「もう別れてもいいですか」垣谷美雨
熟年離婚がテーマ。
田舎の狭いコミュニティを舞台に、離婚にまつわるトラブルが進行する。
財産分与など、具体的に描かれていて興味深い。(私には何の関係もない事象ばかりだけど)
P132
埒があかないので弁護士の無料相談に行くと、1日も早く家を出ることを勧められたらしい。別居して5年経てば、夫婦関係の破綻が認められるからだと。
P158
女というものは結婚生活が長くなるにつれ性格が歪んでくる。
P160
瞳は、男の目で品定めされることに、誇りさえ持っていたように思う。「見られる性」であることを当然のように受け入れ、男たちから高値をつかれれるよう、「男受けする女」を演じることに余念がなかった。
P297
最後にひとこと。
離婚は私の勲章です。
なんか文句ある?
【ネット上の紹介】
58歳の主婦・澄子は、横暴な夫・孝男との生活に苦しんでいた。田舎の狭いコミュニティ、ギスギスした友人グループ、モラハラ夫に従うしかない澄子を変えたのは、離婚して自分らしく生きる元同級生との再会だった。勇気を振り絞って離婚を決意するも、財産分与の難航、経済力の不安、娘夫婦の不和など、困難が山積。澄子は人生を取り戻せるのか?平凡な主婦による不屈の離婚達成物語
「倒産続きの彼女」新川帆立
彼女が転職するたび、その企業は必ず倒産する―いったいどうなってるの?
美馬玉子と剣持麗子、2人の弁護士がタッグを組み、調査を開始する。
想定以上の面白さ、キャラクターとそのモノローグがいい。
充分楽しめる、読んでソンはない。
P12
「そういうことでしょ。見た目が悪いから、男ウケしないって言いたいんでしょ」
「そうじゃなくて、私はただ、今のままだと美法の良さが男の人に伝わりにくいと思って」
早口のまま続ける。
「恋愛の、一般的な市場の話をしているの。恋愛市場では、稼ぐ男が偉くて、若くて可愛い女が偉いってことになっている。だから、今日の人たちは、私たちよりも恋愛市場では価値が高いってことでしょ。そこは素直に認めたほうがいいって話。それで、自分より上の人を倒すには自分を磨く努力をしないと。自分の側で努力してないのに相手をくさすのは違うと思うし」
P177
「醜いアヒルの子の定理(テーゼ)って、知っていますか?」
と訊いた。
「醜いアヒルの子、ですか?あの童話の?」
(中略)
「白鳥の子は、アヒルと見た目が異なっていたために虐められた。ですが、実は白鳥とアヒルの間に違いをN個見つけたとすると、アヒルAとアヒルBの間にも同じく違いをN個見つけられるのです。だから、似ているとか、違うとか、そういう概念はデタラメなんです。違いは同じだけある。人間の側で、どの違いを重視するかによって、同じグループにくくったり、区別したりしているんです」
P260
もともと、投資家と呼ばれる人たちは嫌いだ。事業をして、お金を生み出す事業家が一番偉いはずだ。それなのに、その事業家を競馬の馬のように見比べて、お金を賭け、勝った、負けたとわめいている連中が、投資家だ。
【ネット上の紹介】
『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作&シリーズ累計48万部突破、『元彼の遺言状』続編!彼女が転職するたび、その企業は必ず倒産する――婚活に励むぶりっ子弁護士・美馬玉子と、高飛車な弁護士・剣持麗子がタッグを組み、謎の連続殺「法人」事件に挑む!(あらすじ)山田川村・津々井法律事務所に勤める美馬玉子。事務所の一年先輩である剣持麗子に苦手意識をもちながらも、ボス弁護士・津々井の差配で麗子とコンビを組むことになってしまう。二人は、「会社を倒産に導く女」と内部通報されたゴーラム商会経理部・近藤まりあの身辺調査を行なうことになった。ブランド品に身を包み、身の丈にあわない生活をSNSに投稿している近藤は、会社の金を横領しているのではないか? しかしその手口とは? ところが調査を進める中、ゴーラム商会のリストラ勧告で使われてきた「首切り部屋」で、本当に死体を発見することになった彼女たちは、予想外の事件に巻き込まれて……。
