「ワンちゃん」楊逸
日本語を母語としない作家として
初めて芥川賞を受賞した著者によるデビュー作。
P11
縫製工場を辞めて、洋服の露店を出したのは彼女が十八のときのことだった。ちょうど「改革開放」の風が吹き始め、さすがに長年灰色を背負ってきたことに参っていた中国人なだけに、誰もが人民服を脱ぎ捨て、香港や台湾からの「奇装異服」を狂ったように求める時代であった。
【ネット上の紹介】
中国人女性の「王愛勤」ことワンちゃんは、名前のとおりの働き者。女好きの前夫に愛想を尽かし、見合いで愛媛の旦那のもとへ。姑の面倒をみながら、独身男性を中国への「お見合いツアー」に誘うのだった―。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者による、文學界新人賞を受賞した衝撃のデビュー作。
「リバー」奥田英朗
長編ミステリ648P。
持ち上げるのも大変な重量。
読み応えたっぷり。
刑事、マスコミ、被害者、ヤクザ・・・連続殺人犯を追う群像劇。
面白いので一気読み。
さすが奥田英朗作品。
期待を裏切らない。
エンディングも予想外。
【感想】
読んでいて、切り裂きジャックを思い出した。
調べると、イプスウィッチ連続殺人事件、ピーター・サトクリフのような類似事件があることも分かった。
【ネット上の紹介】
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で相次いで女性の死体が発見!十年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口が、街を凍らせていく。かつて容疑者だった男。取り調べをした元刑事。娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける父親。若手新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。十年分の苦悩と悔恨は、真実を暴き出せるのか―。
「天山の巫女ソニン」菅野雪虫 シリーズ再読
ひさしぶりに読み返した。
本伝5冊+外伝2冊。
天山の巫女ソニン1 黄金の燕
天山の巫女ソニン2 海の孔雀
天山の巫女ソニン3 朱烏の星
天山の巫女ソニン4 夢の白鷺
天山の巫女ソニン5 大地の翼
天山の巫女ソニン 巨山外伝 予言の娘
天山の巫女ソニン 江南外伝 海竜の子
当時も「面白いな」と思って読んだけど、
今読んでも色あせない。
キャラクターの造形、ストーリー共にすばらしい。
【ネット上の紹介】
長年の修行のかいなく、才能を見限られ天山から里へ帰された、落ちこぼれの巫女ソニン。ある日ソニンは、沙維の王子イウォルが落とした守り袋を拾う。口のきけないイウォルに袋を手渡した瞬間、ソニンはイウォルの“声”を聞いてしまい―。不思議な力をそなえた少女をめぐる、機知と勇気の王宮ファンタジー!日本児童文学者協会新人賞、講談社児童文学新人賞ダブル受賞作品。
「競争の番人」新川帆立
お仕事小説。
公正取引委員会を描いている。
思った以上に面白い。
ストーリー、キャラクターも良いんだけど、
仕事そのものについてもよく調べている。
そこがしっかりしてるから、小説も生きてくる。
以前も、著者の作品を読んだけど、
けっこうレベルが高い。
また読んでみようと思う。
【参考図書】
「倒産続きの彼女」新川帆立
【ネット上の紹介】
ウェディング業界に巣くう談合、下請けいじめ、立入検査拒否。体育会系直情女子と毒舌系天才キャリアの凸凹バディが、はびこる悪を成敗する!
