【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「引き抜き屋」①②

2021年05月26日 14時48分06秒 | 読書(小説/日本)

①「引き抜き屋 鹿子小穂の冒険」雫井脩介
②「引き抜き屋 鹿子小穂の帰還」雫井脩介

昨年も読み返したが、今年も再び読み返した。
新米ヘッドハンターの活躍を描くお仕事小説。
終盤はM&Aを描く企業小説の様を呈する。
 
①P156
 ヘッドハンティングは、その業界ではエグゼクティブサーチとも言われ、ヘッドハンティング会社はサーチファームという名で呼ばれている。ヘッドハンターはコンサルタントという肩書きが付くのが一般的だ。
 サーチファームは数人のヘッドハンターと、それを支えるリサーチャーなどのスタッフで構成されている。大手と言われるサーチファームでも、在籍するヘッドハンターはせいぜい十人そこそこというところである。一匹狼で業界を渡っているヘッドハンターもいる。必要な資格はなく、参入障壁もないから、ビジネススタイルもそれぞれだ。ただし、人脈がなければ何もできないし、能力がなければ信頼は勝ち取れず、依頼は回ってこない。誰でもできるようでいて、誰もができるわけではない仕事である。

①P256
「へえ、山登りですか……私もここんとこは全然登ってないですね」(中略)
「何か、昔はよく登ってたみたいな言い方だね」(中略)
「登ってましたよ」
「へえ」小穂が真顔で応じたので、畔田は見直したように感嘆の声を発した。「山ガールってやつか。人は見かけによらないね」
「見かけによらないも何も、以前は私、アウトドアメーカーの[フォーン]で働いていたんですから」(中略)
「そりゃ失礼。だったら、山登りなんかお手のものだね。今まで、どんな山に登ってきたの?」
「高尾山です」

②P60-61
「いやあ、ただ壁を登るだけなのに、ボルダリングって、やってみると奥が深いですね」(中略)
「一つ手を間違えたり、簡単なほうに逃げたりしてると、結局、あとになって、にっちもさっちもいかなくなっちゃうんですよね。大局観と戦略が必要だし、ある意味、経営の極意にも通じますよね」

渓流釣りのために遡行していて大きな岩を登る小穂
②P371
不意に、頭上に影が差した気がした。その影がもぞもぞと動いている。
「熊がいます~!」小穂は岩壁にしがみついたまま、畔田に助けを求めた。「熊スプレーくださ~い!」
「ははは、誰が熊だよ?」
 頭上で男の快活な笑い声が立った。
「ク、クマゴロー……?」
「クマゴローじゃねえよ」男はまた笑う。
「ダイゴロー、引き上げてやってくれ」畔田が下から声を上げる。
「ほら、もうちょっとだ。がんばれ」

【感想】1
登場人物それぞれに個性的で魅力がある。
特に、ヒロインの情に厚く、時に、とぼけた感じがいい。
最初、新米らしく「ひよっこ」感満載だったけど、章をおって成長していく。
各章によって、ビジネス内容が変わり、業界の内実も知れて興味深い。
構成も緻密で、①の出だしと②の最期で、つじつまが合うようになっている。(びっくり)
 
【感想】2
本書は①②同時出版され、その後、③は出ていない。シリーズ化されることを切に願う。(著者は、「犯人に告ぐ」シリーズが有名だけど、私はこちらの方が好みだ)
 
【ネット上の紹介】
父が創業した会社で若くして役員となった鹿子小穂は、父がヘッドハンターを介して招聘した大槻によって会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのは、奇しくもヘッドハンティング会社だった。新米ヘッドハンター・小穂は、一流の経営者らに接触するなかで、仕事や経営とは何か、そして人情の機微を学んでいく―。緊迫感溢れるミステリーで人気の著者が新境地に挑んだ、予測不能&感涙のビジネス小説。

「これは経費で落ちません! 」①―⑧青木祐子

2021年05月11日 08時00分28秒 | 読書(小説/日本)

