Sightsong

自縄自縛日記

済州島四・三事件69周年追悼の集い〜講演とコンサートの夕べ

2017-04-23 20:51:10 | 韓国・朝鮮

日暮里サニーホールにて、「済州島四・三事件69周年追悼の集い〜講演とコンサートの夕べ」(2017/4/22)。

これまでも開かれていたことは認識していたがなかなか足を運べず、今回がはじめてである。会場には永田浩三さん(武蔵大学)もいらしていて、ご挨拶し、隣の席にお邪魔した。永田さんが済州島を訪れたときのこと、また、三河島コリアンタウンのこと祝島と済州島の塀が似ているとの話、吉田清治さんのこと(伊藤智永『忘却された支配』)など、いろいろなお話をした。

また、会場の後ろの方には、金石範さんの姿もみえた。

<第1部>「済州島四・三事件」民衆抗争としての意味を問う/朴京勲(済州道文化芸術財団理事)

<第2部>証言と歌でつづる「眠らざる島の或る物語」/歌:千恵LeeSadayama(藤原歌劇団ソプラノ歌手)、ピアノ:朴勝哲、語り:金順愛、松岡晢永(俳優)

朴京勲さんは版画作家でもあり、ロビーでは作品の展示がなされていた。この日通訳をつとめた李リョンギョンさんは「済州島四・三事件と江汀海軍基地問題 入門編」(2013年)で講師を務めていた方だった。

朴さんが挙げたキーワードは5つ。

1、パルゲンイ(アカ)。韓国で戦後アカと言われることは死を意味したわけだが、朴さんは、これを差別と排除の烙印だとする。朝鮮時代後期には「叛徒」、植民地時代には「不逞鮮人」、そして米軍政時代には「パルゲンイ」。アメリカは済州島の住民の多くをパルゲンイだとみなし、焦土化作戦(海岸線から5kmより内陸に居るすべての者を「害虫」とみなす)によってその1割を虐殺したのだった。重要なポイントは「線引き」。すなわち、「パルゲンイの被害者」は死んでも構わない存在であることを前提としており、「無辜な被害者」の関係者の側に入る者は安堵した。

2、位牌。済州島の四・三平和公園には被害者1万4200人ほどの名前が刻まれた位牌が祀られている。しかし、この中には、「暴徒の主導者」の名前は入っていない(金達三、李徳九ら)。かれらは犠牲者扱いもされていない。2008年に李明博政権が発足して以降、さらに、いまの「犠牲者」の中にもパルゲンイがいるとの攻撃がはじまったのだという。

3、武装蜂起。四・三事件は、反米救国運動であり、自衛的闘争であった。短期的には前年の1947年3月1日にデモ市民に警察が発砲した三・一事件以降、長期的には1945年8月15日の解放以降。また、抵抗の対象は米軍や警備隊ではなく、警察や(本土から送り込まれた右翼暴力団の)西北青年団だった。もとより権力奪取のためではなく、1948年5月10日の南側単独選挙を祖国分断につながるものとして無効化するためのものだった。1948年4月28日には平和会談がなされたのだが、それは決裂した。

4、5・10単独選挙、単独政府反対。済州島での反対により、全国200の選挙区のうち、済州島の2箇所のみが無効となった。平和会談の決裂は、この南側単独選挙に傷をつけられたことへの怒りによるものではなかったか。

5、死者たち。このように抵抗した者を、死んでまでも差別するのか。死んでまでも討伐するのか。死者を売る者がいるということではないか。

こういったことを踏まえ、朴さんは、以下の2つの課題があるとする。

1、加害者の究明。これが曖昧なままである。処罰のためではなく真相究明のため、具体的に、責任者、命令を下した者、手を下した者を明らかにすべきである。そのために、「抵抗権」を行使したのだということを位置付けたい。

2、白碑。済州島の四・三平和記念館の入り口には、「四・三白碑」があるという。いまだ刻む言葉が明確ではないということである。

朴さんは、70周年のスローガンは、「歴史に正義を!四・三に正名を!」だとする。これはまさに、歴史修正主義が跋扈する日本にも共通して求められる視線ではあるまいか。なお、四・三事件については、1988年に東京ではじめて追悼式典が行われ、それが歴史究明の先鞭をつけた面もあるのだという。

