自身が養子になった経緯を巡って抱いたトラウマから愛することができなかったリサとようやく理解し合えるようになったスティーブがラストでリサとした約束はiPodの開発だったのであるが、何故かラストにかかる曲はボブ・ディラン(Bob Dylan)の「シェルター・フロム・ザ・ストーム(Shelter from the Storm)」なのである。もちろん悪い選曲ではないが、ここまで伏線をはったはずのピート・シーガー(Pete Seeger)版の「青春の光と影(Both Sides, Now)」が流れないのは何とも解せない。アメリカでは流す必要もないほどのスタンダードナンバーということなのか。
Judy Collins - Both Sides Now (Official Audio)
Joni Mitchell - Both Sides Now (Official Audio)
Joni Mitchell - Both Sides Now (2021 Remaster) [Official Audio]
「火星人(The Martian)」として一人火星に取り残された主人公のマーク・ワトニーは、メリッサ・ルイス船長が残していった70年代にヒットしたディスコ・ミュージックに対して「趣味が悪い」と救出された後も語っていたのだが、それを観ている方もそれで済ましていいとは思えない。 マークが聴いた曲を挙げるとヴィッキ・スー・ロビンソン(Vicki Sue Robinson)の「Turn the Beat Around」、ヒューズ・コーポレーション(The Hues Corporation)の「Rock the Boat」、 セルマ・ヒューストン(Thelma Houston)の「Don't Leave Me This Way」、アバ(ABBA)の「Waterloo」、オージェイズ(The O'Jays)の「Love Train」などである。デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「Starman」はBGMとして流れていたので別としても、マークが唯一気に入った曲はドナ・サマー(Donna Summer)の「Hot Stuff」だけである。 ここまで曲名を並べてみると気がつくことがある。「Starman」はマーク自身を表し、「Hot Stuff」はマークの願望を表しており、一方で、「Don't Leave Me This Way」は「こんな風に俺を置いていかないでくれ」という意味で、「Waterloo」はナポレオン・ボナパルトが敗れた「ワーテルローの戦い」を表しており、要するにマークの気分を落ち込ませる曲なのである。あるいは「Love Train」の「Tell all the folks in Russia and China too. (ロシアや中国の人びとにも伝えよう)」として手を取り合って「ラブ・トレイン」を作ろうと呼びかける歌詞内容は中国のロケットを借りるというストーリーにも当てはまる。だから最後にようやくグロリア・ゲイナー(Gloria Gaynor)の名曲「I Will Survive(私は生き残る)」が流れたことも含めて全てストーリーに絡めて選曲されて流れていることに驚かされるのである。