「これは経費で落ちません! 」①―⑧青木祐子

読みやすくて面白い「お仕事小説」、オフィス人間模様が描かれる。
①から⑧まで再読した。
④から美華が(本格的に)登場し作品魅力度が増す。(③は挨拶だけ)
沙名子は基本、トラブルを避けようとするので、思わぬ方向へ物語が向かう、ってのがない。その点、美華は暴走する。真面目なだけに、傍から見ておかしい。
いまや、麻吹美華抜きで、このシリーズは考えられない・・・ツイン・リードシステム。

②P11
「ウサギを追うなってのはなんですか?森若さん」
(中略)
「雑念に惑わされるなって意味。(後略)」
(中略)
「昔の映画にあったのよ」
沙名子の好きなハリウッド映画、『パシフィック・リム』の中にあった台詞である。(でも、もともとは『アリス』だと思うけど・・・映画「マトリックス」でも「白ウサギについて行け(Follow the white rabbit.)」と出てくるし)
ファクスはいまや遺物としてスミソニアン博物館にあるという。

③P239
「おはようございます。みなさん」
(中略)
「(前略)仕事において、何より人生において、常に正しくありたいと思っています」
美華がそう言ったとき、沙名子がぐっと右手を握りしめるのが見えた。
なんかスイッチ入った。(麻吹美華登場!)

④P25
「――ああ、『新感染』、ゾンビ映画ですよね。あれまだ観てないんです。いいですか」
「なかなかいいです。わたしは劇場で観ました」(続編もおもしろかった)

④P28
美華は何を考えているのだ。言いたくても言わないほうがいい言葉というものはあるではないか。たとえ、みんなが考えていることであっても。
入ったばかりの会社で、全方位にケンカを売ってどうするのだ。
無理にフレンドリーになる必要はないが、信頼をなくしてはならない。嫌われるのは、親しくなりすぎるのと同じくらい始末が悪い。

④P207
性格に癖があっても仕事のできる人間のほうがいい。

④P226
「どうして決定的な失態をすると?」
「有本さんは頭が悪いからです。アンフェアです。あんなやり方が、社会に通じるわけがないです。彼女はどこかでつまずくはずです。そうじゃなきゃおかしい」
(中略)
 あちこちでつまずいているのは美華のほうではないか。マリナと美華、頭がいいのはどっちだ。正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある。
 
⑤P58
「静岡に一泊――ですね」
 沙名子は出張計画書を数秒眺めた。
 透明な水晶が燃えあがる。(山崎は「共感覚」の持ち主なのか?「共感覚」は感情や言葉を色で認識するという・・・沙名子は山崎にとって「透明な水晶」なのだ。だからかまわずにいられない。ちなみにこの能力は、「 臨床真理」「天空の犬」でも取り上げられている)
 
⑤P60
昔は人の精神というものは年齢とともに成熟していくと思っていたが、実は生まれたときが完璧で、少しずつ欠けていくのかもしれないと思う。(歳をとって精神的に成長し、穏やかになるなら誰も苦労しない・・・自身のクライミングに関して言うと、年齢とともにプライドだけが高くなり、実力は低くなる、悲涙)

⑤P106
――大人の友情にはメンテナンスが必要です。

⑤P177
「(前略)いくら性格が良くたって、モテるブスなんてこの世に存在しないっつーの!」

⑤P237
「楕円のボールだ。自分だけならどうにでもなるが、他人はわからん」
 勇太郎はつぶやいた。
「そのとおりです。そして他者のいない社会はありません」
 沙名子は言った。(中略)
「――いえ、その考えは間違っています。過度な期待はすべきではないですが、人間関係が成り立っているのは最低限のコンセンサス、自分にも相手にも良識があるという前提があってのことです」
 口をつっこんできたのは美華である。
(中略)
「こっちが正しいと思ってたのが、相手にとって正しくない場合もありますよ。そういう場合はどうすればいいんですか?」
 真夕が割って入った。(経理の面々の性格と考えがでるシーン)

⑥P47
彼氏ができたからといって沙名子自身は変わらない。すりあわせが必要なだけだ。スマホに新しいアプリを入れたようなものである。ちょっと面倒なアプリだが、そこそこ役立つし楽しいので使うことにする。(森若さんのキャラが良く出ているモノローグだ)
 