「これは経費で落ちません!」(9)青木祐子
シリーズ最新刊。
経理から見た、オフィス人間模様。
今回はオールスター総出演・・・美月、山崎、織子、志保、千晶・・・。
山之内亜希の光と影が見られて良かった。
風呂好きな小枝子おばさんが良い感じ。
美華をもう少し活躍させてほしかった。
P30
優秀な営業マンは悪口を言わないし、ゴリ押しもしない。
P49
「(前略)優秀な人以外生き残れなくしたら、つまらない会社になると思います」
P83
織子は人当たりがいいが怖い。どこか壊れている。そこが魅力なのだが、長く一緒にいたら巻き込まれてしまいそうだ。
P175
「(前略)ほんと、甘やかすのはダメだわ。子どもも会社も」
P183
「彼女と映画を観るのはダメだけど、家族とドライブならいいのか」
「なんかそうっすねー」
【参考リンク】
「これは経費で落ちません! 」①―⑧青木祐子
【ネット上の紹介】
性別、年齢、派閥。社内は今日も面倒です。トナカイ化粧品との合併以来、天天コーポレーション営業部は水面下での争いが絶えず、広報部は後進の育成で騒がしい。経理部は新戦力の加入で、少しずつ人手不足が解消されつつある。そんな中、東北への出張申請をしに沙名子のもとへやって来たのは、山野内亜希、34歳。以前トナカイ化粧品営業部員だった亜希は、合併で天天営業部員になっても意欲旺盛で、成績トップを目指して精力的に仕事をこなし上司との交流にも積極的だ。一方、沙名子は山崎から食事に誘われる。遠距離恋愛中の太陽とのことだと思い了承したけれど、山崎が切り出したのは社内の派閥のことで……?30歳を目前にした沙名子は、性別、年齢、恋愛、派閥……さまざまなしがらみにどう向き合う?
「三千円の使いかた」原田ひ香
「小説部門」今年のベスト、と思う。
御厨家の女性たちが、連作長編の形で描かれる。
妹・会社員・美帆(24歳)
姉・主婦・真帆(29歳)
母・智子(55歳)
祖母・琴子(73歳)
お金から見えてくる、家族小説。
非常にレベルが高い。そして面白い。
ぜひ読んでみて。
P80
「介護には年間平均90万以上、5年介護してもらったとして1人平均で500万以上かかるんだってよ」
P201
「費用対効果。そんなこと言ってたら、絶対、子供なんて作れない。子供なんて、結婚なんて理不尽なことばかりだもの。じゃあ、今のあなたの生き方なんて、どこに費用対効果があるの?(後略)」
夫が離婚を考えるとき
P229
①急に帰宅が遅くなることが続く。
②携帯電話、スマートフォンを風呂場に持ち込む。
③妻の収入や貯金をやたら聞きたがる。
P233
アラフィフになったら、「すべての不調は更年期に通じる」と。
P291
「結婚生活は長いのよ。これからどんなことがあるかわからない。相手が良ければ、とか、彼だけが家族というのはきれいごとよ。日本はまだまだそう割り切れない社会なんだから。(後略)」
【ネット上の紹介】
就職して理想の一人暮らしをはじめた美帆(貯金三十万)。結婚前は証券会社勤務だった姉・真帆(貯金六百万)。習い事に熱心で向上心の高い母・智子(貯金百万弱)。そして一千万円を貯めた祖母・琴子。御厨家の女性たちは人生の節目とピンチを乗り越えるため、お金をどう貯めて、どう使うのか?
【おまけ】
原田ひ香作品では、過去に次のような作品を読んだ。
「東京ロンダリング」「彼女の家計簿」「一橋桐子(76)の犯罪日記」がおすすめ。
「レンタルフレンド」青木祐子
お金を払うと「友人」をレンタルできる!
次の4編が収録されている。
第一話「バニラクッキーは砕けない」
第二話「赤い花に幻の水」
第三話「臆病な猫を抱く」
第四話「仁義なき女子の歌」
いったいどんな人が依頼してくるのだろう?
