tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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田中利典師、渾身入魂の「青の吉野山、青の蔵王権現」

2023年08月06日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、「青の吉野山、青の蔵王権現」(ブログ 2013.4.23 付)。会員制季刊誌『やまとびと』2013年5月号(やまとびと株式会社刊)に寄稿された文章だ。青葉若葉の吉野山と、青い蔵王権現を並べて紹介されている。

ご自身で、「渾身入魂の一文」とおっしゃるとおりの力作である。なお今秋(2023.10/27~11/30)も、蔵王権現像の特別ご開帳が行われる(詳細は、末尾のチラシご参照)。では、全文をお読みいただきたい。
※トップ写真は、吉野山で撮影(2009.6.13)

青の吉野山、青の蔵王権現
観桜シーズンも終わりを告げて、吉野山はいよいよ新緑の時候を迎えました。私はこの時期の、吉野山が一年中で一番素敵だと思っています。とりわけ、昨年からは、新緑の頃にも、蔵王堂の秘仏蔵王権現様がご開帳され、「青の蔵王権現、青の吉野山」という佇まいが、聖なる空間を演出していただいています。

前回号に引き続きフリーペーパー誌『やまとびと5月号』に拙稿を認(したた)めました。ご笑覧に預かれれば幸いです。「青の吉野山、青の蔵王権現」…私なりに渾身入魂の一文です。

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今秋の特別ご開帳の案内チラシ

「青の吉野山、青の蔵王権現」
吉野といえば日本一の桜の名勝。 「一度は行ってみたいものです…」などと言われる。もちろん桜花爛漫の吉野山の絶景は素晴らしい。しかし、桜が散って新緑の時期を迎え、心地よい五月の風が渡る吉野山が、私は一年中で一番好きである。

新緑なのだから、正確には「緑」なのだが、私にとってはこの時期の吉野山のイメージは青、である。朝靄の中、あるいは暮れなずむの夕闇のひととき、一瞬、新緑の全山が薄青色に染まり、修験の聖地にふさわしい佇まいを見せてくれるのだ。

第一、桜の時期と違って、山には人の姿がまばらである。桜の頃の喧噪がまるで夢だったかように、しーんと静まりかえる町並みには、俗世から抜け出たような爽やかな時間が流れている。今年のこの5月、吉野山のシンボル金峯山寺蔵王堂で、秘仏本尊金剛蔵王権現の特別ご開帳が行われている。

蔵王堂の秘仏本尊はお肌の色が普通ではない。鮮やかな青黒色である。何年か前に放送されたNHK仏像ベスト10で、「色の鮮やかな仏第1位」にも選ばれたことがあるほど、その鮮やかな青黒色は、拝む人の心を奪ってはなさない。青の吉野山と、青の蔵王権現…。まさに新緑の季節にこそ、ベストマッチな風景と言えるであろう。

加えて、蔵王権現の青は、ただの青ではない。深い意味がある。「青黒は慈悲を表す」と仏典に記されるとおり、お肌の色に、仏の慈悲が示されている。

お参りされた方はご存じだと思うが、蔵王権現は怒髪天をつくばかりの、忿怒の形相をなさっている。それは悪魔降伏の姿なのだが、ただし、単に怖いというだけではなく、仏の慈悲で人々を救い導く、大きな願いを持った怒りの現れなのだ。内なる悪魔を封じ、外なる悪魔を破る力、とも言えようか。

親が子を叱る。叱って導く。その怒りは常に深い親の愛、親の心を奥に秘めているが、そういう親の情愛のような、慈悲の怒りを青黒は表している。新緑から深緑へと移ろい行く季節の中で、一度、青い吉野に訪れてみてはどうだろう。青の慈悲に癒やされ、心が清らかになること、請け合いである。




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