⑥P257
美華はおそらく普通に生活していたら接点はない、同じクラスにいても友達にならないタイプだが、今は仲良くなっている。(接点のない人と出会い話をする、って良いことと思う・・・無理すると疲れるので、まぁ、ほどほどに・・・)

⑦P33
(前略)――結婚、出産することは会社への迷惑、わたしの悪いところであるということですか」
(中略)
仕事とは幸せになるためにするもので、幸せを阻害するものではないはずでる。誰にでもある人生の転機を迷惑と責められるのなら、真面目に働くのがバカバカしくなる。
 
⑦P63
会社とは労働分の報酬を引き出すATMであって、私生活に入ってこられたら迷惑なのだ――
 
⑦P105
自分がいないとまわらないと思っているのは本人だけだ。
 
⑦P160
美しい女性だと思った。憎しみと優しさが混在して、不思議な迫力がある。愛した男との別れを決意すると、女性はこういう顔になるのか。
機嫌がいいと思ったのは間違いで、決意が固まって気持ちが高揚しているのかもしれない。離婚ハイ。そんな言葉があるかどうか知らないが。
 
鎌本の結婚観
⑦P183
「森若は出世しそうだし貯金ありそうだろ。土下座して頼んできたら結婚してやらんでもない。ただし仕事を辞めることは許さない。給料は俺が没収で、金の管理は俺の母親。家事育児は全部やること。夕食のおかずは三品以上。そうでもなきゃ結婚に男のメリットないだろ」(さすが嫌われキャラ屈指の鎌本である。どこから突っ込んでいいのか分からないぐらいの発言。山崎さん曰く、「欠損している」)

⑧P127
「(前略)なんで彼女ってそういう手間とワンセットなんですかね」
(中略)
世の中には一定数、人間関係の手間を面倒と変換する人間がいるようである。

⑧P165
「そういう時期ってないですか。(中略)過去の決断は正しかったのか確認したくなるときが。確認したからってどうにかなるものでもないのに」

「入力ミスはないです。変動給与がこれでよかったのかなと思って。(後略)」(給与計算の重要ポイントは変動項目の入力・・・そもそもこの言葉自体がtechnical termなので、知る人は少ないように思う)

⑧P210
美華は相手への好き嫌いや立場など考えず、正しいと思ったことを正しいと言う人間である。

⑧P212
「――玉村志保さんですか」
美華が言った。
沙名子は驚かなかった。うっすらとそうではないかと思っていた。
この件の腑に落ちなさ、ざらりとした嫌な感触は、志保に対して感じるものと同じである。

P216
不必要に喧嘩腰になることはできるのに、友好的に人に何かを尋ねたり報告したりすることはできない。雑談が嫌いなくせに口が軽い。このあたりは矛盾しないものらしい。真夕は志保の反対で、お喋りで雑談好きだが、大事なことは喋らない。(ここだと思う。信用されるかどうかの要だ。志保は鎌本とならんで、シリーズ屈指の嫌われキャラ。志保の場合は、性格が悪いと言うより、コミュ力がなくて周りが迷惑、ってのが大きい)

【参考リンク】
「これは経費で落ちません! 」①―⑥青木祐子

「これは経費で落ちません」(7)青木祐子

「これは経費で落ちません」(8)青木祐子

 

「これは経費で落ちません」(8)青木祐子

2021年04月21日 17時45分41秒 | 読書(小説/日本)

「これは経費で落ちません」(8)青木祐子
シリーズ最新刊、8巻目。
合併後のごたごたを背景に、主任になった沙名子の活躍とオフィス人間模様が描かれる。今回もおもしろかった。よく出来ている。

P127
世の中には一定数、人間関係の手間を面倒と変換する人間がいるようである。

P165
「そういう時期ってないですか。(中略)過去の決断は正しかったのか確認したくなるときが。確認したからってどうにかなるものでもないのに」

P210
美華は相手への好き嫌いや立場など考えず、正しいと思ったことを正しいと言う人間である。

P212
「――玉村志保さんですか」
美華が言った。
沙名子は驚かなかった。うっすらとそうではないかと思っていた。
この件の腑に落ちなさ、ざらりとした嫌な感触は、志保に対して感じるものと同じである。