「破滅の王」上田早夕里
先日、「上海灯蛾」を読んだが、本書も〈戦時上海3部作〉の1冊。
治療不可能の細菌兵器がテーマ。
P35
通常ならば、満洲に移住してきた者には満洲国籍が適用されるはずだが、移住者が日本の国籍を失うのを嫌がるという理由から、日本政府は、わざと満洲国籍を制定していなかった。
P261
治療薬にはふたつの種類があって、ひとつは有機合成技術で作る合成抗菌薬、もうひとつは自然界に存在する微生物由来の抗生物質です。サルファ剤は前者、ペニシリンは後者。
P348
石井部隊の関係者は、極東軍事裁判における戦犯としての追及を免れた。(中略)内藤良一陸軍医中佐は、かつての部隊員と共に、日本初の血液銀行「日本ブラッドバンク」を創設、同社はのちに医薬品メーカー「ミドリ十字」となった。(中略)石井自身は開業医の仕事を続け、1959年に喉頭がんで死去。享年67。(帝銀事件は遅効性の毒が使用された為、石井部隊の関係者が絡んでるのではないか、と言われた。これについて、「日本の黒い霧」で松本清張氏がとりあげている。また1980年代、「ミドリ十字」は、薬害エイズ事件を引き起こした。後に吸収合併され消滅)
「戦跡巡礼」中津攸子)
【関連図書】
「上海灯蛾」上田早夕里
【参考】
ウイルスは、栄養を摂取することがない。呼吸もしない。もちろん二酸化炭素を出すことも老廃物を排出することもない。つまり一切の代謝を行っていない。(中略)
ウイルスは自己複製能力を持つ。(中略)
結論を端的にいえば、私は、ウイルスを生物であるとは定義しない。つまり、生命とは自己複製するシステムである、との定義は不十分だと考えるのである。(P36「生物と無生物のあいだ」福岡伸一)
【ネット上の紹介】
一九四三年六月、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本敏明は、日本総領事館から呼び出しを受け、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐と面会する。宮本はふたりから重要機密文書の精査を依頼されるが、その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の新種の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を依頼されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた――。
「RDG」シリーズを再読した。
#3「夏休みの過ごしかた」P192
「戸隠流って、あれですよね。木曽義仲に仕えていた戸隠山の修験者が、義仲が討たれたあとに伊賀に落ちのびて、12世紀ごろ、伊賀忍法とあわせて編みだしたと言われる」
(中略)
「けっこう武術の土地柄だったんだよね。お隣の飯綱山からは、神道無念流も生まれているし。これは、幕末に桂小五郎とか新撰組の芹沢鴨とか永倉新八とかが使っていた剣法だよ。武田家や真田家が戦国時代に使った忍びは、戸隠・飯綱から出た者だったに違いないし、伊賀へ行かなくても調べてかなりおもしろいんだよ、この地方の忍者たちは」
#6「星降る夜に願うこと」P108
「花咲かじいさんの犬?でも、裏の畑で大判小判を嗅ぎ当てた犬って、たしかブチ犬じゃなかった?」
高柳がすばやく言った。
「正しいのは白い犬だ。古い語りものには、神性の象徴として白い動物が出てくるからで、唱歌に出てくるポチという名前は、後年の後知恵だ」(明治6年に「畜犬規則」が制定されると、飼い主の名札がついていない犬は野犬として殺処分されるようになってしまいました。このことがきっかけとなって各家庭で犬を飼うようになったのですが、その犬に多かったのが和犬ではなく、当時ステイタスとされていた「カメ(洋犬)」でした。そして、西洋式に「カメ」らしい名前をということで、「ポチ」や「ジョン」などといった名前が個別につけられるようになったということ・・・それまでは、「トラ」「クマ」「クロ」といった毛の色や大きさなど、見た目からついた名前で呼ばれていました、とのこと・・・「日本語の大疑問」P241国立国語研究所より)
「 エチュード春一番 第3曲 幻想組曲〈狼〉」荻原規子
2年ぶりに読み返し。
平将門の時代にタイムスリップする話。
このシリーズ、第4弾出るのだろうか?
【参考リンク】
「 エチュード春一番 第3曲」荻原規子
「エチュード春一番 第1曲」荻原規子
「エチュード春一番 第2曲 三日月のボレロ」荻原規子
【ネット上の紹介】
八百万の神・モノクロと共に平将門の時代にタイムスリップしてしまった美綾「「これぞ荻原規子。さすが荻原規子。本の中に引きずり込まれそう」八咫烏シリーズの阿部智里も大絶賛! シリーズ続編が書き下ろしで登場! 全く新しい解釈で日本の歴史を取り込んだ超ファンタジー!