いまの問題意識や、日本にも通じる歴史修正主義への抵抗など、新たな視点を与えてくれる講演だった。

朴京勲さんの版画作品

●参照
『済州島四・三事件 記憶と真実』、『悲劇の島チェジュ』
オ・ミヨル『チスル』、済州島四・三事件、金石範
文京洙『済州島四・三事件』
文京洙『新・韓国現代史』
金石範、金時鐘『なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか 済州島四・三事件の記憶と文学』
金石範講演会「文学の闘争/闘争の文学」
金石範『万徳幽霊奇譚・詐欺師』 済州島のフォークロア
金石範『新編「在日」の思想』
水野直樹・文京洙『在日朝鮮人 歴史と現在』
済州島四・三事件と江汀海軍基地問題 入門編
金時鐘講演会「日本と朝鮮のはざまで」
金時鐘『朝鮮と日本に生きる』

金時鐘『境界の詩 猪飼野詩集/光州詩片』
細見和之『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』
『海鳴りの果てに~言葉・祈り・死者たち~』
『海鳴りのなかを~詩人・金時鐘の60年』
梁石日『魂の流れゆく果て』
(屋台時代の金石範)
仲里効『悲しき亜言語帯』(金時鐘への言及)
林海象『大阪ラブ&ソウル』(済州島をルーツとする鶴橋の男の物語)
金賛汀『異邦人は君ヶ代丸に乗って』(済州島から大阪への流れ)
藤田綾子『大阪「鶴橋」物語』
鶴橋でホルモン(与太話)
三河島コリアンタウンの伽耶とママチキン
尹東柱『空と風と星と詩』(金時鐘による翻訳)
『越境広場』創刊0号(丸川哲史による済州島への旅)
徐京植、高橋哲哉、韓洪九『フクシマ以後の思想をもとめて』(済州島での対談)
新崎盛暉『沖縄現代史』、シンポジウム『アジアの中で沖縄現代史を問い直す』(沖縄と済州島)
宮里一夫『沖縄「韓国レポート」』(沖縄と済州島)
長島と祝島(2) 練塀の島、祝島(祝島と済州島)
野村進『コリアン世界の旅』(つげ義春『李さん一家』の妻は済州島出身との指摘)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(「Nostalgia for Che-ju Island」)
吉増剛造「盲いた黄金の庭」、「まず、木浦Cineをみながら、韓の国とCheju-doのこと」
「岡谷神社学」の2冊


ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス

2017-04-23 19:45:32 | アヴァンギャルド・ジャズ

渋谷の公園通りクラシックスにて、ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅(2017/4/22)。

Heinz Geisser (ds)
Guerino Mazzola (p)
Naoki Kita 喜多直毅 (vln)

ファーストセット、1曲目。マッツォーラは内部奏法からはじめ、喜多さんもゆるりとヴァイオリンを合わせてゆく。マッツォーラの指はまるで猫を高速で撫でるようであり吃驚する。ヴァイオリンは微分音から次第に音を伸ばしてゆき、まるで遠くから彗星が軌道に乗ってきては去っていくような音も放つ。その策動に対しマッツォーラが笑う。やがて、マッツォーラの合図により、突然演奏を終える。 

2曲目。ヴァイオリンの不審な音に対し、ガイザーがシンバルを擦る。見つめるマッツォーラ、そして地響きのするような内部奏法。喜多さんはヴァイオリンを指ではじき、ガイザーも叩き、マッツォーラは力強くピアノを弾く。またしてもマッツォーラが人差し指にて不敵な指示を出す、躍れと言うかのように。喜多さんも呼応する。3人の演奏は激化してゆき、まるでそれはチキンレース。

セカンドセット、1曲目。ヴァイオリンが調子はずれの奇妙なメロディーを奏でる。ガイザーは手で太鼓を叩き、マッツォーラはぽろんぽろんと鍵盤を叩く。3人はやがて同じ方向へと進み始めるが、やはり演奏は突然終わり、皆が笑う。

2曲目。ヴァイオリンの破裂音からの官能的な音。マッツォーラは笑いながらピアノの弦を端から端まで順番に鳴らしてゆく。ここで、マッツォーラが美しいメロディーを弾き、ガイザーがマラカスを振り、喜多さんが小鳥の声のような音を発する、ピークが訪れた。しかし、3人の進む方向はそれぞれ別れてゆく。なんとか収斂を目指すサウンド、ここにきてドラムスがフルスロットル、キレが凄い。マッツォーラの指は最初と同じように猫を撫でるようだ。