PS1
毎回そうだけど、『エピローグ』よかった。

PS2
美月が登場しないのが、少し淋しい。

【ネット上の紹介】

トナカイ化粧品を吸収合併した天天コーポレーションだが、経理部に増員はなかった。おかげで沙名子たち経理部員は連日残業続き。大阪営業所へ転勤となった太陽からはしょっちゅう電話もかかってきて、遠距離恋愛になっても関係は安定していた。ところが天天コーポレーションのイベントを取材に来た記者が、太陽の元カノだったことで沙名子の心はざわつき始め…?

「廃墟に乞う」佐々木譲

2021年02月23日 08時46分13秒 | 読書(小説/日本)


「廃墟に乞う」佐々木譲

北海道を舞台にした、連作短編警察小説。
過去の事件により、PTSDとなった刑事が主人公。
休職中と言うことで、プライベートであちこちから事件調査の依頼が舞い込む。
北海道各地を巡ることになり、各地の風景、歴史、風俗が語られる。
そこが本作品の大きな魅力となっている。
第百四十二回直木賞受賞作。

P11
「どうしてそんなことを、おれに頼む」
 聡美は答えた。
「仙道さんが有能な刑事だと知っているからです。そしていま自宅療養中で、暇だと聞いているから」

P201
いまどきの娘がいきなり風俗営業の門を叩くことはないのだ。
家出同様に実家を出たその時期に、たぶん由美の人生には男が現れたはずである。

【備考】
北海道の旅のお供に持って行った1冊。
釧路から知床への移動で一気読み。

【ネット上の紹介】
十三年前に札幌で起きた殺人事件と、同じ手口で風俗嬢が殺害された。道警の敏腕刑事だった仙道が、犯人から連絡を受けて、故郷である旧炭鉱町へ向かう表題作をはじめ北海道の各地を舞台に、任務がもとで心身を耗弱し休職した刑事が、事件に新たな光と闇を見出す連作短編警察小説。第百四十二回直木賞受賞作。


「十の輪をくぐる」辻堂ゆめ

2021年02月21日 08時00分10秒 | 読書(小説/日本)


「十の輪をくぐる」辻堂ゆめ

泰介は、妻と自宅で母を介護している。
母は認知症で、その日の体調により、良かったり悪かったり。
ある日、「私は、東洋の魔女」、と意味不明の言葉をつぶやく。
過去と現在が交錯しながら、物語が進行する。

個人的には、「1958年9月」の章が一番好き。
母・万津子が集団就職で、寮生活を送りながら、紡績会社で働く日々が描かれる。
ほとんど、NHK「ひよっこ」の世界だ。
やがて、九州に戻って結婚するも「事件」が起こって、東京へ出てくる。
いったい、何があったのか?

読了後、気になるのは、あやちゃん・つねちゃんの「その後」。
スピンオフがあってもいいかも。

【ネット上の紹介】
スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は…東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく―。


「展望塔のラプンツェル」宇佐美まこと

2021年01月09日 09時19分20秒 | 読書(小説/日本)


「展望塔のラプンツェル」宇佐美まこと

児童虐待がテーマ。
故に、読んでいて楽しくない、逆に、苦しい。
でも、物語の流れ着く先が気になって、やめられない。
そんな作品だ。
なお、本書は、2019年「本の雑誌ベスト10」第1位。

【蛇足】
毎回、このような重い作品を読むのはしんどいが、たまにはいいかも。
ただ、軽い作品が好きな方は、やめておいた方が良い。
・・・心のダメージが大きいから。

構成がよいので救われる。
過去と現在が絡み合い進行する。
最後に、「あっ」となる。
この構成がなければ、ここまで評価されなかったかも。

【ネット上の紹介】
多摩川市は労働者相手の娯楽の街として栄え、貧困、暴力、行きつく先は家庭崩壊など、児童相談所は休む暇もない。児相に勤務する松本悠一は、市の「こども家庭支援センター」の前園志穂と連携して、問題のある家庭を訪問する。石井家の次男壮太が虐待されていると通報が入るが、どうやら五歳児の彼は、家を出てふらふらと徘徊しているらしい。この荒んだ地域に寄り添って暮らす、フィリピン人の息子カイと崩壊した家庭から逃げてきたナギサは、街をふらつく幼児にハレと名付け、面倒を見ることにする。居場所も逃げ場もない子供たち。彼らの幸せはいったいどこにあるのだろうか―。