「上海灯蛾」上田早夕里
1930年代、アヘンと青幇がテーマ。
上海が主な舞台だが、香港、満洲、ビルマにも移動。
想定以上に面白かった。一気読み。
上海裏社会が描かれるので、一癖ある人物ばかり登場する。
唯一、沈蘭の存在が普通なので救われる。
P29
青幇とは、中国社会を裏から支えている秘密結社である。その歴史も清の時代まで遡れる。河川で暴れる水賊から積み荷を守るため、水運業者が結束したのが始まりだ。当時、清政府は結社を禁じていた。加えて、水運業者はその頃から禁制品を運んでおり、秘密組織として成長せざるを得なかったのだ。
P42
「生まれつき体からいい匂いがする体質のことです。伝説によれば楊貴妃がそうだったとか。香水をつけなくても香りが常に漂い、体を洗ってもとれません」(中略)
芳香異体。
【ネット上の紹介】
一九三四年上海。「魔都」と呼ばれるほど繁栄と悪徳を誇るこの地に成功を夢見て渡ってきた日本人の青年・吾郷次郎。租界で商売をする彼のもとへ、原田ユキヱと名乗る謎めいた女から極上の阿片と芥子の種が持ち込まれる。次郎は上海の裏社会を支配する青幇の一員・楊直に渡りをつけるが、これをきっかけに、阿片ビジネスへ引き摺り込まれてしまう。やがて、上海では第二次上海事変が勃発。関東軍と青幇との間で、阿片をめぐって暗闘が繰り広げられる。満州から新品種を持ち出されたことを嗅ぎつけた関東軍は、盗まれた阿片と芥子の種の行方を執拗に追う。一方、次郎と楊直はビルマの山中で阿片芥子の栽培をスタートさせ、インドシナ半島とその周辺でのモルヒネとヘロインの流通を目論む。軍靴の響き絶えない大陸において、阿片売買による莫大な富と帝国の栄耀に群がり、灯火に惹き寄せられる蛾のように熱狂し、燃え尽きていった男たちの物語。
「海が聞こえる」氷室冴子
久しぶりの読み返し。
土佐、東京を舞台にした氷室冴子作品。
ジブリ作品になったので内容ご存じかもしれない。
宮崎駿作品とは異なる路線の先駆けでもある。
あらすじは、里伽子の父母が離婚。
母親の実家がある高知県に、高校2年2学期に引っ越すことになる。
東京に父と残りたかった里伽子は、土佐の高校生活に馴染めず、他生徒と軋轢を生じる。これらのことが、土佐の高校生・杜崎拓君の1人称で語られる。
以上簡潔にまとめたら、自分勝手なワガママ女に振り回される男の話。
今この手の話は時々あるが、先駆的な作品と思う。
P63
「妻持ちで浮気っていう常識からいえば、卑怯なやつかもしれないけどさ、知沙も男を見る目はあったわけだよ。だけど先着順だからな、こういうのは」(一夫一婦制なので、結婚は先に出会ったもの勝ち、っていう面がある。そういう意味で、「先着順」である。不倫は電車の順番待ちで横入りしてちゃっかり座る大阪のおばちゃんのようなもの。それにしても、米国なら3組に2組、日本なら3組に1組が離婚するのに、「法律婚」を国策・行政・福祉の根幹に据えているのも考えもの)
P248
「選手生活やってた10年間で覚えたのは、負けることだって」
「負ける・・・・・・」
「どんなに努力しても、どんなに練習つんで万全だと思っても、やっぱり神様に愛されたやつってのが、スポーツ界にはいるんだそうだよ。骨格とか筋肉のつき方、それとセンスな。これはもう、どうしようもないんだそうだ」
以下、Wikipedia「海がきこえる」からの抜粋。
ジブリとしては宮崎駿や高畑勲が全く関わらない初めての作品となり(中略)
鈴木敏夫は「宮崎・高畑には絶対に作れない作品。彼らにしか描けないものがちゃんと描けている」と絶賛している。
宮台真司は、宮崎駿との対談において「『耳をすませば』よりも『海がきこえる』の方がより現実的な女子中高生の描写ができている」と発言し、二人の間で論争となった。
1995年公開のスタジオジブリ作品『耳をすませば』は、同作の脚本・絵コンテ・製作プロデューサーを担当した宮崎駿が『海がきこえる』に触発されて制作に乗り出したものであるとされ、同じ若者の恋愛物をぶつけてきたことについて近藤勝也は「ジブリの恋愛物と言えば『海がきこえる』ではなく『耳をすませば』を皆が連想するようにしたかったのでは」と推測している。また、2011年公開の宮崎駿企画のスタジオジブリ作品『コクリコ坂から』とは脚本とキャラクターデザインが共通であるなど非常に密接な関係がある。
「耳をすませば」「コクリコ坂から」より、「海が聞こえる」が面白いと思う。
やはり、原作・氷室冴子さんの力量と言える。
早世されたのが残念でしかたない。
PS
会話が見事な土佐弁で描かれている。
氷室冴子さんは、「雑居時代」では、大阪弁を駆使されていた。
感心した。
もしだけど、「RDG」で、高柳一条が京都弁で話したらどうなんだろう?