P55
ダストシューターというのは、ゴミを捨てる人のことだ。
フレンドはダストボックス。日常的な不満や悪口をためこんでいて、本物の知人には言えないので、吐き出すために友達をレンタルする人。カウンセリングだと思ってうんうんと聞いてやれば、だいたいすっきりした顔で帰っていく。愚痴っぽいだけで常識的な人間が多いし、キャラ作りやプランニングに凝らなくていいので楽ではある。言葉の毒をくらって精神的なダメージを受ける以外は。
ボクサーとは殴る人のことである。フレンドはサンドバッグ。威張ったり傷つけたり試したり、使い走りのようなことをさせたりする。直接的な暴力はふるわないが、あなたってブスよねなどと言ったりする。客であるのをいいことに、言葉や態度で威圧することですっきりするらしい。
P75
高すぎるプライドはのぼっていくときは格好いいが下がるときには邪魔になる。(プライドの高い人ほど、鬱になって引きこもりに移行しやすい、ように思う)
【参考リンク】・・・実際、こういう業者がある!
【シェアNo.1】友達レンタル - フレンド代行ができる友人サービス (family-romance.com)
レンタルフレンド・友達代行|女性スタッフの便利屋・何でも屋「クライアントパートナーズ」 (clientpartners.jp)
【ネット上の紹介】
「これは経費で落ちません!」の青木祐子、最新作! 世の中には、お金を払っても「友達(フレンド)」をレンタルしたい人がいる。Case1:人付き合いが苦手そうな大学4年生・香住。デザートブッフェへの同行を依頼してきた理由は……?(第一話「バニラクッキーは砕けない」)Case2:ヘアメイクアーティストMISA、38歳。女優志望の若手という設定で、観劇につきあってほしいというが……?(第二話「赤い花に幻の水」)Case3:常連の翻訳家・野枝、46歳独身。検査入院するため、飼い猫の面倒を見て欲しいと言われたことから本人の過去にかかわることになり……?(第三話「臆病な猫を抱く」)Case4:いかにもお嬢様然とした女性、26歳の綾音。婚約者の元カノも参加するというパーティに友人として同行してほしいというが……?(第四話「仁義なき女子の歌」)
「派遣社員あすみの家計簿」③青木祐子
シリーズ3作目が出たので、早速読んでみた。
それぞれの人物造形が良く出来ている。
「いるいる」、と思わせる登場人物たち。
その行動に対する地の文での登場人物の口を借りて著者解説が的確。
前作同様、男女のすれ違い、価値観の相違を分かりやすくエピソードで披露する技術は秀逸。そのあたりが、「これは経費で落ちません!」と違うところ。「これは経費で落ちません!」は、職場での人間模様、群像劇のようになっていて、「職場」「仕事」を中心に描いている。
本シリーズは、「友情」を描いているが、「男女関係」も大きな要素。どうして別れるのか、あるいは、くっつくのか、偶然とタイミング要素も含めて描いている。特に、男性キャラクターに対する解析は辛辣とも言えるほど容赦なし・・・そこが読んでいて気持ちいい。
さて、出版社の解説では『シリーズ3作目にして完結!』、とある。これで終わりなのか・・・残念。
新婚の夫に対する妻のコメント
P31
「仲よさそう。大事にしてるよね」
(中略)
「そりゃそうよ。大事な大事な高性能ATMだもん。壊れないようにしっかりメンテナンスして、30年間長持ちさせなくちゃ」
P129
あすみは昔から雑魚モテするたちだった。有能な美女にアタックする勇気と自信のない男が、あすみならいけるだろうと踏むのだ。
P136
そうだった。福田は説教臭い男なのだった。まずあすみにいろいろ喋らせ、次に自分が反対意見の正論を述べ、論破して勝ち誇るのが好きなのだ。福田は気持ちいいのだろうが、論破されるほうはたまったものではない。(こんな男っているよな・・・酒の席で説教臭いヤツって、サイテーと思う。自分が説教して気持ちよくなりたいオナ男・・・実は、これって自戒を込めて書いている。歳をとるとつい一言いたくなる時ってある。ぐっとこらえる事が必要。酒の席では「説教」より「笑い」、と思っている)
【関連図書】
「派遣社員あすみの家計簿」①②青木祐子
【閑話休題】
本シリーズも面白いけど、どちらかと言うと、「これは経費で落ちません!」シリーズの方が好み・・・3月18日に新刊が出るようで、楽しみ。
【ネット上の紹介】
渋谷にある人気IT企業に派遣され、SNSに記事を投稿することになったあすみ。三年勤めれば正社員に登用される可能性もあり、三十歳を目前にして将来を考え始める。そんな折、理空也から連絡が。「苦しいよ助けて」―見捨てられず、あすみは指定されたマンションを訪れる。一方、ケンカ別れした豊加とは友人の結婚パーティで再会する。無職だった豊加は小さな商社に就職したようだ。フリーランス仲間と事務所を作った仁子、専業主婦を目指す菜々花、愛人になりたいという優奈。アラサー女子がそれぞれの生き方を模索する中、あすみが選ぶ人生とは!?