終わってからマッツォーラさんと少し立ち話。もうアメリカよりも日本のほうが演奏しているしそっちのほうが好きなんだ、セシル・テイラーだって京都賞を得ただろう、日本人の方が音楽家を尊敬してくれるんだよ、と。なぜかガンダム第1話のTシャツを着た喜多さんは、この翌日からひと月の間ドイツだという。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●喜多直毅
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)


沖至+井野信義+崔善培『KAMI FUSEN』

2017-04-22 09:58:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

沖至+井野信義+崔善培『KAMI FUSEN』(No Business/ちゃぷちゃぷ、1996年)を聴く。

Itaru Oki 沖至 (tp, bamboo fl)
Nobuyoshi Ino 井野信義 (b)
Choi Sun Bae 崔善培 (tp)

沖至、崔善培とトランぺッターふたりが吹いていて面白い。遊び心もあって、「Mack the Knife」や「Tea for Two」の引用もある。

そして何より井野信義さんの存在感と色気があるベースに惹かれる。この頃にライヴで井野さんが「紙ふうせん」を演奏するところを何度か観ていて、ドライヴしないジャズのようであまり好きではなかったのだが、いま聴くと良い曲なんである。

●井野信義
峰厚介『Plays Standards』(2008年)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbeständige Zeit』
(2008年)
井野信義『干反る音』(2005年)
高瀬アキ『Oriental Express』(1994年)
内田修ジャズコレクション『高柳昌行』(1981-91年)
内田修ジャズコレクション『宮沢昭』(1976-87年)
日野元彦『Flash』(1977年) 


Quolofune@神保町試聴室

2017-04-22 09:27:19 | アヴァンギャルド・ジャズ

神保町の試聴室に足を運び、Quolofune(黒船)(2017/4/21)。15人ほどの観客。

山田あずさ (vib)
中島さち子 (p)
相川瞳 (perc)
新井コルチ薫 (irish harp) 

「いちじくの木の手紙」では、パーカッションからはじまり、ハープがフィーチャーされ、ハンガリー民謡だというのだが和的なイメージもあって、終盤に山田さんが敢えて不協和音を放つ攻め方が印象的だった。山田さんが中島さんの誕生日に贈ったという曲では、相川さんのカホンがまるで疾走する馬のようで、やがて全員で走っていった。中島さんのオリジナル曲「裏山の。」はまるでわらべうた。最後にアンコールに応えて、林栄一の「ナーダム」。

メロディ楽器が不在で、ベースもおらず、和音を奏でる弦楽器が3人。それがぶつからずふわっとした感じとなって、まるで女子会だとステージ上で笑っていた。実際に、浮力も横に拡がるイメージの喚起力もあって、知らず知らずハイになるサウンドだった。


アグスティ・フェルナンデス+ヤスミン・アザイエズ『Revelation』

2017-04-20 21:08:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

アグスティ・フェルナンデス+ヤスミン・アザイエズ『Revelation』(Fundacja Słuchaj!、2016年)を聴く。

Agusti Fernandez (p)
Yasmine Azaiez (vln)

ヤズミン・アザイエズがジョー・モリスのギターインプロと伍してパフォーマンスを繰り広げたのを観たことがあって、彼女は何者だろうと思っていたのだが、調べてみると、チュニジア生まれのヴァイオリニスト・ヴォーカリストなのだった。(NYのdowntown music galleryの常連らしき老人と公園で話したら、彼女のファンなんだと呟いていた。かなり目立った存在なのかもしれない。)

ここでは内部奏法をばりばり行うアグスティ・フェルナンデスと、かなりの高音で擦れる音波を飛ばし合っている。没入して聴いてきても、ふと、どちらがピアノでどちらがヴァイオリンなのかと錯乱してしまう。こんな表現もあったのだな。彼女のヴォイスも聴いてみたいところ。

ヤスミン・アザイエズ(2015年)

●アグスティ・フェルナンデス
ピーター・エヴァンス+アグスティ・フェルナンデス+マッツ・グスタフソン『A Quietness of Water』(2012年)
ジョー・モリス+アグスティ・フェルナンデス+ネイト・ウーリー『From the Discrete to the Particular』(2011年) 

●ヤズミン・アザイエズ
ジョー・モリス+ヤスミン・アザイエズ@Arts for Art(2015年) 