荻原規子さんは、あえて標準語で会話を進めている。
物語の雰囲気がだいぶ違ってくるかも。
【ネット上の紹介】
写真の里伽子を見ているうちに、いくつかの里伽子がいるシーンが甦ってきた。六年生(高3)になって同じクラスになったことや。ゴールデンウィークの小旅行や。ふたりで泊まったホテルや、いろんなことを。ぼくにはわりに楽しかったり、驚いたりもしたいくつかのことも、里伽子には、なんの意味もなかったわけだな。それはなんだか、すこしばかり淋しいことだった。ぼくはそのとき初めて、里伽子をすごく好きだったことに気がついて、とりかえしのつかないような気持ちになった。作家生活15周年を期して氷室冴子が贈る、土佐、そして東京を舞台にした青春小説の決定版。
「悪魔のような花婿」シリーズを再読した。
次の10冊からなる。
「悪魔のような花婿」
「遅れてきた求婚者」
「薔薇の横恋慕」
「ダイヤモンドは淑女の親友」
「愛と誘惑の黄金宮」
「魔女たちの仮面舞踏会」
「魔法使いの恋人」
「薔薇の祭典」
「エメラルド島の花嫁」
「プリンセス・フェスティバル」
「遅れてきた求婚者」P206
先ほど聞こえていた「シャキーン・・・・・・シャキーン・・・・・・」という物騒な金属音は何かと思ったら、尼が首にかけていた銀鎖を打ち鳴らす音だった。
悪魔や魔のものは大きな金属音を嫌うとされているので、聖職者は知らない場所に入るとき、身につけている装身具をそのように鳴らす習慣があるのである。
「薔薇の横恋慕」P98
「子どもたちは天使ではないわ。誰の中にも良い芽と悪い芽がある。周囲がせっせと悪い芽に水をやっていたら、その中でそちらが大きく育ってしまうのは当然のことよ」
「薔薇の横恋慕」P139
マザーフィールドの領地を治めることになった夫に若きモード・パイパーが求めたものは、領民たちへの慈悲の心、仕事への情熱、家族への愛情、妻への誠実さといったものだった。
その全てを完璧に満たしてもらえるとは彼女自身も思っていなかっただろう。だが、ただの一つも与えられないとはさすがに考えなかったはずだ。
「薔薇の横恋慕」P151・・・誤植
(誤)――ヒューを遅い、紋章印を奪った
(正)――ヒューを襲い、紋章印を奪った
「ダイヤモンドは淑女の親友」P273-4・・・エリザベス登場
「そんなに疑うなら彼に直接聞いてみればいいんだわ。――『あなたは本当に記憶をうしなっているんですか、ウイリアム』」
ジュリエットを膝に乗せている娘がいきなり古語ではなしかけてきた。
「『ええ、そうです。あなたの発音はとってもきれいですね。エリザベス』」
(中略)
(エリザベスは順序で言えば11番目の子どもか。ジュリエットと一番仲のよかった姉――シャムロックの修道院に入ったというのはこの子だな。賢そうな顔立ちのきれいな娘だ)
「愛と誘惑の黄金宮」P260
(誤)――ジュリエットを急いで彼に駆け寄った。
(正)――ジュリエットは急いで彼に駆け寄った。
「魔女たちの仮面舞踏会」P194レディ・エリノアのセリフ
「それを否定するつもりはないわ。私は愛を感じたことはないけれど、愛の存在を主張する人々が全員揃って嘘を言っているとも思わないから。幽霊のようなものね。ある人は確かに見たと言い、ある人はただの幻だと言う……。(後略)」
「魔女たちの仮面舞踏会」P204ジュリエットのセリフ
「でも、あの、生意気なことを申すようですけど、わたしにとって、愛の存在を疑うことは自分を疑うことと同じように思われます、王妃さま。両手をながめて、これは本当に自分の手なのかと考えるような・・・・・・わたしは家族から惜しみない愛情を与えられて育ちましたし、それは確かにわたしの一部になっていると感じますの。愛など幻だと否定したら、それを一部としているこのわたしも幻ということになってしまう気がします」
「魔女たちの仮面舞踏会」P205エヴァンジェリン王妃のセリフ
「愛はたくさんの顔をもった怪物だわ。微笑みを浮かべた美しい顔だけを探すから、愛が見えないのよ」