「残照の頂 続・山女日記」湊かなえ
約7年ぶりの続編。
次の4編が収録されている。
後立山連峰
北アルプス表銀座
立山・剱岳
武奈ヶ岳・安達太良山
P87
山岳部員でもないのに。体育会系の部活動にいっさい関わらず、運動するのは体育の授業の時だけだった私が、大学生になってから、どうしてこんな修行のようなことをするはめになったのか。しかも、音大で。
P222
山岳部の男子のほとんどが、山をやらない女の子が好きだったもんね。(中略)
山男と山に行かない女は、案外うまくいくのに、その逆は、どうして成立しなかったんだろう。(男って自分の得意分野での格好いいところを女子に見せたい、ってのがある。だから、その逆・・・彼女の得意分野で、かっこ悪いところを見せたくないのかも)
P270
介護を終えたからって、じゃあ山に登りましょうって気分にもなれなかった。よし、解禁!なんて割り切れると思う?それって我慢していたのを認めることになるじゃない。自分の人生の一部をつらいものだったと決定付けてしまうことになるじゃない。
むしろ、山なんて登らなくても、人生は楽しいんだ、わたしは幸せなんだって証明してみたいじゃない。
PS
本作品は、BSプレミアム「山女日記3」原作小説。
(ちなみに、私は観ていない)
【関連図書】
「山女日記」湊かなえ
P174に、湊かなえさんのインタビューが掲載されている。
山と渓谷 2014年8月号
【ネット上の紹介】
亡き夫に対して後悔を抱く女性と、人生の選択に迷いが生じる会社員。(『後立山連峰』)。失踪した仲間と、ともに登る仲間への、特別な思いを胸に秘める音大生。(『北アルプス表銀座』)。娘の夢を応援できない母親と、母を説得したい山岳部の女子大生。(『立山・剱岳』)。コロナ禍、三〇年ぶりの登山をかつての山仲間と報告し合う女性たち。(『武奈ヶ岳・安達太良山』)。日々の思いを噛み締めながら、一歩一歩、山を登る女たち。山頂から見える景色は、これから行くべき道を教えてくれる。
「家族じまい」桜木紫乃
2020年 第15回 中央公論文芸賞受賞。
老いと家族がテーマ。
レベルが高く、面白かった。
今年のフィクション・ベストの1冊、と思う。
P69
残った行き先はあの世だけという冗談が、大きく外れていない世代だ。
P140
そうそう自分を変えることなど出来ないことは、40も半ばとなった今ならわかる。ただ、考え方の角度を変えることは出来るのだった。
P216
「50を過ぎると、男も女も少し焦るんだ。やり残したことはたくさんあるのに、やり直しのきかないところに来てしまったことに気づく。(後略)」
P223
生きるために働いてきて、結局死ぬ準備にいちばんお金がかかると知ってうんざりした70代も過ぎた。周りを見ればそれすらかなわぬ者がわんさといる。(中略)
80を過ぎれば便りのないのは死んだという知らせだろうか。(中略)
最近は、連絡が来たときに静かに手を合わせに行けば良いと思うようになった。
P229
「(前略)縁なんて、自然に切れるもんなんだよ。切る切る言ってるやつと縁が切れたためしはないんだ。死ぬ死ぬ言ってる人間がなかなか死なないのと一緒だよ」
P231
10歳も年下の男と生き直すには、やはりレースのハンカチみたいなひらひらパンツのひとつも必要なのだろう。薄いパンツ1枚で女が勝負をかけられるのも、考えてみればあと5年、長くて10年だ。70を過ぎれば尿漏れを心配しなけりゃいけない。
【ネット上の紹介】
認知症の母と、齢を重ねても横暴な父。両親の老いに姉妹は戸惑い、それぞれ夫との仲も揺れて…。別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。
P246
百々子には少女らしからぬ強靱さがあった。しかもそれは、ただの勝気というのではない。恵まれた家庭の令嬢に多く見られる自己本位的な強さ、というのでもない。それは、前へ前へと生き抜いていくための底力、生命力そのものと言えた。
P429
「あんたの言い訳が穴だらけだってこと、わかってるんだからね」
P558
メンゲンベルグ指揮によるバッハ『マタイ受難曲』。1939年にアムステルダムで上演されたというレコードを恭しくプレーヤーにセットしながら、父は怪談でも始めるかのように、「よく聴いてごらん」とひそひそした言い方で私に言った。「すすり泣きの声が聞こえてくるからね」(中略)
これ、なんていう曲?