立花秀輝トリオ@東中野セロニアス

2017-04-20 07:46:27 | アヴァンギャルド・ジャズ

東中野のセロニアスで立花秀輝トリオ(2017/4/19)。

立花秀輝 (as)
落合康介 (b)
江藤良人 (ds)

ファーストセット。変わったテンポでの「All of Me」。三拍子の「Romance of Nostalgia」。木村昌哉さん(SXQメンバー)が亡くなったときに作曲したというバラード「A Song from You」。本メロディーとまるで異なるヴァースを中心にした「All the Things You Are」。

セカンドセット。オリジナルの「戦争できる国なんて嫌だ」。マイナーをメジャーに変えて「Mr. P.C.」を間抜けな感じにしたような「Mr. J.C.」。「Over the Rainbow」。ファラオ・サンダース「You've Got to Have Freedom」。

ずっと渾身の力で吹き抜くスタイルだが、獰猛さと抒情性とが共存してもいる。とくにファラオの曲ではこのままキレるのではないかという勢いで威圧される(事実、吹き終えたあとはフラフラしていた)。いや~、こんど来日のクリス・ピッツィオコスと立花さんとが並んで吹いているところを観てみたい。

今回、立花さんと江藤さんが共演するということが意外だったのだが、江藤さんによれば「昔は結構やっていた」。シンプルにしてばしばし決めてくるドラミングがサウンドにさらなる勢いをもたらしていて気持ちが良い。

ベースの落合さんはこの嵐の中でペースを保ち柔軟にインプロを展開していた。齋藤徹さんのワークショップ第1回にも参加されたとのこと、どインプロも聴いてみたいところ。 

Fuji X-E2、XF35mmF1.4

●立花秀輝
AAS@なってるハウス(2016年)
立花秀輝+不破大輔@Bar Isshee(2015年)
立花秀輝『Unlimited Standard』(2011年) 

●江藤良人
中牟礼貞則『Remembrance』(2000年)

●落合康介
永武幹子@本八幡cooljojo(2017年) 


ハリス・アイゼンスタット『On Parade In Parede』

2017-04-18 22:45:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

ハリス・アイゼンスタット『On Parade In Parede』(clean feed、2016年)を聴く。

Nate Wooley (tp)
Matt Bauder (ts)
Pascal Niggenkemper (b)
Harris Eisenstadt (ds) 

ハリス・アイゼンスタットのドラミングはとても細やかで、鋭いのに皮膚が切れそうではない。とても好きなドラマーである。

かれの多彩なビートによる時間と、パスカル・ニゲンケンペルによる柔軟で弾性的な時間、ネイト・ウーリーによる遠くの山々を仰ぎ見るような長い時間とは異なっている。それが同じサウンドの中に共存する面白さがある。

しかし、どうも突破力を持つ面白さがないのだ。棍棒を振り回す乱暴者がいないからか。

●ハリス・アイゼンスタット
ハリス・アイゼンスタット『Old Growth Forest』(2015年)
ハリス・アイゼンスタット『Canada Day IV』(2015年)
ネイト・ウーリー『(Dance to) The Early Music』(2015年)
ネイト・ウーリー『(Put Your) Hands Together』(2011年)
ザ・コンバージェンス・カルテット『Slow and Steady』(2011年)


バーナード・パーディ『Soul Is ...』

2017-04-17 23:31:55 | アヴァンギャルド・ジャズ

バーナード・パーディ『Soul Is ...』(Flying Dutchman、1972年)を聴く。

Bernard Purdie (ds)
Paul Martinez (b)
Norman Pride (conga)
Horace Ott (p)
Billy Nichols (g)
Lloyd Davis (g)
Paul Griffin (org)
Charlie Brown (ts)
その他大勢 

いきなりマーヴィン・ゲイの「What's Going on?」、しかもいきなりのハイハットでパーディ節そのもの。というか、最初から最後までパーディの色でキメキメに刻み続ける。ところで、その「しゅ~、しゅわしゅわしゅわ」とかいう効果音はなんだ。

アレサ・フランクリンの「Day Dreaming」も、パーディがそのアレサに捧げた妙に壮大な「Song for Aretha」も、ギターが超可愛いファンク「Put It Where You Want It」も、最高すぎる。

んん~プリティ。

●バーナード・パーディ
リューベン・ウィルソンにお釣りをもらったこと(2002年)
ブーガルー・ジョー・ジョーンズ『What It Is』
(1971年)
ブーガルー・ジョー・ジョーンズ『Right on Brother』(1970年)


