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MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『彼女と彼(1963年)』

2017-07-13 00:11:44 | goo映画レビュー

原題:『彼女と彼』
監督:羽仁進
脚本:羽仁進/清水邦夫
撮影:長野重一
出演:左幸子/岡田英次/山下菊二/長谷川明男/五十嵐まりこ/市田ひろみ/穂積隆信/蜷川幸雄
1963年/日本

 思わず壁を叩く人間の心情について

 主人公の石川直子は百合ヶ丘駅に近い団地に夫の英一と2人で暮らしている。ある晩、隣接するバタヤで火災が起こり、それ以来直子はバタヤで暮す住民が気になり始める。そこで偶然出会ったのが盲目の少女である花子と彼女の世話をしており、かつて英一と大学時代に同級生だった伊古奈と彼が飼っている「クマ」という名前の黒い犬である。
 戦後の引揚げ者だった直子は洗練された団地に住む住民とバラック小屋に住むバタヤの住民に挟まれたような存在で、実際に直子は団地に住んでいながらも団地に住む他の住人たちに必ずしも好かれてはいないのである。
 黒い犬に「クマ」と名付けられているのも気になるし、花子が団地に住む子供たちやバタヤ住人たちを操っているような雰囲気や、伊古奈という男が「最高学府」を卒業しながらばた屋に甘んじているのも気になるのだが、ここには柳田国男の民俗学の影響を感じるという感想に留めておきたい。
 本作の要となるのは、が火災に見舞われた後に、ゴルフの練習場を建設するという名目でフェンスが作られの住人たちが移住を強いられ、その頃に花子が体調を崩すのであるが、直子が入院先の病院に見舞いに行くと花子は入院していないと言われ、病人も沢山おり担当している看護婦も不在で昨日までは入院していたが今はどこにいるのか分からないと、今では考えられない弁解で花子の行方が分からなくなる。さらに団地の子供たちに「クマ」を殺された後に、死体を見つけた伊古奈も行方が分からなくなってしまうのであるが、団地はますます「洗練」されていくのである。
 印象深いシーンとして、ベッドに寝ていた直子が思わず壁を叩いて、英一に怒られるのであるが、これと同じシーンが『不良少年』(1961年)の主人公の浅井が少年院に収容された日に、ベッドに寝ながら思わず壁を叩く場面として描かれており、「自由」を奪われた人間が取る行動として壁が叩かれているのである。


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