父は、かけがえのない大切な言葉を口にする時のように、ひと呼吸おいてから答えた。
『神よ憐れみたまえ』と。
【ネット上の紹介】
昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発と国鉄の事故が同じ日に発生し、「魔の土曜日」と言われた夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。母ゆずりの美貌で、音楽家をめざす彼女の行く手に事件が重く立ちはだかる。黒く歪んだ悪夢、移ろいゆく歳月のなかでそれぞれの運命の歯車が交錯し、動き出す…。10年の歳月をかけて紡がれた別離と再生。著者畢生の書下ろし長篇小説。
「テスカトリポカ」佐藤究
2021年 第165回 直木賞受賞
2021年 第34回 山本周五郎賞受賞
圧倒的なバイオレンス。
麻薬密売人・バルミロ・カサソラが、ジャカルタで日本人臓器ブローカーと出会い、日本にやって来る。
一方、17歳の少女ルシアは、メキシコでの生活に見切りを付け、”太平洋の端”にある日本に密航してくる。出会うはずのない人生が交錯し、物語が紡ぎ出されていく。
これこそ小説の醍醐味ではないだろうか?
P497
「だけどコシモ、イエスという男は、自分のためにインディヘナの国を滅ぼせだなんて、一度も言ったことがなかったんだ。黄金を奪って、人々を奴隷にして、スペイン王国の旗を立てろだなんて、新約聖書のどこにも書いていない。代わりにこう書いてあるんだ。(後略)」
『わたしが求めるのは憐れみであって、いけにえではない』とはどういう意味か、行って学びなさい。
【ネット上の紹介】
心臓密売人の恐怖がやってくる。メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会う。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へ向かった。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年、土方コシモは、バルミロに見いだされ、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく―。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」ブレイディみかこ
英国での子育て日記。
一作目は、2019年ノンフィクション本大賞受賞、2020年書店新風賞受賞した。
本書は、その続編。
「完結」とあるので、第3弾は出ないのでしょうね。(残念)
主人公の少年も思春期となって大きくなったから?
P56
女子生徒が生理用品を買えないために学校を病欠したり、制服を汚していじめられたりする問題は「ピリオド・ポヴァティ(生理貧困)」と呼ばれて社会問題にもなっているが、息子の学校でも想像以上に困っている女子たちがいるようだ。
P148
「ASBO」とは、「Anti-Social Behaviour Order(反社会的行動禁止命令)」の略称だ。ブレア政権時代に制定された、放火、破壊行為、暴動、ドラッグ・ディーリング、窃盗などの反社会的行動を取り締まる命令のことである。「ASBO」は「ブロークン・ブリテン」という言葉とセットで、荒れた下層社会やアンダークラスの若者たちを表す言葉になった。それは「チャヴ」と同じように、最初は差別用語として使われていたが、そのうちティーンたちがワルぶって使う流行語になって、落書き用語としても使われるようになった。
P154
ブレグジット党といのは、以前、UKIP(イギリス独立党)という政党の党首だったナイジェル・ファラージが設立した新政党だ。UKIPはEU離脱の国民投票のときに離脱派を率いた。大勢の移民の写真を使ったポスターで非難を受けたりして、排外主義的と批判された政党である。その後、党首が交代すると支持を落とし、元党首のファラージは離党して新たにブレグジット党を立ち上げた。
P157
「どうせまた、わたしはいい年してスノー・フレイクだって言いたいんでしょ」