廣木光一『Tango Improvisado』

2017-04-16 10:19:38 | 中南米

廣木光一『Tango Improvisado』(hirokimusic、1995年)を聴く。

Koichi Hiroki 廣木光一 (g)

なんて音のひとつひとつが粒として立っているのだろう。驚くほど強度が高く、しかも透き通っている。

廣木さんの書く文章は読むたびに面白く感嘆してしまうのだが、本盤のライナーノーツもまた興味深い。アルゼンチンタンゴのリズムを、幼少時にタケノコ掘りをしたり、球根を植えたりするときの感じに重ね合わせているのである。そしてまた、ジャズのリズムで演奏するときも、横に流れ過ぎないように、縦の振幅をより大事にしているという(「私の中でのジャズのタンゴ化」)。

これほどの強度を持っているからこそ、たとえば、渋谷毅さんとのデュオアルバム『So Quiet』も凄い存在感と透明性を持って創出されたのだろうな、と思ってみたりする。

●廣木光一
安ヵ川大樹+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
吉野弘志+中牟礼貞則+廣木光一@本八幡Cooljojo(2016年)
廣木光一+渋谷毅@本八幡Cooljojo(2016年)
Cooljojo Open記念Live~HIT(廣木光一トリオ)(JazzTokyo)(2016年)
廣木光一(HIT)@本八幡cooljojo(2016年)


トニー・マラビー+マット・マネリ+ダニエル・レヴィン『New Artifacts』

2017-04-16 09:45:22 | アヴァンギャルド・ジャズ

トニー・マラビー+マット・マネリ+ダニエル・レヴィン『New Artifacts』(clean feed、2015年)を聴く。

Tony Malaby (ts)
Mat Maneli (viola)
Daniel Levin (cello) 

いつものことだが、トニー・マラビーのテナーの音色には本当に魅せられてしまう。ヘヴィ級なのに隙間がたくさんあり、テナーらしくてテナーらしくない。常にサウンドの全体と融合し、重層的なテキスタイルを形成するのだ。

そしてここでは弦ふたりとのトリオ。擦れる音と融け合い、重なり合い、役割をいつの間にか交換している。マット・マネリもまた、このようにじっくりと入念に音を積み重ねていくプレイヤーではなかろうか。

マーティー・アーリックがライナーノーツを書いている。やはり豊かなエアを含んだ音色を持ちながらも違う個性を持ったサックス吹きである。曰く、「This shared space is mirrored between the strings and the saxophone. If Mat's viola or Daniel's cello became a tenor, it would be what Tony's tenor is saying.」同感である。

●トニー・マラビー
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas V』(JazzTokyo)(2016年)
トニー・マラビー『Incantations』(2015年)
チャーリー・ヘイデンLMO『Time/Life』(2011、15年)
アイヴィン・オプスヴィーク Overseas@Seeds(2015年)
ハリス・アイゼンスタット『Old Growth Forest』(2015年)
ジェシ・スタッケン『Helleborus』(2014年)
クリス・ライトキャップ『Epicenter』(2013年)
トニー・マラビー『Scorpion Eater』、ユメール+キューン+マラビー『Full Contact』(2013、08年)
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』(2003、13年)
リチャード・ボネ+トニー・マラビー+アントニン・レイヨン+トム・レイニー『Warrior』(2013年)
チェス・スミス『International Hoohah』(2012年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas IV』(2011年)
ポール・モチアンのトリオ(2009年)
ダニエル・ユメール+トニー・マラビー+ブルーノ・シュヴィヨン『pas de dense』(2009年)
トニー・マラビー『Paloma Recio』(2008年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas III』(2007年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』(2007年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas II』(2004年)

●マット・マネリ
チェス・スミス『The Bell』(2015年)
イングリッド・ラブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
ルシアン・バン『Songs From Afar』(2014年)
ジェン・シュー『Sounds and Cries of the World』(2014年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、12年)

●ダニエル・レヴィン
「JazzTokyo」のNY特集(2016/1/31)


今井和雄『the seasons ill』

2017-04-15 15:30:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

今井和雄『the seasons ill』(Hitorri、2016年)を聴く。

Kazuo Imai 今井和雄 (g)

