頻繁に日本で演奏しているにも関わらず、もう何年もブロッツマンの演奏に接していないこともあり、ようやく新宿ピットインに足を運んだ(2011/10/15)。

ペーター・ブロッツマン(sax, cl)
ポール・ニルセン・ラヴ(ds)
フレッド・ロンバーグ・ホルム(cello)
ジム・オルーク(g)
八木美知依(21弦箏、17弦箏)

脳内にある姿と比べると、随分と歳を取ったものだなあと思う。たぶん90年代後半に観て以来(ヨハネス・バウアーとのデュオ、羽野昌二とのバンド、近藤等則とのデュオなど)であるから、当時のブロッツマンは50代だったはずだ。この日、ブロッツマンは主にテナーサックスを吹き、1曲ずつ、メタルクラリネットとアルトサックスを手にした。主観的な印象に過ぎないが、暴力的なほどのエネルギーは多少減じているように思えた。それにしても、70歳にしてあのブロウはあり得ない、驚愕にあたいする。

エネルギーの放出というなら、はじめて演奏に直接接するポール・ニルセン・ラヴのドラミングである。叩く1音1音あたりの音圧が凄まじく、石矢のように突き刺さってくる。ジョシュ・バーネットかというほどの筋骨隆々とした体躯、これは格闘技だ。居合わせた@Cat Cooperさん@Eigen Kinoさんも、普段よりもパワープレイに徹していたと圧倒されていた。やっぱり演奏家の個性を体感するにはライヴに尽きる。

もちろん他3人の共演者の演奏も愉快で、座った場所も良かったのか、全員の音が同レベルで耳に入ってきて至福だった。八木さんの21弦箏はまるでエレピのようでもあり・・・。

ちょうど来ていた評論家の横井一江さんに、ミシャ・メンゲルベルグのポストカード(『アヴァンギャルド・ジャズ』の表紙)を貰ってしまった。ウフフ。


ニルセン・ラヴにサインを頂いた

●参照 
ペーター・ブロッツマン
エバ・ヤーン『Rising Tones Cross』(ブロッツマン参加)
セシル・テイラーのブラックセイントとソウルノートの5枚組ボックスセット(ブロッツマン参加)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(ブロッツマン参加)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(ブロッツマン参加)
ジョー・マクフィーとポール・ニルセン・ラヴとのデュオ、『明日が今日来た』
4 Corners『Alive in Lisbon』(ニルセン・ラヴ参加)
横井一江『アヴァンギャルド・ジャズ ヨーロッパ・フリーの軌跡』