「緑の庭で寝ころんで」宮下奈都/

2020年12月29日 19時33分18秒 | 読書(小説/日本)

「緑の庭で寝ころんで」宮下奈都

単行本で既に読んでいるけど、文庫化されたので、購入した。
単行本で収録しきれなかったエッセイも含まれている。
これで、6年分のエッセイ完全版、となる。
宮下奈都ファンは必読でしょう。

P395
がんばることはとても大事なことだけど、がんばっても望みど通りの結果が出るとは限らないと知ることもまた大事なことだと思うのだ。
 ただし、そのためには精いっぱいがんばることが必要だ。努力して初めて、努力自体が大事だったのだと知ることができる。いい結果も、よくない結果も、受けとめる土壌ができる。

【ネット上の紹介】
ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する宮下家の三兄妹。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ連載「緑の庭の子どもたち」6年分を完全収録。さらに本屋大賞受賞時のエピソード、自作解説ほかエッセイ62編、掌編小説や音楽劇原作など創作5編も収め、宮下ワールドの原風景を堪能できる一冊!
1章 緑の庭の子どもたち2013‐2015
2章 日々のこと
3章 本のことなど
4章 自作について
5章 羊と鋼と本屋大賞
6章 緑の庭の子どもたち2015‐2017
7章 緑の庭の子どもたち2017‐2019


「私という運命について」白石一文

2020年12月04日 16時51分37秒 | 読書(小説/日本)
「私という運命について」白石一文

ヒロインが結婚式招待状をもらうところから始まる。
新郎は元カレ、新婦は職場の同僚。
29歳から40歳までの10年が描かれている。
1993年からの時代背景も語られるので、そちらも興味深い。
細川連立政権とか、男女雇用機会均等法、とか。

P298
そのとき分かったんです。自分の気持ちというのは、どんなに頑張っても理解されないことがあるんだなって。そして、妻である女が『私だって』と言うしかなくなったらもう終わりだなって。人と人との縁はこんな風に切れるんだ、すごいなあと思いました」

【経緯】
先日、「一億円のさようなら」を読んで面白かったので、評判の良い本作も読んでみた。けっこう楽しめた。機会があれば、他の作品を読むかも。

【ネット上の紹介】
大手メーカーの営業部に総合職として勤務する冬木亜紀は、元恋人・佐藤康の結婚式の招待状に出欠の返事を出しかねていた。康との別離後、彼の母親から手紙をもらったことを思い出した亜紀は、2年の年月を経て、その手紙を読むことになり…。―女性にとって、恋愛、結婚、出産、家族、そして死とは?一人の女性の29歳から40歳までの“揺れる10年”を描き、運命の不可思議を鮮やかに映し出す、感動と圧巻の大傑作長編小説。

「一億円のさようなら」白石一文

2020年11月10日 08時34分51秒 | 読書(小説/日本)
「一億円のさようなら」白石一文

とても面白かった。
ストーリーは、長年連れ添った妻の秘密を知ることから始まる。
妻に隠し財産があったのだ・・・それも48億円!

P55
鉄平は固唾をのんで北前弁護士の答えを待った。
「そうですね。30年前に加津代ヘンダーソンさんから相続した遺産が日本円で34億円余りで、そのうち2億円がトロント・バイオテクニカル社の株式になり、この株式が時価で16億程度と見積もられていますので、総額にしますと34億マイナス2億プラス16億で大体48億円程度という金額になるかと思います」

P416
「先輩、とにかく商売は追いかけちゃ駄目なんです。どんと受けて立たないと」

P650
夫婦が別れるというのは、「結婚生活」を解消するということだが、「結婚」を絶つのは案外簡単でも、長年二人で慣れ親しんできた「生活」を絶つのは容易ではないのだ。「離婚」に先立ってまずは「別居」を選ぶ夫婦が多いのもそのせいに違いなかった。互いの「生活」が一新しないことには「離婚」はままならない。