この録音を行った松岡真吾さんによる時折の前情報もあり、とても楽しみにしていた盤。いざ再生してみると予想を遥かに凌駕する。

依拠するものがない中での演奏の集合体である。圧倒的なギター技術の継続した提示がひとつであっても刮目すべきものであるのに、ディレイにより複数のラインが並行して進み、強度が何倍にもなり、轟音を成している。音は抽象だが、それを創出する精神力は想像のなかにあらわれる。また音は抽象だが、そのフラグメンツがおそらく意図せざるイメージをときに幻視させる。得られるのはたいへんなカタルシスだ。

この強度と抽象の巨塔を前にして、このくらいの印象しか言うことができない。人外と失礼なことを言ってみたくなるほど偉大な音楽家による作品。

●今井和雄
第三回天下一Buzz音会 -披露”演”- @大久保ひかりのうま(2017年)
齋藤徹+今井和雄@稲毛Candy(2017年)
Sound Live Tokyo 2016 マージナル・コンソート(JazzTokyo)(2016年)
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
坂田明+今井和雄+瀬尾高志@Bar Isshee(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
今井和雄 デレク・ベイリーを語る@sound cafe dzumi(2015年)
今井和雄、2009年5月、入谷
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
バール・フィリップス@歌舞伎町ナルシス(2012年)(今井和雄とのデュオ盤)


仲宗根勇・仲里効編『沖縄思想のラディックス』

2017-04-15 09:54:04 | 沖縄

仲宗根勇・仲里効編『沖縄思想のラディックス』(未來社、2017年)を読む。

6人の論考それぞれが短い(「季刊未来」にリレー連載された)ということもあり、周知のことを概説するにとどまっているもの、逆に読者との共有を拒んでいるもの(川満信一)、空虚な言説(仲里効)が含まれていて、これは1冊の本にまとめたという意義が大きいのだと理解する。

「周知」と言ったところで、日本においてはほとんど「問題」と歴史が知られていない現状がある。わたしが「知っている」ことをアピールしたいのではない。「問題」をずっと追いかけていれば把握できることである。わたしは興味が向かなければ「問題」から容易に離脱できる者に過ぎない。むしろ、「問題」の解決に進んでいないことが逆説的にわかるということだ。その意味で、広く読まれるべきである。

「歴史はそれ自体激しい強大なエネルギーを持っている。その不可思議な動向に関して何の洞察力も創造力もなく、倫理観と批判意識を決定的に欠いている安倍政権がやがて破綻するのは火を見るより明らかではないか。」(八重洋一郎「南西諸島防衛構想とは何か」)

「昨今、沖縄県内の新聞メディアでは「自治権」のみならず、「自己決定権」「民族自決権」、そして「独立」という言葉が散見されるようになった。沖縄におけるこの社会的趨勢は、思想上の議論と理論的な批判検討の段階に入っている。」(桃原一彦「「沖縄/大和」という境界」)

●参照
島袋純さん講演会「島ぐるみ会議の挑戦―自治権拡大の国際的潮流の中で」(2016年)
島袋純さん講演会「"アイデンティティ"をめぐる戦い―沖縄知事選とその後の展望―」(2014年)
琉球新報社・新垣毅編著『沖縄の自己決定権』(2015年)
崎山多美『うんじゅが、ナサキ』(本書に論考)
高嶺剛『変魚路』(2016年)(本書に論考)


アーマッド・ジャマル『Freeflight』

2017-04-15 08:36:48 | アヴァンギャルド・ジャズ

アーマッド・ジャマル『Freeflight』(Impulse!、1971年)を聴く。

Ahmad Jamal (p, el-p)
Jamil Nasser (b)
Frank Gant (ds) 

どうやらアーマッド・ジャマルは本盤ではじめてエレクトリック・ピアノを使ったようなのだが、70年代のファンキーでスピーディーな感じになるのではなく、あくまでジャマルのサウンドになっていることが面白い。音は揺れ動き、コアの美味しいところを取らずに軌道から離れたり戻ってきたり。(一方、ベースはいかにも古くさく苦笑してしまう。)

それはアコースティック・ピアノでも同じことであって、旋律の周辺を探るようにして断片を提示するスタイルがとてもいい。そんな風にしてちょっとずつサウンドを積み重ねてゆく「Poinciana」が嬉しい。

本盤では、ハービー・ハンコックの「Dolphine Dance」を演奏している。前年の『The Awakening』(Impulse!、1970年)にも同じメンバーで収録された曲であり、そこではジャマルのスタイルで純化されたような実に美しい演奏を行っていた。比べようと思って改めて聴いてみると、やはり惚れ惚れする。軍配は『The Awakening』に上がる。

