Sightsong

自縄自縛日記

張芸謀『帰来』

2014-11-09 23:09:04 | 中国・台湾

張芸謀の最新作『帰来』(2014年)を、インターネット配信で観る。

文化大革命末期。余(コン・リー)の夫の陸は、長いこと政治犯として獄中にある。娘の丹丹は、そのために、ダンスの主演を務めることができないでいた。ある日、陸が逃走し、余の待つ家へとやってくる。余には、物音も、静かに回るドアノブも、夫によるものだということがわかる。ドアには鍵がかかっていた。そして丹丹が帰宅する。文革思想に染まっていた丹丹は、父と母とがともに逃げようとすることを当局に密告する。

3年後。文革が終わり、陸も還ってくる。しかし、精神的なダメージを受けている余には、陸のことがわからない。父娘が何を試みても無駄。陸は、かつて自分が書き、届けられることがなかった大量の余への手紙を、他人として余に読み聞かせてやる。その中に、娘と仲直りせよと新しいメッセージを紛れ込ませたりしながら。

何年経っても、余は、夫の手紙に「5日に還る」とあったことを頼りに、毎月、夫が帰還してこぬかと駅に通い続ける。夫の陸とともに。

『サンザシの樹の下で』(2010年)に続く、張芸謀の文革物である。如何に中国人にとって、文革が精神的な傷となっているのかを思い知らされてしまうのだが、それも、かつて、語ること自体がなかなか許されなかったからでもあるだろう。謝晋『芙蓉鎮』(1987年)や陳凱歌『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993年)といった例外はあっても、田壮壮『青い凧』(1993年)や張芸謀本人による『活きる』(1994年)は、共産党政策への批判だとみなされ、中国国内での上映が不可能であった。

本作では、人生の20年を台無しにされた陸や、それによって精神に変調をきたす余や、幼少時から差別を受ける丹丹は、その不満を政府に訴えることもなく、また、報いられることもない。張監督による当局への配慮というよりも、ありのままの文革を見せたかったのではないかと思えてならない。

逃走してきた夫のもとに行こうとする前の晩、余はゆっくりと粉をこね、饅頭を蒸す。翌日、駅では、当局に阻まれ、夫の手を握ることさえできず、せっかくの饅頭が陸橋の上に散乱する。また、その後、余はドアの横に「鍵は掛けないこと」と書いて、ずっと貼っている。

もう心が千切れそうである。映画巧者だということはわかっていても、心を動かされてしまう。

張芸謀
『紅いコーリャン』(1987年)
『菊豆』(1990年)
『紅夢』(1991年)
『活きる』(1994年)
『上海ルージュ』(1995年)
『初恋のきた道』(1999年)
『至福のとき』(2000年)
『HERO』(2002年)
『LOVERS』(2004年)
『単騎、千里を走る。』(2006年)
『サンザシの樹の下で』(2010年)


万年筆のインクを使うローラーボール

2014-11-09 15:39:40 | もろもろ

ペンをよく使う。

筆圧が強くないわたしにとって、素早くたくさん書くためには万年筆がベストだということに気付いたのは、割に最近のことだ。

一方、万年筆はそれなりに使い方に気をつかうため、ボールペンやローラーボールも持ち歩く。昔ながらの油性ボールペンは書き味が悪く手が疲れる(もっとも、最近では三菱鉛筆のジェットストリームなど素晴らしいものがある)。ローラーボールはすらすら書けて好みだが、日本では主流ではなく品数が多くない。

ローラーボールには、できれば万年筆のインクを使いたい。フランスのエルバンが廉価なものを出しており、試したこともあるが、書き味が硬く、インクフローが渋い。しかも、残念なことに、カートリッジ専用である。ヴィスコンティやオマスといったイタリアの万年筆メーカーが、このようなものを出していることは知っているが、あまり出回っておらず、値も張る。

ローラーボールを巡る悩みは以上のようなものだが、最近、蔵前にある「カキモリ」という手作りノートの店が、万年筆のインクを用いる廉価なローラーボールを出したと聞き、早速訪ねて2本手に入れた。コンバーターが付いて1700円ちょっと、良心的。なお、この界隈には、わたしが遠出用に愛用する鞄を作っている「エミピウ」もある。

せっかくの透明軸なので、普段よりも鮮やかな色を使おうと思って、パイロットの「色彩雫」シリーズの「月夜」を詰めた。なお、万年筆とは違い、ペン先からではなく、コンバーター単体でインクを吸入する。インクがペン先まで浸みるのを待って使ってみると、確かにインクフローが良くて快適。文字には万年筆のように濃淡がある。これは嬉しい。

明日からの実戦投入が楽しみである。


月夜とローラーボール2本


ペン先とキャップ


パイロットの透明軸万年筆「カスタムヘリテイジ92」と並べても違和感がない

●参照
万年筆のペンクリニック
万年筆のペンクリニック(2)
万年筆のペンクリニック(3)
万年筆のペンクリニック(4)
万年筆のペンクリニック(5)
万年筆のペンクリニック(6)
本八幡のぷんぷく堂と昭和の万年筆
沖縄の渡口万年筆店
鉄ペン
行定勲『クローズド・ノート』
モンゴルのペンケース


ロイ・ローランド『Mickey Spillane / The Girl Hunters』

2014-11-09 09:28:09 | 北米

ロイ・ローランド『Mickey Spillane / The Girl Hunters』(1963年)を観る。

何しろ、パルプ・フィクションの原作者ミッキー・スピレイン自身が、探偵マイク・ハマーを演じているというのだから、好奇心を抑えないほうが難しい。そんなわけで、ついDVDを入手してしまった。

題材として冷戦を取り入れてはいるものの(スピレイン本人も共産主義の脅威を喧伝する人だった)、映画の99%は、妄想的なフッテージが寄せ集められている。

夜の街。酒場のチンピラ。残酷な殺し方。簡潔でぶっきらぼうな話し方(最後に「Why not?」が大好き)。男性至上主義。お色気シーン(いまいち、スピレインに「lovely girl」と言わせる割には魅力的でもないが、趣味の違いか)。ああ、アホらしい。

それにしてもスピレインはガッチリした体格をしているな。本人もパルプを地で行くような生活をしていたのだろうか・・・そんなわけはないね。

あれ?ジョン・ゾーンがスピレインに捧げた連作のジャケットは、この映画のスチル写真?

●参照
ミッキー・スピレイン、ジョン・ゾーン