青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

天下の険と思い出と

2009年06月28日 16時39分02秒 | 日常

(画像:地上の流星群)

昼なお暗きと謡われる箱根の山、梅雨曇りではなおさら光は届かない。
そんな朝、箱根の山の山登り。車窓に流れる青い流星。
足を投げ出し眠りこける女性の、うつつの夢に咲く。

先週雨のために撤退を余儀なくされた箱根に再び行って来ました。
ちょっと先週撮り足りなかったんで、その辺りの補完も含めてですが。
ってどんだけ箱根好きなんだよ、俺w
引っ越してから1時間で湯本まで行けるようになったのもあるけどな。

(箱根湯本~入生田間)
とりあえず朝5時(笑)に箱根湯本に車をデポし、撮り込み開始。
まずは前菜って事で、登山電車ではなく小田急車から。
箱根登山線自体は小田原からですが、現在は箱根湯本までを小田急車が担当してます。
小田急電鉄湯本線って感じでしょうか。
アジサイの坂道を窮屈そうに走る5000系。

(大平台駅にて)
箱根の山を登る登山電車、モハ2型109。
遡れば落成は昭和2年。約80年の歴史がある車両です。
とは言えさすがに70年前の車両をそのまま使っていると言う訳ではない。
老朽化した車体を更新し、そして台車を交換しつつ現役を続けている。
前面に下げられた行先サボ、強羅行は大文字焼きと強羅公園をあしらったデザイン。
屋根から巻かれた雨どい、角ばった面構え、側面のリベット。
長年の山登りの風格を湛えた、まさしくキング・オブ・登山電車でしょう。
もちろんこの車両が私は一番好きです。

(箱根湯本駅を出る)
登山電車のベースキャンプ・箱根湯本。
箱根湯本の駅を出た瞬間に、いきなりこんだけの激しい登りが待っている。
ウォーミングアップなしで、塔ノ沢に向かって1000分の80の急勾配。
先頭車両と最後尾の高低差は驚くべきものが。
登山電車の屋根の上に乗っているのはクーラーではありません。
本来床下に設置されるブレーキ機器を、排熱効率を上げるため屋根上に搭載しているのだ。
ブレーキだけでも発電・空気・手動・カーボランダム(圧着)と4種類を装備。
通常の鉄道では見られない特殊な構造も魅力の一つです。

(大平台の逆落とし)
画像で見ると解りづらいかもしれませんが、実はかなりの下り坂です。
車輪を軋ませながら、慎重に坂を降りる2000型。
上大平台信号場から大平台駅に向かっては、温泉街の中を往く。
小道の路地が縦横に線路を横切る、登山電車撮影のハイライト。
今が盛りのアジサイを大きく取り込んで。

(あじさいの小道から)
定番スポット・荏原踏切先。あじさいの小道の踏切です。
上大平台信号場~仙人台信号場間、高度をグングン上げる登山電車。
山肌に並ぶアジサイと登山電車のコラボレーションは、今年のポスターにも使われました。
画像では分かりませんが、この周辺に約十名程度の撮り鉄がw
遮断機もない踏切が多いので、簡単に線路に立ち入れてしまう。
運転士も相当気を使う事でしょうが…

(仙人台へ)
仙人台信号場へ向けて登る1000型「ベルニナ号」。
モハ1型・2型からウン十年ぶりに箱根の山に現れた新型車両。
一回赤に塗られたんだけど、現在は登場当時の塗装に戻されております。
力行とブレーキを左右2本のマスコンハンドルで操作する運転台が特徴。
後ろから見ると、何となくロボットを操作しているように見えるw

(小涌谷にて)
山肌に沿って走る登山電車、勾配と同じくらいに厳しいのがカーブ。
画像では直角に曲がっているように見えるが、実際直角に近いものがある。
曲線半径は最大30m、路面電車なみである。
そのままでは線路と車輪の摩擦により双方がダメージを受けてしまう事から、走行中は常に散水をして抵抗を減らしている。
晴天時、箱根湯本の駅では折り返しに備えて給水を行っているシーンを見る事が出来ます。

 

(大平台隧道東口より)
この辺りは本当にアジサイらしいしっとりした青のアジサイが咲き乱れていました。
前照灯を点灯させてトンネルを抜ける2000型サンモリッツ号。
箱根登山鉄道が建設の際に模範としたのがスイスのレーティッシュ鉄道
そんな縁もあり、世界でもっとも有名な登山鉄道であるレーティッシュと、箱根登山鉄道は以前より提携関係にありました。
登山電車が創業120周年を迎えた昨年より、この2000型はレーティッシュの「氷河急行」を模したカラーに塗られております。
スイス国旗由来の鮮烈な赤と、側面の国旗を模したデザインがシャープです。
ちなみに箱根登山電車はレーティッシュ鉄道のベルニナ線を参考にして敷設されたそうで。
その名前を戴いたのが1000型ベルニナ号なんですね。



小田急線沿線に住んでいた自分にとって、「箱根への旅」と言うのは子供の頃の思い出を蘇らせてくれる。
古いトンネルの石積みのポータルをくぐると、真夏でもひんやりとした山の風が窓から流れて来る。
塔ノ沢を出ると出山の鉄橋、吸い込まれるように思える早川の川面。
スイッチバックを繰り返し、たどり着いた強羅からはケーブルカー。
混雑にうんざりし、早雲山からロープウェイで渡る大涌谷の異様さに驚いて、名物の黒玉子を食べる。
黒玉子を食べた後は、桃源台からの海賊船で芦ノ湖の風に吹かれ、箱根町から大観山を通るバスで熱海へ出た。
親の会社の保養所が、伊豆山にあったからなんだけどね。

休日の箱根湯本は、観光客でごった返しておりました。
ロマンスカー・登山電車・ケーブルカー・ロープウェイ・海賊船。
箱根ゴールデンコースは、多様性に富んだ交通システムの旅。
子供心にも、「色んなものに乗れる」と言う事だけで本当に楽しかったからね。
その一翼を担う登山電車は、鉄道としてもとても個性的な魅力にあふれています。

今日もたくさんの観光客を乗せて、箱根の山を登る剛力。
思い出の数だけ、重さもひとしおの事でしょう。

コメント
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