Ahmad Jamal (p)
Jamil Nasser (b)
Frank Gant (ds) 


ポール・ラザフォード+豊住芳三郎『The Conscience』

2017-04-14 07:37:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

ポール・ラザフォード+豊住芳三郎『The Conscience』(No Business/ちゃぷちゃぷ、1999年)を聴く。

Paul Rutherford (tb)
Sabu Toyozumi 豊住芳三郎 (ds) 

もともとトロンボーンは「奇妙な声」だが、ポール・ラザフォードはそのことを過激に素直に受け入れた人のように思える。奇妙な声による奇妙な声の幅はとても広く、聴けば聴くほど味わいがある。

かれを迎え撃つのは豊住芳三郎。美しい破裂音やスムースな流れなどは脇に置いておいて、ともかくも騒乱と疾走を見せる。90年代に豊住さんを最初に観たときには、こんな奇天烈な表現もあるのかと無知なわたしは驚いた(ミシャ・メンゲルベルクとのデュオ)。このヴァイタリティのためか、サニー・マレイと共演したときには、マレイが繊細に叩く局面でもお構いなしの騒乱と疾走、マレイのプレイを塗りつぶしてしまった。それもまた豊住さんの個性に違いない。

ここでは、火花を散らすとか衝突するとかいったものではなく、マイペースのふたりがとてもマッチしていて、結果的に波が訪れるたびに快感を覚える。

●ポール・ラザフォード
ポール・ラザフォード『Solo Trombone Improvisations』
(1974年)

●豊住芳三郎
ブロッツ&サブ@新宿ピットイン(2015年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『滄海』(1976年)
加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(1976年、74年)
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』(1971年、75年)
富樫雅彦『風の遺した物語』(1975年)


ロッテ・アンカー+クレイグ・テイボーン+ジェラルド・クリーヴァー『Triptych』

2017-04-13 21:04:33 | アヴァンギャルド・ジャズ

ロッテ・アンカー+クレイグ・テイボーン+ジェラルド・クリーヴァー『Triptych』(Leo、2003年)を聴く。

Lotte Anker (ts, ss)
Craig Taborn (p)
Gerald Cleaver (ds)

このときクレイグ・テイボーンはマリリン・クリスペルの代役であったようだ。もちろんクリスペルの演奏も聴きたいのではあるけれど、テイボーンのピアノは見事。地響きのするような弾き方の箇所もけっして重くはなく、硬い美を発散している。ジェラルド・クリーヴァーのドラムスは、やはり、シンバルによって、サウンドを四方にスピルアウトさせている。

先日、身体の内奥をえぐり出すようなロッテ・アンカーのサックスに吃驚した(須川崇志+ロッテ・アンカー+キャスパー・トランバーグ+ラース・グレーヴェ@下北沢APOLLO)。ここでも音の内臓を表に露出させながら、長いフレーズにおいて、鼓膜のあちこちを大小さまざまな力でくすぐるような、繊細な表現をみせている。

●ロッテ・アンカー 
須川崇志+ロッテ・アンカー+キャスパー・トランバーグ+ラース・グレーヴェ@下北沢APOLLO(2017年) 

●クレイグ・テイボーン
クレイグ・テイボーン『Daylight Ghosts』(2016年)
チェス・スミス『The Bell』(2015年)
クレイグ・テイボーン『Chants』(2013年)
クリス・ライトキャップ『Epicenter』(2013年)
クリス・ポッター『Imaginary Cities』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
デイヴ・ホランド『Prism』(2012年)
Farmers by Nature『Love and Ghosts』(2011年)
オッキュン・リーのTzadik盤2枚(2005、11年)
ロブ・ブラウン『Crown Trunk Root Funk』(2007年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas II』(2004年)
ティム・バーン『Electric and Acoustic Hard Cell Live』(2004年) 

●ジェラルド・クリーヴァー
スティーヴ・スウェル『Soul Travelers』(2016年)
『Plymouth』(2014年)
クレイグ・テイボーン『Chants』(2013年)
クリス・ライトキャップ『Epicenter』(2013年)
Book of Three 『Continuum (2012)』(2012年)
Farmers by Nature『Love and Ghosts』(2011年)
ジェレミー・ペルト『Men of Honor』(2009年)
ロブ・ブラウン『Crown Trunk Root Funk』(2007年)
リバティ・エルマン『Ophiuchus Butterfly』(2006年)