世間を騒がせている熊本県産アサリの産地偽装問題のあおりで、ウチの近所のスーパーからアサリが消えた。アサリの酒蒸しは電子レンジで簡単に作れるので、私には欠かせない一品で、そのための白ワインも常備しているというのに…。アサリの産地偽装は「何十年も続いてきた」(西日本新聞)という証言もあり、根は深い。消費者の素朴な「国産崇拝」が、逆手に取られたという格好である。
※トップ写真は、ウェザーニュースのサイトから拝借
アサリよりもつらいのが、サンマである。ここ何年も、スーパーで満足なサンマに出くわしていない。たまに見つけても、痩せ細った台湾産だったりする。思えば、かつては脂の乗ったサンマが1匹10円で売られていた、私の子どもの頃の話であるが。当時は「資源管理」という発想がなかったので、獲れるだけ獲っていたのだろう。乱獲がたたったとすれば、これは人類の自業自得である。
先日は「カニ、なんでこんなに高いの?!」(2022.1.16)という記事を当ブログに書き、最後は「ここはカニカマ(蟹蒲鉾)でも食べて、しのぐしかないのだろうか」と締めたが、妙にこれがウケた。そこでふと思ったのは「そもそも日本人は、魚介類を食べ過ぎているのではないか」という疑問である。
そこでこんな記事に出くわし、納得した。魚の「獲りすぎ、安すぎ、食べ過ぎ」が指摘されていたのだ。毎日新聞オピニオン欄「そこが聞きたい 日本の漁業の危機」、勝川俊雄氏(東京海洋大准教授)へのインタビュー記事である(2022.2.8付)。以下、全文を紹介する。
日本の漁業が危機に直面している。サンマの漁獲量が大きく減り、昨年は3年連続で過去最低を更新した。大衆魚だったマイワシも以前と比べて漁獲量は激減している。漁師たちの高齢化も進む。なぜ魚は減ったのか。食卓の魚を守るために必要なことは何か。水産物の資源管理に詳しい東京海洋大の勝川俊雄准教授(49)に聞いた。【聞き手・永山悦子】
生産と消費近づけよう
――日本の漁業の現状をどのように見ていますか。
漁獲量も漁業就業者も減り続けている。これまでと同じように魚を食べ続けることは不可能であり、消費のあり方を見直さないといけないほど深刻だ。
昔は、魚は海に無尽蔵に存在すると思われていた。だから、漁業の持続可能性を考える必要はなかった。ところが、漁業技術の革新によって魚が少なくても効率的に取れるようになった。
その結果として、卵を産む親魚まで取り尽くしてしまうことも可能になった。魚種によっては資源が尽き、これまでは店頭にあることが当たり前だった魚が姿を消す事態を招いている。
――消費者には危機感が伝わっていません。気候変動との関係も指摘されています。
気候変動の影響も間違いなくある。だからと言って、漁業側に問題がないとは言えない。気候変動の影響によって、魚自体の生産力が落ち、資源の状態が悪くなっているのであれば、それに応じて漁獲量を減らすべきだ。資源の減少を無視して今まで通り取り続けることは「乱獲」に他ならない。
――幼魚や産卵期の魚を取らないなど、国内でも持続可能な漁業を目指す取り組みが始まっています。2020年には改正漁業法が施行されました。資源管理を目指す約70年ぶりの大幅改正でした。
日本も批准する国連海洋法条約は、各国に排他的経済水域(EEZ)内での漁獲権を認めると同時に、資源の持続的な利用・管理を義務づけている。これまで、漁獲規制は漁業者の自主性に任せて放置してきたが、ようやく政府が規制に乗り出すことになった。
ただし、それだけでは世の中は変わらない。規制強化は、長期的には漁業者と国民の双方に大きなメリットになる一方、短期的には漁業者の利益を減らす。海外では、規制によって資源が回復し、漁業が成長産業になった国も多い。海外の成功例を手本に、国内の漁業を立て直したい。問題をこれ以上先送りすべきではない。