【備考】
上高地ツアーに持って行って現地で読み切った。
文庫本2冊くらい相当の厚さだが、これしか持ってきてないので、逸る気持ちを抑えて、早く読み進まないよう調整しながら読んだ。

【ネット上の紹介】
加能鉄平は妻・夏代の驚きの秘密を知る。30年前、夏代は伯母の巨額遺産を相続、そしてそれは今日まで手つかずのまま銀行にあるというのだ。その額、48億円。結婚して20年。なぜ妻は隠していたのか。発覚した妻の巨額隠し資産。続々と明らかになる家族のヒミツ。爆発事故に端を発する化学メーカーの社内抗争。

「こんぱるいろ、彼方」椰月美智子

2020年07月15日 14時39分44秒 | 読書(小説/日本)
「こんぱるいろ、彼方」椰月美智子

真依子は近所のスーパーで働く主婦。
大学生の娘と、中学3年の息子がいる。
ある日、娘の奈月がパスポート取得するのに戸籍謄本がいると言い出す。
以下ネタバレのように感じるかもしれないが、重要な点はそこではない。
母親の秘密を知った後の周囲の行動が重要なのだ。

P64
上から順番に目を通していき、あるところで突然の違和感があった。母の出生地欄だ。
「・・・・・・ヴェトナム国ニャーチャン市・・・・・・?」

P69
「わたしたちね、ボートピープルだったの」
(中略)
「ベトナム戦争の難民として、ボートに乗って日本に来たのよ」
「はああ?なにそれえ?」

P154
「あそこが統一会堂みたい」
(中略)
「歴史的な場所だよね」

P168
ベトコンはベトナムコンサンの略。ベトナム共産という意味だ。意味的にはなんら蔑称ではないと、奈月は感じる。正式名称は、南ベトナム解放戦線。南ベトナムを、アメリカの傀儡政権から解放する、という意味だ。

P246
ふいに、母親って一体なんなんだろうな、と思う。子どもが生まれてからは、思考の大半を子どもに持っていかれている。

【蛇足】
以前、ベトナムを訪問したことがある。
ハノイとカットバ島・・・いずれも北部にある。
残念ながら、南にあるホーチミン(サイゴン)と中部地方は行っていない。
次回、機会があれば行ってみたい。

【ネット上の紹介】
「ベトナム人? お母さんが?」サラリーマンの夫と二人の子どもと暮らす真依子は、近所のスーパーの総菜売り場で働く主婦だ。職場でのいじめに腹を立てたり、思春期の息子・賢人に手を焼いたりしながらも、日々は慌ただしく過ぎていく。大学生の娘・奈月が、夏休みに友人と海外旅行へ行くと言い出した。真依子は戸惑った。子どもたちに伝えていないことがあった。真依子は幼いころ、両親や兄姉とともにボートピープルとして日本に来た、ファン・レ・マイという名前のベトナム人だった。真依子の母・春恵(スアン)は、ベトナム南部ニャチャンの比較的豊かな家庭に育ち、結婚をした。夫・義雄(フン)が南ベトナム側の将校だったため、戦後に体制の変わった国で生活することが難しくなったのだ。奈月は、偶然にも一族の故郷ベトナムへ向かう。戦争の残酷さや人々の哀しみ、いまだに残る戦争の跡に触れ、その国で暮らす遠い親戚に出会う。自分のルーツである国に深く関心を持つようになった奈月の変化が、真依子たち家族に与えたものとは――?

