閑蔵から先、終点の井川まではロケハンをしつつ北上して行ったのだが、まあこの道は険道と認定して差し支えない隘路&崖路でして、すぐ傍に井川線の線路は走っているのだが猛烈な高低差もありなかなか線路を視認出来ないまま結局終点の井川駅まで来てしまった。相変わらず駅前の土産物屋兼食堂「やまびこ」以外には何もない井川の駅前。初めて来た時はここで山菜天ぷらそばを食ったっけな。黄葉に包まれた終着駅は、ちょうど井川行きの列車が折り返して行ったあとで、観光客はそのまま井川ダムやダムの資料館へ流れてしまった様子。車止めの手前に資材運搬用らしき無蓋貨車が所在なげにぽつんと佇んでいました。
井川駅を出る奥泉行き下り列車。井川ダムの資料館に繋がる陸橋の上から…かなり苦しい構図です(笑)。三脚構えて待ってる横を紅葉見物のジイバアが歩いて行く。みんなどこぞの旅行会社のツアーバッジを付けていたが、ツアーの中に井川線乗車が組み込まれてるみたいですね。半逆光でちょーっとガスり始めた空気が微妙ですが、井川の駅を出てすぐ、急カーブに車輪を軋ませながら錦秋の深山の中へ消えて行く列車。左下には井川ダムの堰堤を望む。
井川~閑蔵間で僅かに見かけた撮影地。充分に前後の見通しを確認し、道の路側に見付けた砂利の広場に車をデポして撮影地に赴く。こんな道では車を止める安全な場所の確保にも一苦労するのであるが、車通りがなくとも路駐なんか絶対出来ない場所だけに致し方なし。趣味で他人に迷惑をかける訳には行きませんからねえ(笑)。接阻峡の深い谷に日が回るのはこの時期昼間の僅かな時間だけで、井川線が進む大井川右岸の谷は既に陰に隠れていた。昼なお暗き谷筋の道を、ヘッドライトを付けてDDを先頭に列車は行く。
長島ダムが堰き止めた接阻湖、その上を2つの長大橋梁「奥大井レインボーブリッジ」で渡るのが井川線中盤のハイライト。ここは西側の山から湖水と橋梁を一望出来る場所なのだが、午前中は逆光になるので午後の時間を待っていたんだよね。さすがに有名スポットだけに先客1名。快晴の空から早くも傾いた午後の日差し、構えるファインダー越しの光に眼が眩む。奥大井独特の蒼い湖水の上を、ゆっくりと列車が渡って行く。ちなみに瑞々しい感じを出したくて、あえてフレアを入れてみました。
列車を長島ダムまで追いかけて、午後のアプト道。早くも黄色味を帯びて来た射光が陰影を作り出して、紅葉を浮かび上がらせてくれました。これで早くも終列車一本前なのだが、それでも秋の紅葉シーズンは大増発してるんで普段より全然列車数は多いんですよね。おかげでメシも食わずにずーっと列車を追いかけ回す羽目になったんだけどさw
すっかり接阻峡の谷は陰り、ここでようやく一休み、接岨峡温泉駅前の温泉へ。駅前の踏切から接岨峡温泉駅に憩う最終の奥泉行きを一枚。木造の保線小屋や、簡易な感じの車庫、そして無造作に積まれた枕木。雑多な感じが「林鉄」らしさを際立たせている感じ。目指す「森林露天風呂」は、駅前30秒で良質のツルツルした温泉が楽しめます。まだ陽の当たっている山の稜線を高みに眺め、露天風呂で手足を伸ばすのは何ともな極楽感。露天風呂の中に舞い散る落ち葉を掬ったりしながらのんびり浸かっていると、駅前温泉らしく湯船からはDDのホイッスルが聞こえたりしていい雰囲気ですなあ。週中のあんな事やこんな事はここでリセット(笑)。日が暮れるまでゆっくりと。
湯上がりの体で奥大井の道をヘッドライトを頼りに帰途へ。帰りしなに最後の一発って事で再びレインボーブリッジの展望ポイントへ。風も冷たくなり、山を渡る風が木の葉を揺らすざわめきも怖いほどだ。茜と言うよりは透明に暮れて行く奥大井の晩秋、空に星の光が僅かに瞬く中を接岨峡温泉行きの最終列車がやって来た。闇と光のちょうど狭間、こんな時間帯を写真屋さんはブルーモーメントなんて言ったりするみたいですが、そんな幻想的な雰囲気を求めてシャッターを切ってみました。迫りくる夜の帳、湖面を渡る風が作った蒼いグラデーション。DDのヘッドライトと僅かな車内灯だけが、静かに湖上の駅の存在を主張しております。
列車は誰も乗り降りのない駅を、ゆっくりと発車して行きました。
大井川鉄道井川線、その山紫水明を季節ごとに撮ってみたい路線ですね。
次は、冬に来るか??