Sightsong

自縄自縛日記

セシル・テイラー『Corona』

2018-06-04 15:09:59 | アヴァンギャルド・ジャズ

セシル・テイラー『Corona』(FMP、1996年)を聴く。

Cecil Taylor (p, voice)
Sunny Murray (ds)
Dominic Duval, Tristan Honsinger, Jeff Hoyer, Chris Jonas, Jackson Krall, Elliott Levin, Chris Matthay, Harri Sjöström (voice)

最初はドミニク・デュヴァルやトリスタン・ホンジンガーらがステージ上で面白い動きでもしていたのだろうか、観客のちょっとした笑いが聴こえてくる。5分あまり、かれらは思い思いにざわめきを作り出す。

そこからの48分間にはただただ圧倒される。セシル・テイラーは絶えず何か大きなものを構築し、それが崩壊しようと残っていようと、ひたすらに再び何か大きなものを構築する。ときにその動きは縦方向ではなく横方向にも化す。硬質な建築士であるだけではない。新鮮なウニを腐らせ溶かすかのような魔の液も放ち、構築した伽藍など大したことではないと言わんばかりのサウンドさえも垣間見せてくれる。そしてサニー・マレイはテイラーの動きと並行していつまでも献身する。

それが過ぎて、最後の7分間、テイラーは涼しい顔で言葉を放つ。最後には「motion... motion...」、「time... time...」と。なんて人だろう。

●セシル・テイラー
セシル・テイラー+田中泯@草月ホール(2013年)
ドミニク・デュヴァル セシル・テイラーとの『The Last Dance』(2003年)
セシル・テイラー+ビル・ディクソン+トニー・オクスレー(2002年)
セシル・テイラーの映像『Burning Poles』(1991年)
セシル・テイラー『The Tree of Life』(1991年)
セシル・テイラー『In Florescence』(1989年)
ザ・フィール・トリオ『Looking (Berlin Version)』(1989年)
1988年、ベルリンのセシル・テイラー
イマジン・ザ・サウンド(1981年)
セシル・テイラーのブラックセイントとソウルノートの5枚組ボックスセット(1979~1986年)
セシル・テイラー『Michigan State University, April 15th 1976』(1976年)
セシル・テイラー『Dark to Themselves』、『Aの第2幕』(1969年、76年)
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ(1968年)
セシル・テイラー『Live at the Cafe Montmartre』(1962年)
セシル・テイラー初期作品群(1950年代後半~60年代初頭)


安岡章太郎『街道の温もり』

2018-06-04 14:03:16 | 思想・文学

神楽坂には神楽坂サイクルという自転車屋さんがあって、なぜか店頭の木箱で古本を売っている。前から気にはなっていて、先日、なんとなく、安岡章太郎『街道の温もり』(講談社、1984年)を200円で買った。1980-82年に書かれたエッセイをまとめたものだった。

なんの期待もせずに読んでみたようなものだけれど、なかなか面白く、はっとさせられる箇所が少なくない。

安岡章太郎の故郷は高知県であり、もとは土佐藩士の家系である。だが幼少時からあちこちを転々としていたため、自身の田舎に対する思いは複雑である。その中には憎しみに似たものもあって、「自己嫌悪に似た郷土嫌悪のようなもの」とまで書いている。郷土の重力への嫌悪や距離感、郷土に執着することへの違和感は、本書のあちこちに噴出している。おそらくそれは百パーセント割り切れる感覚でなかったからでもあるだろう。

これが(日本の?)古くねっとりと粘着して綺麗さっぱりとはならない思想のベースにあることは、「イヤな軍隊」というエッセイを読んでもわかる気がする。安岡曰く、「軍隊」とは日本軍そのものにとどまらず、「日本社会の原像とでも言うべきもの」であった。

「では、軍隊が”病気”でないとすると、何なのか? それは内面的には、私たちの一人一人が背負っている過去の一部であり、外面的には、私たちの家庭や、や、農村や、都会や、国家や、そういうもののあらゆる要素を引っくるめた日本社会の原像とでも言うべきものかと思われる。」