「魔法使いの恋人」P227
スープの味を知るのに鍋1杯のスープを飲みほす必要はない、という理屈もわからなくはない。最初の1匙2匙でそれが自分の口に合うかどうかは判断できるものだ。
「たんぽぽと卵」P255
「落ちたらまた受ければいい」
リオンは言った。
「それでもだめなら、他の場所で、あなたにふさわしい他の道を新たに探し始めればいい――エリザベス・スプリング」
初めて彼からその名前で呼ばれ、エリザベスがかすかに目を見開いた。
(エリザベスを主人公としたスピンオフを読みたい)
【参考リンク】1
「悪魔のような花婿」シリーズ再読
「嘘つきは姫君のはじまり」再読
「サウスバウンド」再読
奥田英朗作品はどれも面白いが、本作品はその中でもトップクラス。
2005年 キノベス!受賞作。
2部構成で、小学校六年生・長男の二郎の視点で描かれる。
第1部=東京編
第2部=西表編
P267
翌朝、母に話があると言われた。朝ごはんをかき込んでいると、「食べながらでいいから、話を聞いて」と母がテーブルに腰を下ろしたのだ。(中略)
「我が家は、沖縄の西表島に引っ越すことにしました」
P315
「ヤイマって何よ」
「八重山のこと。宮古より南は全部八重山。石垣や西表もそう。同じウチナーでも沖縄とはちがうの」
「沖縄とちがうって、ここ、沖縄じゃないの?」
「そうだけど、そうじゃない」
【感想】
西表島には空港がない。
アクセス方法は、石垣島まで行って、そこから港に約1時間かけて移動。
フェリーターミナルから、船で約1時間で西表島に到着。
港は2箇所、大原港と上原港。
2021年1月に石垣島に行って1週間ほど滞在したけど、西表島には行けなかった。
次回は、ぜひ訪問したいと思っている。
「石垣島2021」
【ネット上の紹介】
小学校六年生になった長男の僕の名前は二郎。父の名前は一郎。誰が聞いても「変わってる」と言う。父が会社員だったことはない。物心ついたときからたいてい家にいる。父親とはそういうものだと思っていたら、小学生になって級友ができ、ほかの家はそうではないらしいことを知った。父はどうやら国が嫌いらしい。むかし、過激派とかいうのをやっていて、税金なんか払わない、無理して学校に行く必要などないとかよく言っている。家族でどこかの南の島に移住する計画を立てているようなのだが…。型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、長編大傑作。
「これは経費で落ちません!」(10)青木祐子
シリーズ最新刊。
経理から見た、オフィス人間模様。
今回は、沙名子の会社に税務調査が入る。
経理部として、その対応と周囲の様子が描かれる。
P104
とりたてて優秀でも努力家でもないが、常に安定していて大きな失敗をすることがない。貴重な資質である。(自分の属する部署の雰囲気を壊さず、自分に害を及ばさなければ、それでOK、と。確かに安定しているというのは、大きな美点だ。気分屋の人は、周りが振り回されて迷惑する)
P133
会社は失敗したら辞めればいいが、人生はやめるわけにはいかない。
【参考リンク】
「これは経費で落ちません! 」①―⑧青木祐子
「これは経費で落ちません!」(9)青木祐子
【ネット上の紹介】
天天コーポレーションへの税務調査が始まった。やって来た四人の調査官の対応は経理部の仕事のため、沙名子も気合が入る。調査官たちは想像していたよりも穏健だが、抜け目のない印象。詳細の説明のために呼び出された社員が余計なことを喋りそうになるなど、想定外の事態もあるので緊張は解けない。社交性豊かな営業部員などは特に要注意だ。大きな懸念は、吸収合併したトナカイ化粧品関連だ。合併前のものに関しては経理処理も修正納税も済んでいるはずだが、もしかしたら何か新事実が出てくるかもしれず…? そして先日、沙名子が太陽に言われた「結婚しよう」という言葉。太陽も沙名子も、結婚というものをどう捉えるかに悩み、じれったいままに時間は過ぎていくが…?