「笑う警官」佐々木譲

2020年07月07日 21時55分37秒 | 読書(小説/日本)
「笑う警官」佐々木譲
 
佐々木譲さんの北海道を舞台にした警察小説。
佐伯警部補は、 友人の警官・津久井の無実を証明するため札幌の街を疾走する。
残された時間は24時間。
2004年の作品なので、現代から見ると、あれっ、となる箇所もある。
 
P168
高さは60センチほど、幅は80センチばかりだが、奥行きが40センチほどなので、テレビ台としては小さい。(液晶テレビが普及し始めた頃だから)
 
P183
「携帯電話につなぐイヤホン・マイク。自動車用ですけど、こういう場合にも重宝するでしょう。手を使わずに話ができます」(ブルートゥースは普及していない)
 
質屋でのやりとり
P231
「テレビと時計とMDプレイヤーで、身分証明書があるなら7万2千円、ないなら3万円と言ったんです。(後略)」(以前、液晶テレビを売ったら200円だった、MDプレイヤーは骨董として価値があるかも)
 
【おまけ】
デジタル製品は日進月歩だ。
90年代半ばから携帯が普及しだした。
これだけで、物語を根底から揺さぶる。
すれ違いがなくなるから。
シャーロック・ホームズの頃は、電話が普及しだした。
コナン・ドイルも困ったでしょうね。
それでも、人間が描かれている限り、面白さは損なわれない。
本作でも、それは証明された。
 
【おまけ】2
タイムリミットがある作品だと、ウィリアム・アイリッシュ「暁の死線」を思い出す。
名作だ!
 
【ネット上の紹介】
札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。

「うちの父が運転をやめません」垣谷美雨

2020年06月22日 18時09分24秒 | 読書(小説/日本)
「うちの父が運転をやめません」垣谷美雨

垣谷美雨さんの新刊。
高齢者の運転事故が増えている。
雅志の田舎に住む父も高齢だ。
帰省した際に、返納を進めるが激怒される。

田舎では車がないと生活が成り立たないし、プライドの問題もある。
嫁の歩美は、東京生まれの東京育ち。生活背景が全く異なる。
こう言うときに、微妙に話が噛み合わない。
息子は高校生で、親との会話もなく、学校生活がうまくいかないのか暗い。
車の問題は、親の面倒、介護の問題にもかかわってくる。
いったいどうしたものか?

P69
「えっ?離婚しろって言ってる?」(中略)
「違うがな。雅志の頭は古いのう。最近は卒婚っていうんだわ。要は別居ってことだ。そうでもせん限り、田舎の親の面倒なんて見れんだろ」

【ネット上の紹介】
「また高齢ドライバーの事故かよ」。猪狩雅志はテレビニュースに目を向けた。そして気づく。「78歳っていえば…」。雅志の父親も同じ歳になるのだ。「うちの親父に限って」とは思うものの、妻の歩美と話しているうちに不安になってきた。それもあって夏に息子の息吹と帰省したとき、父親に運転をやめるよう説得を試みるが、あえなく不首尾に。通販の利用や都会暮らしのトライアル、様々な提案をするがいずれも失敗。そのうち、雅志自身も自分の将来が気になり出して…。果たして父は運転をやめるのか、雅志の出した答えとは?心温まる家族小説!

「大地の子」山崎豊子

2020年05月31日 16時09分57秒 | 読書(小説/日本)
「大地の子」(全4巻)山崎豊子

思った以上におもしろかった。
最初は、文革シーンなので、ひたすら暗い。
でも、これを過ぎるとプロジェクトが始動し、よりおもしろくなってくる。
最後まで読んだなら、深い感動を得られるはず。
これはお薦め、ぜひ読んでみて。全4冊で読みごたえもある。

①P273
「そういえば、厳禁されていた売春が秘めやかに復活し出したのは1958年から3年にわたる大災害、大飢饉あたりからだ、食い詰めた女の行きつく先は、解放前も、解放後も変わりないな」

満州からの引き揚げについて
②P223
軍が老幼婦女子の同胞を見捨てなかったら、世界史にも例がないような悲劇は起こらずにすんだであろうと思うと、腸(はらわた)が煮えくり返るような憤りに駆られた。

③P244
共稼ぎの中国では、炊事、食糧買出し、洗濯などの家事も、男女平等に分担するのが原則だった。格別の美人や才能のある女性は、結婚の3条件として、テレビ、洗濯機の他に、男性の"料理上手”も条件に加えていた。