わたしは配偶者に言った。スノー・フレイク。それは、ポリティカル・コレクトネスにうるさい若い世代のことを、上の世代が揶揄して使う言葉だ。「雪片のように壊れやすく、傷つきやすい」という意味である。
【参考リンク】=1作目
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ブレイディみかこ
「コロナと潜水服」奥田英朗
奥田英朗さん新刊、短編集。
次の、5話が収録されている。
「海の家」
「ファイトクラブ」
「占い師」
「コロナと潜水服」
「パンダに乗って」
どれもちょっと不思議な話。
読んで損はない。
どれもレベルが高く、おもしろい。
さすが、奥田英朗さんだ。
【ネット上の紹介】
ある理由で家を出た小説家が、葉山の古民家に一時避難。生活を満喫するも、そこで出会ったのは(「海の家」)。早期退職の勧告に応じず、追い出し部屋に追いやられた男性が、新たに始めたこととは(「ファイトクラブ」)。人気プロ野球選手と付き合うフリー女性アナウンサー。恋愛相談に訪れた先でのアドバイスとは(「占い師」)。五歳の息子には、新型コロナウイルスが感知できる?パパがとった究極の対応策とは(「コロナと潜水服」)。ずっと欲しかった古いイタリア車を手に入れ乗り出すと、不思議なことが次々に起こって(「パンダに乗って」)。コロナ禍の世界に贈る愛と奇想の奥田マジック。紙の本にだけ、作中の登場曲が楽しめるSpotifyのプレイリスト付き!!
まさか続編が出るとは思わなかった。
これでオワリ、と思っていた。
嬉しい驚きだ。
約2年前なのでほとんど人物関係を忘れている。
②を読むに当たって、①を読み返して②に入った。
あすみは会社を“寿退社”したのに、恋人は雲隠れ。
P258
「私の仕事は、その人にとって最良の働き方を提案していくことだと思っています」
ここから②の紹介に入っていく。
仁子とあすみの会話
P23
「OKOK。スタイルはいい。これで断る男はいない」
あすみは写真を見つめてうなずいた。
「貧乳がバレないのを選んだわ」
「乳は盛ればなんとかなる。仁子はスマイルが足りないんだよ。ニコニコしてたらそれだけで周りが喜ぶのに」
「私の笑顔は総量規制があるから。好きでもない他人を喜ばせる趣味はないの。(後略)」(女性の「無意味な笑い」は、男を攻略する上で重要な戦略、と思う・・・試してみて)
P33
節約生活を始めた最初のころに椿のような女性と知り合えたのは幸いだった。おかげで自分を惨めに思わないで済んだ。女性は公務員か大手の会社の正社員になって、似たような男性と結婚して、実家の近くに家を建てるのが一番の幸せ、というような価値観から逃れられた。
P119
「仁子は内面にこだわりすぎなんだよ。男はまず顔だって。顔さえよきゃ少々のことは目をつぶれるんだから。内面とかキャリアはその後に考えればいいんだよ」
「びっくりするぐらい説得力ないわー」
P233
「なんかさあ、結婚相手って仕事だよね。やってみなきゃわからないっていうか。やったら案外、なんでもいけそうな感じとか。結婚にも派遣みたいなのあればいいのにね」
「三年たったら契約終了、みたいなの? 非正規結婚。子どもくれるならそれでもいいわ」
「わたしもそれでいいわ」
(結婚は人生最大のギャンブル、と思う・・・それも、リスクが高いギャンブルだ。なにか「保険」をかけるべき、と思う)
P249
わたしはこういう文面を見るのは初めてじゃない。なぜだか関係の薄い周辺の人間に、自分の正当性を訴えたがるのね。どうせならわたしに出せばいいのに。ミルキーがちょこちょこ嘘をつくのは事実だけど、わたしは嘘をつく人よりも、全部自分が正しいのだと思い込んでる人の方が怖いわ」
【感想・コメント】
①に劣らず面白かった。むしろ面白さのレベルが上がってるかも。
ミルキーの過去も明らかになり、「おお!」と思った。
さりげなく重い話が挿入され、びっくり。
男女のすれ違い、価値観の相違を分かりやすくエピソードで披露する技術は秀逸。
この終わり方は、③も期待できそう。