ここでいう「軍隊」はいまの「日本社会」や「組織」とはそうは変わらないと言ってもいいのだろう。

面白いことに、安岡も、他の軍隊に属していた者も、『戦陣訓』(1941年)をことさらに戦後に取り上げることに白けていたという。そこに書かれ政府から指導されたという事実についてではない。それが、当たり前のように浸透していたからであった。何も東條英機に登場してもらわなくてもよいということである。これもまた、「軍隊」が「日本社会の原像」と重なってしまうことに他ならない。

「「生きて虜囚の恥づかしめを受くることなかれ」などと、あらためて言われなくとも、いったん敵の捕虜になれば、たとえ原隊に帰ってきても自決させられるものと覚悟しなければならなかったし、仮りにそれを許されて無事に除隊することが出来たとしても、郷里に帰れば村八分のような目にあうだろうし、ちゃんとした所には就職もできない、生涯、兵歴をかくしたまま、大都会の片隅か、日本人の誰もいないような外地ででも暮らすより仕方がない、そういうことは、当時は兵隊でなくても一般市民が常識として誰でもが心得ていた事柄である。」


ピーター・エヴァンス+ウィーゼル・ウォルター『Poisonous』

2018-06-04 09:25:29 | アヴァンギャルド・ジャズ

ピーター・エヴァンス+ウィーゼル・ウォルター『Poisonous』(ugEXPLODE Records、2018年)を聴く。

Peter Evans (tp)
Weasel Walter (ds)

このふたりのデュオというだけでただごとでないが、なるほど、サウンドは看板を凌駕している。

確かに何が行われているのかよくわからない。各々が放つ強い音が重ね合わされ、ずらされ、また強引に接着されている。演奏の場でのエフェクトがどこまで行われ、その後の編集(ウィーゼル・ウォルター)による操作がどこまで行われたのだろう。

圧倒されつつも、方向性としては想定内とも言える。ピーター・エヴァンスは、ジャズでもインプロでも構造を意地悪く意図的に解体再構築してきたわけであるし、それをさらに押し進める役としてウォルターという相方は恰好の爆薬であったに違いない。その解体再構築の末に、物語からアトムそのものになったわけである。そしてそれを可能にしているのは、エヴァンスの強靭なフィジカルと演奏技術である。このあたりのヴェクトルはCPユニットとも共通していて、では次に何が待っているのか、それにこそ興味がある。

●ピーター・エヴァンス
マタナ・ロバーツ「breathe...」@Roulette(2017年)
Pulverize the Sound、ケヴィン・シェイ+ルーカス・ブロード@Trans-Pecos(2017年)
ピーター・エヴァンス『House Special』(2015年)
Pulverize the Sound@The Stone(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
トラヴィス・ラプランテ+ピーター・エヴァンス『Secret Meeting』(2015年)
ブランカート+エヴァンス+ジェンセン+ペック『The Gauntlet of Mehen』(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
チャン+エヴァンス+ブランカート+ウォルター『CRYPTOCRYSTALLINE』、『Pulverize the Sound』(2013、15年)
PEOPLEの3枚(-2005、-2007、-2014年)
ピーター・エヴァンス『Destiation: Void』(2013年)
ピーター・エヴァンス+アグスティ・フェルナンデス+マッツ・グスタフソン『A Quietness of Water』(2012年)
『Rocket Science』(2012年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
ピエロ・ビットロ・ボン(Lacus Amoenus)『The Sauna Session』(2012年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)

ピーター・エヴァンス+サム・プルータ+ジム・アルティエリ『sum and difference』(2011年)
ピーター・エヴァンス『Ghosts』(2011年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)
オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス+スティーヴ・ベレスフォード『Check for Monsters』(2008年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 

●ウィーゼル・ウォルター
CPユニット『Before the Heat Death』(2016年)
ウィーゼル・ウォルター+クリス・ピッツィオコス『Drawn and Quartered』(2014年)
チャン+エヴァンス+ブランカート+ウォルター『CRYPTOCRYSTALLINE』、『Pulverize the Sound』(2013、15年)
クリス・ピッツィオコス『Maximalism』(2013年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)
マーク・エドワーズ+ウィーゼル・ウォルター『Solar Emission』(2011年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)