平井康嗣『101匹目のジャズ猿』(吉備人出版、2017年)を読む。
先日病院を抜け出してレコ屋に行ったら古本棚にこの本。何気なくめくってみると、フリー・即興の面々の名前が飛び込んでくる。本も音楽も出逢いである、これは読まねばならないと連れて帰った。
著者の平井さんは岡山の人。高校生のときにジャズ喫茶でバイトを始め、その後、レコード店などを経営しつつ、国内外の音楽家たちのライヴを企画運営したり、あちこちに文章を寄稿したりと、まさにジャズ愛の人生。
「地方都市でも」ということではない。その場でこそのジャズということである(ジャズが本来そうであるように)。つまり、海外や東京から招へいするばかりでなく、多田誠司、コジマサナエ、川島哲郎、及部恭子といった人たちの若い頃からの活動を見守り、外に知られざる人たちも少なくないという。さらに近場の地域、たとえば山口のちゃぷちゃぷ、松江のウェザーリポートと連携している(大傑作『姜泰煥&サインホ・ナムチラック』は1993年にここで録音された)。また、リトル・ジミー・スコットの2000年の初来日公演については、なんとこの平井さんが仕掛け人だったのだ。思いによって駆動され続けてきた、とても豊かな姿を垣間見せていただいた感じである。
そのときのスコットを含め、ここに書かれた岡山でのギグと同時期に、わたしも東京で観たライヴのことをあれこれと思い出させられる。リー・コニッツ。ペーター・ブロッツマンと羽野昌二とヨハネス・バウアー。武満徹追悼のリッチー・バイラーク(世田谷美術館では武満の曲は弾かなかったけれど)。菊地雅章とグレッグ・オズビー。ダニエル・ユメールとマルク・デュクレとブルーノ・シュヴィヨン。デイヴィッド・マレイ。ダスコ・ゴイコビッチ。エルヴィン・ジョーンズ(とケイコ夫人)。
もちろんそれ以外の、ああ、羨ましいなあというギグが数多く書かれている。少なくとも80年代からナマのフリー・即興シーンに触れたかったな(わたしが東京で覗き始めたのは90年代半ばである)。面白くて少し熱くなってしまった。