――日本は水産物の価格が安いという指摘もあります。
水産物の生産、流通には多くの人や組織がかかわり、利益が出にくい構造だ。さらに、小売りの価格競争が生産者へのしわ寄せとなっている。サンマの水揚げ量は約10年前の15分の1程度になった。漁場が遠く、群れが小さくなっているため操業コストも上がっている。水揚げ量とコストを考えれば、1匹の価格が15倍以上になってもおかしくない。しかし、そうはなっていない。
このままでは、漁業が成り立たなくなり、資源も漁業自体も持続可能性を失う。コストに見合った適正価格にすることが不可欠だ。消費者は「安ければいい」という発想を転換しなければならない。
――発想の転換に何が必要でしょうか。
漁業は、生産現場と消費の現場が分断されている。私は、東京都内の小学校などで、漁師を紹介する出前授業に取り組んでいる。子どもたちは「どうして魚を取るの?」などと素朴な疑問をぶつけ、漁師は普段の仕事を紹介する。そうしたコミュニケーションから、子どもたちに「あの漁師さんが取った魚を食べてみたい」という気持ちが生まれている。
「乱獲はだめ」と生産者を非難するだけでは何も変わらない。もっと消費者と生産者が近づき、未来につながる魚食のあり方を一緒に考えることが必要だと思う。
聞いて一言
持続可能な漁業や養殖業の水産物を認証する「海のエコラベル」が広がり始めた。しかし、国内市場では、その取り組みが価格に十分に反映されていない。国際ルールを守らず乱獲された水産物も流通する。まっとうな漁業が評価される社会にしなければならない。
◆ことば 改正漁業法
2018年公布、20年施行。目的に「水産資源の持続的な利用や管理」が明記された。漁獲規制をする魚種を設定。対象になると、漁獲可能量に基づいて漁業者、漁船ごとに漁獲量が割り当てられ、それ以上は取れなくなる。23年度までに全漁獲量の8割を対象魚種とすることを目指す。
◆人物略歴 勝川俊雄(かつかわ・としお)氏
東京都出身。1995年東京大農学部水産学科卒。三重大准教授などを経て2015年から現職。専門は水産資源管理と水産資源解析。著書に「漁業という日本の問題」など。
※トップ写真は、ウェザーニュースのサイトから拝借
アサリよりもつらいのが、サンマである。ここ何年も、スーパーで満足なサンマに出くわしていない。たまに見つけても、痩せ細った台湾産だったりする。思えば、かつては脂の乗ったサンマが1匹10円で売られていた、私の子どもの頃の話であるが。当時は「資源管理」という発想がなかったので、獲れるだけ獲っていたのだろう。乱獲がたたったとすれば、これは人類の自業自得である。
先日は「カニ、なんでこんなに高いの?!」(2022.1.16)という記事を当ブログに書き、最後は「ここはカニカマ(蟹蒲鉾)でも食べて、しのぐしかないのだろうか」と締めたが、妙にこれがウケた。そこでふと思ったのは「そもそも日本人は、魚介類を食べ過ぎているのではないか」という疑問である。
そこでこんな記事に出くわし、納得した。魚の「獲りすぎ、安すぎ、食べ過ぎ」が指摘されていたのだ。毎日新聞オピニオン欄「そこが聞きたい 日本の漁業の危機」、勝川俊雄氏(東京海洋大准教授)へのインタビュー記事である(2022.2.8付)。以下、全文を紹介する。
日本の漁業が危機に直面している。サンマの漁獲量が大きく減り、昨年は3年連続で過去最低を更新した。大衆魚だったマイワシも以前と比べて漁獲量は激減している。漁師たちの高齢化も進む。なぜ魚は減ったのか。食卓の魚を守るために必要なことは何か。水産物の資源管理に詳しい東京海洋大の勝川俊雄准教授(49)に聞いた。【聞き手・永山悦子】
生産と消費近づけよう
――日本の漁業の現状をどのように見ていますか。
漁獲量も漁業就業者も減り続けている。これまでと同じように魚を食べ続けることは不可能であり、消費のあり方を見直さないといけないほど深刻だ。
