青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

酒薫養老物語

2019年08月01日 17時00分00秒 | 養老鉄道

(謎の貸し切りラビットカー@友江駅)

西大垣の駅から東急車に乗り、桑名方面に南下。西大垣の次の駅は美濃青柳。美濃青柳で「みのやなぎ」って何気に物凄く難読駅名なんじゃないか。普通「みのあおやぎ」って読んじゃうと思うんだが・・・。ちなみに美濃青柳の駅にもイビデンの工場がありましたね。大垣はイビデンの城下町か。友江の駅で外を見ると、養老鉄道の中ではいっちばん撮りたかったラビットカー塗装の606Fが大垣方面へ。何やら謎の貸し切り編成で、近鉄生駒線時代の方向板などを付けていたので、趣味の方々のチャーターだったのだろうか。あわてて車両の中から一枚何とか写真に収めたのだけど、ちゃんと構えて撮りたかったなあ。

大外羽から烏江にかけては、相川と牧田川を合わせて大きく渡って行きます。ここらへんは線形改良されたのか高架になっているね。列車の進路は西に向かい、養老山地が目の前に迫って美濃高田。街を走る県道56号線「薩摩カイコウズ街道」には焼肉店が並んでいて、別名「焼肉街道」と呼ばれている人気のスポットらしい。ちょうど時刻もお昼時で行ってみたかったんだけど、クルマがないとちと遠いんだよねえ。 

美濃高田からレールは再び南に向かい、養老駅に到着しました。ここでまた大垣行きと交換。養老鉄道は1919年に現在の営業区間が全通しており、今年は全通開業100周年のメモリアルイヤー。近鉄車には100周年記念のヘッドマークを兼ねた方向板が付いていました。養老駅は養老の滝を中心に整備された公園などがあって、沿線随一の観光地。という事で、乗客のほとんどが下車して行きます。養老鉄道で途中下車するならやっぱりここでしょう。我々親子も、ここで途中下車。

養老駅は、開業当時からの「養老の滝」への玄関口として、意匠を凝らした実に立派な雰囲気のある駅舎。養老の滝も見たかったけど、木造の駅舎を眺めるのが好きなタチなのでこの駅も見ておきたかった。入母屋作りの屋根と車寄せには鬼瓦がしっかりとはめられ、瓦の間から覗くアールの効いたドーマー窓に愛らしさがあります。養老伝説にちなんだヒョウタンで出来た駅名の扁額とあいまって、大正ロマン的な和と洋の合わさった落ち着いた佇まいに好ましさが感じられます。駅には観光案内所があって、この日は係の方が観光客の誘導に奔走しておりました。

一応、沿線最大の(?)観光地という事で、養老の滝を見に行くことに。昨日も今日も、我ながら乗り鉄だけでなく割と積極的に観光をしているなあ(笑)。養老駅から滝までは、マジメに歩いたら登り坂を50分とか書いてあったんでバカも休み休み言えって感じだったんですけど、養老町が途中まで無料シャトルバスを出してくれていたりする。大半はクルマで来る観光客なんだろうけど、使えるものはありがたく使わせてもらいます。「養老ランド」という昭和臭さ満開の鄙びた遊園地を抜けて、バスの降車場に着きました。

「バスを降りてから、登り坂を20分くらいですよ」と駅の案内所のおいちゃんが言っていたので、さすがにここからは歩きを覚悟したのだが、バスの降車場にはご丁寧に電動カートが待っていた。混雑時は子供とか足の悪い人優先のカートのようなのだけど、誰も乗る人がいなさそうなのと、カートのじいちゃんと目が合ってしまったのと、親子連れと言うことでいいでしょうという免罪符もあったので乗っけてってもらうことにしました(笑)。これでさらに徒歩の時間が減った。

電動カートは山もみじの青葉も爽やかな坂道を登って行く。結構歩いたらしんどそうだなあ。カートのじいちゃん曰く、養老の滝が一番賑わうのはやはり紅葉の色付く秋で、その時はカートの待ち時間もとんでもないことになるそうだ。駅から歩いたら50分→バスの降車場から歩いたら20分→カートに乗って歩いて10分のところまで連れて来てもらえた(笑)。養老の滝でわらしべ長者計画が着々と発動しているようだ。いいぞいいぞ。

カートのおいちゃんに見送られて、ここからは正真正銘の登り坂。結構足腰に来る急坂で息が切れるのだが、沢水の流れに沿って吹いてくる風はひんやりしていて体をクールダウンしてくれる。子供はタッタカタッタカ先へ行ってしまうのだけど、オトーサンは付いて行くので精いっぱいだ。養老伝説って、親孝行の教えを説いたオハナシじゃなかったのかえ??

カートを降りて歩くこと10分、とうとう養老の滝に到着しました。思ったほど高い滝ではないけれど、岩肌を舐めながら滝壺に落ちる水が涼やかで、つかの間の蒸し暑さを忘れさせてくれますねえ・・・年老いた父親のために、毎日山に入って薪を取っては売り歩き、そのお金で父親の唯一の楽しみである酒を買って帰っては父親に振る舞っていた親孝行の源丞内。ですが、貧しい家の僅かな稼ぎでは父親が満足するような酒を買って帰ることが出来ませんでした。そんなある日、いつものように源丞内が山に入って薪を取っていると・・・

ある時、山に入りて、薪を取らむとするに、苔深き石にすべりて、うつぶしまろびたりけるに、酒の香しければ、思はずにあやしくて、そのあたりを見るに、石の中より水流れ出づることあり。
その色、酒に似たり。汲みてなむるに、めでたき酒なり。うれしくおぼえて、そののち、日々にこれを汲みて、あくまで父を養ふ。
 (「十訓抄 中巻 巻六 第十八話」)

要するに、山に入って薪を取っていたら、苔の生えた石に滑って転んでしまった。ふと辺りを見ると、芳しいお酒の薫り。石の間から流れ出る水はまるで酒のようで、掬って舐めると確かに酒であった。それ以降、日々そこで酒を汲んでは、末永く父親を養生して大事に世話をした、という「養老伝説」の伝わる養老の滝。親孝行のお話でありますが、ざっくり読むとオヤジ家が苦しいのに酒ばっか飲んでんなよという気がしないでもない(笑)。ちなみに子供が休み明けに担任の若い先生に「三連休はお父さんと養老の滝に行ったんだよ!」と無邪気に報告したようなのだが、小学生連れ回して飲み歩くどうしようもない親にしか思われてなさそうで嫌。お酒はほどほどに。

コメント
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