【ネット上の紹介】
陸一心は敗戦直後に祖父と母を喪い、娘とは生き別れになった日本人戦争孤児である。日本人であるがゆえに、彼は文化大革命のリンチを受け、内蒙古の労働改造所に送られて、スパイの罪状で十五年の刑を宣告された。使役の日々の中で一心が思い起こすのは、養父・陸徳志の温情と、重病の自分を助けた看護婦・江月梅のことだった。

「これは経費で落ちません」(7)青木祐子

2020年05月21日 09時40分09秒 | 読書(小説/日本)
「これは経費で落ちません」(7)青木祐子
シリーズ最新刊、7巻目。

P33
「(前略)――結婚、出産することは会社への迷惑、わたしの悪いところであるということですか」
(中略)
仕事とは幸せになるためにするもので、幸せを阻害するものではないはずでる。誰にでもある人生の転機を迷惑と責められるのなら、真面目に働くのがバカバカしくなる。
 
P63
会社とは労働分の報酬を引き出すATMであって、私生活に入ってこられたら迷惑なのだ――

P105
自分がいないとまわらないと思っているのは本人だけだ。

P160
美しい女性だと思った。憎しみと優しさが混在して、不思議な迫力がある。愛した男との別れを決意すると、女性はこういう顔になるのか。

鎌本の結婚観
P183
「森若は出世しそうだし貯金ありそうだろ。土下座して頼んできたら結婚してやらんでもない。ただし仕事を辞めることは許さない。給料は俺が没収で、金の管理は俺の母親。家事育児は全部やること。夕食のおかずは三品以上。そうでもなきゃ結婚に男のメリットないだろ」(さすが嫌われキャラ屈指の鎌本である。どこから突っ込んでいいのか分からないぐらいの発言。現実にもいそうな男性だ・・・この物語と関係ないが、理系男子は金銭を管理したがる傾向にあるように思う)

【感想】
毎回、真夕ちゃん視点のエピソードが、エピローグとして語られる。
これがけっこう楽しみだ。
私の中でも、全登場人物中、好感度は高い。

【ネット上の紹介】
会社合併を控え、異例の若さでの主任昇進を打診された沙名子の悩みはつきない。給料は大して増えないのに、責任が増えると思うと憂鬱になる。女性活用を推進したい会社の方針で、優秀だからではなく女性だからという理由の昇進なのだろう。結婚や出産することは会社に迷惑をかけることになるのか。合併予定の会社のひとつ、トナカイ化粧品でほぼひとりで経理を担ってきた槙野という童顔の男と経理システムについての調整作業をする中で、彼のつけている腕時計がトナカイ化粧品の給料からするとずいぶん高級な物だと気づいた沙名子は、詮索してしまう自分を戒めるが……?同期入社の入浴剤開発者・鏡美月の結婚式も行われ、沙名子と太陽の関係にも重大な変化が!?大人気シリーズ第7巻! 

「ボーダー」垣根涼介

2020年05月07日 18時41分15秒 | 読書(小説/日本)
「ボーダー」垣根涼介

読み返し。
垣根涼介さんのヒートアイランド・シリーズ4作目にして最終巻。
内容は、シリーズの後日譚風だけど、一番面白く感じる。

アキとカオルは、渋谷の不良グループを脱退し、
その後、グループも開店休業状態。
カオルは、受験勉強をして東大に合格していた!

ある日、カオルは同じ語学クラスの慎一郎と、ファイト・イベント(ほとんど喧嘩)を見に行く。それは、かつて自分たちが主催したイベントのぱくりだった。
怒ったカオルは、疎遠になっていたアキを呼び出し相談する。

【おまけ】
この4巻目で、いちおう打ち止め、となっている。
続編を書こうとおもえば、出来るような気がする。
これで終了、ってのは、ちょっと残念な気がする。

【ネット上の紹介】
渋谷でのあの事件から3年。チームを解散し、別の道を歩み始めていたアキとカオル。ところがある日、カオルは級友の慎一郎が見に行ったイベントの話を聞いて愕然とする。それはファイトパーティーを模したもので、あろうことか主催者は“雅”の名を騙っていたのだ。自分たちの過去が暴かれることを恐れ、カオルはアキに接触するが―。