「これは経費で落ちません! 」のように、シリーズ化なるかもね。
【ネット上の紹介】
豊加と付き合い始め、元彼の理空也と同棲していたマンションから引っ越しをしたあすみ。いざ新生活と思いきや、新居に洗濯機が入らずコインランドリー通いが始まった。そんな折、アメリカの大手銀行が倒産し、悪性のインフルエンザも流行して、経済は急激に悪化。正社員登用の話が白紙になった豊加は、会社を辞めて無職になってしまう。あすみは配達員の副業を始めるが、派遣の契約更新では時給を下げられショックを受ける。そして先行きの不安な中、豊加からプロポーズを受けるが…!?金欠アラサー女子のサバイバル小説、波乱含みの第2弾。
「 エチュード春一番 第3曲 幻想組曲〈狼〉」荻原規子
シリーズ3冊目。
このシリーズ、前作2016年出版。
もう二度と続きが出ないのでは?、と心配していた。
このたび新刊が出版され、嬉しい驚きだ。
ネット上の紹介では、「平将門の時代にタイムスリップ」とあるので、読む前から期待が高まる。そして、予想に違わずおもしろかった。
もともと、著者は「勾玉シリーズ」「風神秘抄」と、歴史ファンタジーを得意としている。今回は、その面目躍如、と言ったところ。
P52
「菩薩がご本尊なら、お寺だよね。八幡宮は神社じゃないの?」
モノクロが気のない声で言った。
「八幡宮の神は、初めから神でもあり菩薩でもあるというふれこみだ。おぬしは日本の宗教が、明治維新が起こるまで神仏習合だったことを忘れているぞ。中でも八幡神は、歴史上真っ先に仏教と習合した神だった」
P234
「現代とはフェーズが違うんだよ。ええと、この時代にはユカラのように考える人間がまだたくさんいるから、人間サイドの事象がそのように映る。平安時代なら、呪法はハイレベルな戦法でもあったよ。朝廷のトップの人間だろうと、寺院に敵の調伏を依頼するくらいだ。調伏というのも呪詛の同義語だよ。仏教的に言い換えただけ」
P255
「守護神さま」
(中略)
「どうか私に力をお貸しください。木の女神さま」
(セリフの間に、ネタバレがある・・・だから(中略)にした。実際読んで、驚いてみて)
P311
八幡宮の禰宜に聞いた聞いた話を思い出す。薬師寺の隣に八幡宮が設置された事が、今では理解できるようだった。(本作品は、前作と繋がりがあった!独立した作品と思っていたが、違った。3巻目出版が遅れたのは、資料を消化するのに手間取ったのと、講談社タイガから角川文庫に移ったのと、両方の影響?あるいは、別の要因?)
【関連図書】
「エチュード春一番 第1曲」荻原規子
「エチュード春一番 第2曲 三日月のボレロ」荻原規子
【ネット上の紹介】
八百万の神・モノクロと共に平将門の時代にタイムスリップしてしまった美綾「「これぞ荻原規子。さすが荻原規子。本の中に引きずり込まれそう」八咫烏シリーズの阿部智里も大絶賛! シリーズ続編が書き下ろしで登場! 全く新しい解釈で日本の歴史を取り込んだ超ファンタジー!
「代理母、はじめました」垣谷美雨
近未来の日本が舞台。
代理母問題を扱っている。
P75
「慈善事業じゃないんだ。ここだけの話だが中絶は儲かる」
P96
「結婚制度なんて、国が庶民を統治しやすくする目的で作られた契約に過ぎません。夫はいらないけど子供だけ欲しいんです。(後略)」
P212
卵子採取するための排卵誘発剤は刺激が強く、副作用がある。卵巣が腫れたり、腹痛、吐き気、頭痛、めまいなどがあることもあり、悪化すると血液が凝縮して腹水が溜まって血栓ができややすくなる。その結果、脳梗塞で最悪の場合死んでしまったり、後遺症が残ることもあるのだ。
【ネット上の紹介】
独身のまま子供が欲しい、もう不妊治療をやめたい、五十を過ぎたら、家族は持てない?…貧困と虐待から脱するため、少女ユキが始めたのは“代理母ビジネス”。葛藤と不合理だらけの“命”の現場で、医師の芽衣子やゲイのミチオとタッグを組み、女たちの自由を求めて立ち上がる―!不妊、高齢、独身、ゲイ―もう“タブー”だなんて言ってられない。「子を抱きたい」人々と女たちが手をつなぐ出産革命小説。