青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

讃岐路に 夢を繋げて ことことと

2020年03月12日 22時00分00秒 | 高松琴平電気鉄道

(片原町の夜は更けて@片原町駅)

レンタカーを返し、宿で荷物を片付けて、カメラ一つで身軽に飛び出した夜の高松・片原町。どこか気の利いた店で少し一人で酒でも・・・などと思ったのだけど、どうにも腹が減って大した店探しもせずに路地裏のラーメン屋に飛び込む。讃岐うどんのいりこのダシにやや飽きた舌に、味噌バターコーンラーメンと餃子が沁みる。軽く頼んだ一杯の生ビール、別に豪華な物を食べなくても感じられる、旅先の愉悦である。

高松市の中心部に、文字通り中心をなす中央商店街と、西へ伸びる兵庫町商店街、そして東に走るのが片原町商店街。高松三越を中心に、大小の小売店が立ち並びます。土曜日の夜の人通り、どこも地方都市の夜はシャッター街で寂しい・・・というのが通説のようになっているけれども、それでも高松の夜はそれなりに酔客の大きな声などが響いていて活気があった。さすがに人口40万都市の高松市の中心街ではあります。

ことでんの片原町駅は、片原町商店街の東の端にあって、「マルヨシセンター」というスーパーが併設されています。このスーパー、高松を中心とした瀬戸内地区に展開する小売店のようですが、開店時刻は8:00~23:00とことでんの終電間際まで開いていて、地方のスーパーにしては営業時間が長い。あまりコンビニエンスストアが目立たない地区だけに、頑張っているのかもしれません。ホームは相対式の2面2線、複線区間の駅であり、また琴平線・長尾線とも築港直通の電車が入って来るため、ひっきりなしに構内踏切が鳴っては電車が行き交います。

ホーム上の人の乗り降り、そして夜8時を過ぎて徐々に少なくなっていく人通り。大きなアーケードの切れ目にあるのが片原町の踏切で電車を待つ。踏切脇の飲み屋からポツリ、ポツリとおあいそをしたお客さんが出て来ては、片原町の駅へ向かって行く。電車が通る以外の時間は店へ入る訳でもなく、カメラも触らず所在なげに佇む私を、居酒屋の女将さんが不思議そうな顔で見ていた。

「IruCa」対応の自動改札が設置されてはいながら、片原町の駅では電車が着くたびに駅員さんが詰所から出て来て「〇〇分築港行き電車参りま~す」「長尾行き電車参りま~す 踏切渡って2番線お回り下さ~い」などと声掛けを行っている。おそらくギリギリに駆け込み乗車をするような客がいた場合、下り電車の場合構内踏切の直前横断が懸念されるからではないかと思われる。ホームには接近放送がなく、電車の接近が分かりづらいからなのかもしれないが、何となく昔っからこうだったんだろうな、という人の声の力の温かみか。

片原町から、琴平線の電車に乗って築港駅に戻る。時刻は午後10時を回ったとはいえ、それなりのお客さんが乗っているのは頼もしい。二日間沿線を回ってみて思うのは、各線の末端区間はともかく、高松市内中心部から10km圏内程度のエリアでは、ことでんのフリークエンシーの強さを感じます。仏生山までの複線化完成で、日中の増発とスピードアップが図られれば、クルマ社会となった高松経済圏の域内移動のシェアを少しでも切り崩すことが可能なのではないか・・・と水銀灯に照らされた石垣を眺めて考えてみたり。

夜も更けて、高松駅前の空気もきっぱりと冷え込んで来た。間近で見るサンポートのタワーの灯りが眩しい。30Fには無料展望台もあるんだそうだが、今回は訪れる機会に恵まれませんでした。駅前のミニストップで寝酒を買って、ばあちゃんの待ってるホテルに戻ろう。

瓦町の駅に貼られていた、写真家のレスリー・キー氏が撮ったことでんの一枚に、とても目を奪われた。滝宮駅のレトロな駅舎と、駅前の自転車置き場の鉄柵に乗っかって明日を夢見る子供たち。「同じ一日なんてない。ドキドキしながら、ちょっと遠くへ。」というキャッチコピーが、高松の旅を終えて一ヶ月が経って、より真に迫って来るような気がする。あっという間に全世界に広まってしまった新型ウィルスによって、不要不急の旅が諫められる風潮になってしまった現在。ちょっと遠くを目指すことも憚られる状況で、果たして子供たちは明日を夢見る事が出来るのであろうか。冒険する自由の危機が、すぐそこに迫っているような気がしてなりません。

ことでんの心臓部である仏生山の駅で、改札口の隣で待っていることちゃんファミリー。ことでんも、春のイベント・・・特に23号の引退を間近に控えて、月一回のレトロ電車の運行や3月の電車まつりの中止、そして個人催行の電車の貸し切り運行なども軒並み中止に追い込まれてしまいました。それでも、開催の中止を伝えるTwitterのメッセージに「あきらめたら、じえんど」というスタンプを添えて来たことちゃんは、したたかに春を待っています。

約一ヶ月に亘ってお送りして来たことでんシリーズも、ここで一応の大団円という事で・・・
いつかまた再び、玉藻のお堀端で。


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