「赤ちゃんと教授」松田志乃ぶ
松田志乃ぶファンなので、読み残していた作品を読んだ。
やはり面白い、想定以上。
P179
「キウイハズバンドって、たしか、ニュージーランドの既婚男性を指した言葉ですよね」
ニュージーランドの国鳥、キウイはオスがメスに代わって卵を温め、雛にかえし、その後も積極的に子育てをするという習性がある。
そこから、育児や家事に熱心な男性をキウイハズバンドと呼ぶのだ。
P187
「ビスポーク?」
「Be-spoke。職人がお客の注文に応じて一から仕立てる高級服や靴のこと。オーダーメードは和製英語でしょ。(後略)」
P243
「子どもは保護すべき対象であり、成人と同じだけの全面的な自立性は有さないものの、成人と同じく権利行使をもつ主体として、その成熟度に応じて意思を表明する権利を有するものとして扱わなければならない。――これは、国連が制定した”子どもの権利条約”で述べられている規定の概略で、教育原理を学ぶ人間は必ず覚えるものなんですが、どうしても薄れがちになってしまう理念でもあるんですね。(後略)」
【ネット上の紹介】
職ナシ・家ナシ・貯金ナシ。貧乏だが有能なベビーシッターの鮎子は不運なトラブルで家と仕事をいっぺんに失ってしまう。偶然立ち寄った公園で坂道を疾走してくるベビーカーを助けた鮎子は赤ん坊の養父である大学教授、島津伊織に雇われることに。美形でお金持ちの完璧紳士、島津教授は鮎子に驚きの申し出をして…「あなたにはぼくの婚約者になってほしいんです」!?謎も育児もお任せ!最強乳母のお仕事小説。
「ベビーシッターは眠らない」松田志乃ぶ
親権、里親、児童相談所、いろいろ問題が浮き彫りになる。
とても興味深い。
一般ライトノベルのレベルを超えている。
やはり、松田志乃ぶ作品は面白い。
P147
タツノオトシゴのつがいは、メスがオスの腹部にある育児嚢と呼ばれる袋の中に卵を産みつけ、オスの体内で受精させる。繁殖におけるメスの役目はこれだけで、受精卵が稚魚となるまで、子どもたちを体内で守り、出産するのはオスの仕事である。
P152
家族というのは、たいてい、一度の失敗、一打の衝撃だけでは壊れるものではない。小さなひびが重なり合って、ある日、ついにバラバラになる。
P266
愛は恐ろしく変容しやすく、化けやすい、厄介なしろものだ。胸に抱いていた「愛情」が知らぬうちに「執着」や「支配」にとってかわられていることもある。血のつながりがあることは、その問題を少しも解消しないし、むしろ、あるからこそ、自分の親としての正当性を疑わず、これは愛だと信じきって、我が子の口にせっせと毒をそそぎ続ける人間もいる――。
【ネット上の紹介】
各種資格を保有する、プロのベビーシッター・茨木花。今度の派遣先は、両親ともに政治家という大和家だが、母親の不貞で夫婦関係は破綻し、父子家庭になるらしい。3歳になる娘・七海のシッターになる花だが、七海の誕生パーティー当日、プレゼントをめぐるある事件が起きて……? また、七海と同じスイミングスクールに通う、5歳の男の子・葉山櫂と知り合った。賢くて人懐っこい櫂は、不動産業を営む優しい父親と、お菓子作りが得意な母親と三人暮らし。誰からも幸せそうに見える葉山一家。しかし、ふとしたきっかけで、この理想的な家族に思いもよらない秘密があることに気づいた花は……。夫婦にも、親子にも、家族の数だけ、秘密があるーー。でも、子どもにはいつも笑っていてほしい。涙と希望のヒューマンドラマ。
「粗茶一服」シリーズ再読した。
3冊いっきに読むと、最初から全体の構成を考えて書いているのが分かる。
このシリーズは面白いので、コンスタントに再読している。
【参考リンク】
「雨にもまけず粗茶一服」松村栄子
「風にもまけず粗茶一服」松村栄子
「花のお江戸で粗茶一服」松村栄子
「粗茶」シリーズ再読