MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『伊藤くん A to E』

2018-01-18 00:21:49 | goo映画レビュー

原題:『伊藤くん A to E』
監督:廣木隆一
脚本:青塚美穂
撮影:桑原正祀
出演:岡田将生/木村文乃/佐々木希/志田未来/池田エライザ/夏帆/田口トモロヲ/田中圭
2018年/日本

「シナリオ」と「企画書」の違いで分かる「気合」について

 主人公の脚本家の矢崎莉桜は2011年に脚本コンクールで入賞したことをきっかけにテレビ局に勤めている田村伸也と知り合い、翌年の2012年4月クールのテレビドラマ『東京ドールハウス』が大ヒットし、シナリオ賞ももらったことで一躍人気脚本家となるものの、その後が続かず、5年の歳月が流れ、今ではシナリオ教室の講師として糊口をしのいでいるのであるが、莉桜が開くトークショーに参加している受講者たちのことを密かにバカにしている。
 ところが皮肉なことに莉桜はそんな受講者の中から恋愛相談してきた島原智美(A)、野瀬修子(B)、相田聡子(C)、神保実希(D)からネタを得て脚本を書き始めるのである。莉桜が何故書けるようになったのかといえば、それは4人ともそれぞれに莉桜の「一面」を体現していたからであろう。そしてそれぞれの「莉桜」をもてあそんでいたのが、スクール受講生だった伊藤誠二郎で、莉桜自身も(E)として扱われていた。
 莉桜と誠二郎は同じネタで企画書を書くことになるのだが、結局両方のシナリオとも採用されることはなかった。違いがあるならば莉桜はシナリオを書いたが、誠二郎のものは企画書レベルのものだった。しかしこの違いは大きいと思う。誠二郎は自分が傷つかないように他人と真剣に交際するつもりがない。「負けない」ためにはそもそも「試合」をしないことがベストだと思っているのであるが、莉桜はプロとして必死であり、その必死さはいずれ間違いなく脚本に説得力のあるディテールを生み出すはずである。
 莉桜は引き続きシナリオを書くことになるが、誠二郎は「みさき」という新しい女性を見つけて相変わらず冷めた人間関係を続けていくことになるのだが、誠二郎がこのように自分の人生を賭けることなく余裕に生きていけるのはハンサムということもあるだろうが、バイトをしている学習塾など父親が経営しており裕福な家庭で育っており生活費で心配がないからであって、貧乏だったらこんなぬるい考え方では生きていけないと思う。
 いすれにしても登場人物たちの安定しない心の有様を掬い取るような多用されるハンディーカメラのブレ具合が演出の冴えを感じさせる。


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