昔は、魚は海に無尽蔵に存在すると思われていた。だから、漁業の持続可能性を考える必要はなかった。ところが、漁業技術の革新によって魚が少なくても効率的に取れるようになった。
その結果として、卵を産む親魚まで取り尽くしてしまうことも可能になった。魚種によっては資源が尽き、これまでは店頭にあることが当たり前だった魚が姿を消す事態を招いている。
――消費者には危機感が伝わっていません。気候変動との関係も指摘されています。
気候変動の影響も間違いなくある。だからと言って、漁業側に問題がないとは言えない。気候変動の影響によって、魚自体の生産力が落ち、資源の状態が悪くなっているのであれば、それに応じて漁獲量を減らすべきだ。資源の減少を無視して今まで通り取り続けることは「乱獲」に他ならない。
――幼魚や産卵期の魚を取らないなど、国内でも持続可能な漁業を目指す取り組みが始まっています。2020年には改正漁業法が施行されました。資源管理を目指す約70年ぶりの大幅改正でした。
日本も批准する国連海洋法条約は、各国に排他的経済水域(EEZ)内での漁獲権を認めると同時に、資源の持続的な利用・管理を義務づけている。これまで、漁獲規制は漁業者の自主性に任せて放置してきたが、ようやく政府が規制に乗り出すことになった。
ただし、それだけでは世の中は変わらない。規制強化は、長期的には漁業者と国民の双方に大きなメリットになる一方、短期的には漁業者の利益を減らす。海外では、規制によって資源が回復し、漁業が成長産業になった国も多い。海外の成功例を手本に、国内の漁業を立て直したい。問題をこれ以上先送りすべきではない。
――日本は水産物の価格が安いという指摘もあります。
水産物の生産、流通には多くの人や組織がかかわり、利益が出にくい構造だ。さらに、小売りの価格競争が生産者へのしわ寄せとなっている。サンマの水揚げ量は約10年前の15分の1程度になった。漁場が遠く、群れが小さくなっているため操業コストも上がっている。水揚げ量とコストを考えれば、1匹の価格が15倍以上になってもおかしくない。しかし、そうはなっていない。
このままでは、漁業が成り立たなくなり、資源も漁業自体も持続可能性を失う。コストに見合った適正価格にすることが不可欠だ。消費者は「安ければいい」という発想を転換しなければならない。
――発想の転換に何が必要でしょうか。
漁業は、生産現場と消費の現場が分断されている。私は、東京都内の小学校などで、漁師を紹介する出前授業に取り組んでいる。子どもたちは「どうして魚を取るの?」などと素朴な疑問をぶつけ、漁師は普段の仕事を紹介する。そうしたコミュニケーションから、子どもたちに「あの漁師さんが取った魚を食べてみたい」という気持ちが生まれている。
「乱獲はだめ」と生産者を非難するだけでは何も変わらない。もっと消費者と生産者が近づき、未来につながる魚食のあり方を一緒に考えることが必要だと思う。
聞いて一言
持続可能な漁業や養殖業の水産物を認証する「海のエコラベル」が広がり始めた。しかし、国内市場では、その取り組みが価格に十分に反映されていない。国際ルールを守らず乱獲された水産物も流通する。まっとうな漁業が評価される社会にしなければならない。
◆ことば 改正漁業法
2018年公布、20年施行。目的に「水産資源の持続的な利用や管理」が明記された。漁獲規制をする魚種を設定。対象になると、漁獲可能量に基づいて漁業者、漁船ごとに漁獲量が割り当てられ、それ以上は取れなくなる。23年度までに全漁獲量の8割を対象魚種とすることを目指す。
◆人物略歴 勝川俊雄(かつかわ・としお)氏
東京都出身。1995年東京大農学部水産学科卒。三重大准教授などを経て2015年から現職。専門は水産資源管理と水産資源解析。著書に「漁業という日本の問題」など。
