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「よろこびの歌」宮下奈都

2020年05月04日 10時43分46秒 | 読書(小説/日本)
「よろこびの歌」宮下奈都

久しぶりに再読した。
宮下奈都さんというと、「羊と鋼の森」が有名だけど、
私は、こちらの方が好みだ。

御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、普通の高校に通うことになる。
失敗した受験、実力不足への認識、不本意な現状。
心を閉ざした日々の中、合唱コンクールがあり、指揮を任される。
やる気のないクラスメート、しかし、任されると全力を出さずにいられない。
全部で7章あり、各パートで語り手が変わる。
ひとりひとりの思いが吐露され、ポリフォニックな作品となる。
すばらしい!

P208
いやいや引き受けたに違いないのに、御木元さんは途轍もなかった。特別としかいいようのない光を私たちに見せてくれた。彼女にしてみれば、特別なつもりもなかったのかもしれない。指揮者になったことで光が漏れた。そんな感じだった。
 級友たちをどうにか引っ張っていくために四苦八苦する彼女は、自分では歌わず、指揮と指導に徹していた。それでも彼女が各パートの出だしや山場を歌って示す、その歌声に触れただけで身体に鳥肌が立つようなことが何度もあった。そういうとき、私は昂揚し、かえってうまく声が出なくなってしまう。光り輝くような声の主を、ただ見つめていることしか出来なかった。

【ネット上の紹介】
著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる―。見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出した傑作。

「警官の血」佐々木譲

2020年05月03日 20時23分39秒 | 読書(小説/日本)
「警官の血」佐々木譲

昭和23年から平成まで、三代の警官を描く大河ミステリ。
とても面白く、一気読み。
2007年の作品だけど、もっと早くに読むんだった。

上巻P180
「覚えておけ。駐在警官は、ただの外勤巡査とはちがう。極端な言い方をすれば、外勤巡査は勤務中だけ真面目な警官であればいい。だけど駐在警官は、二十四時間、立派な警官でなくちゃならないんだ。覚悟はいいな」

下巻P218
「ひとつだけお聞かせください。この任務に、わたしが、選ばれた理由は何なのでしょうか」
(中略)
「血だ。きみには、いい警察官の血が流れている。こんなイレギュラーな任務にも耐えられるだけのね」

【ネット上の紹介】
血か、運命か。三代の男たちは警察官の道を選んだ。「このミステリーがすごい!」(2008年版)第1位。昭和二十三年、警察官として歩みはじめた安城清二は、やがて谷中の天王寺駐在所に配属される。人情味溢れる駐在だった。だが五重の塔が火災に遭った夜、謎の死を遂げる。その長男・安城民雄も父の跡を追うように警察学校へ。だが卒業後、その血を見込まれ、過酷な任務を与えられる。大学生として新左翼運動に潜りこめ、というのだ。三代の警官の魂を描く、空前絶後の大河ミステリ。