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田中利典師の「ルネサンス!山の宗教(2)白装束で「非日常」の修行 いったん死んでリセットする」(産経新聞)

2023年09月17日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、「ルネサンス!山の宗教(2)」(師のブログ 2013.8.23 付)。「新関西笑談」(産経新聞大阪夕刊 2010.10.25~29)の連載の第2回で、修験道の「擬死再生」(死に装束で山に入って擬似的にいったん死に、聖なるものに触れる。それで生まれ変わって再び日常で生活する)の話である。
※トップ写真は、大峯山・山上ヶ岳で師が撮られたご来光(9/15 林南院開創50周年記念登拝)

一方、私が登場する「新関西笑談」の(2)は、「奈良はうまいものばかり」(2013.12.3 付)だった。いまだに「奈良にはうまいものがない」という人がいるが、『ミシュランガイド奈良2022特別版』には、101ヵ店が掲載されている、うまいものばかりではないか! まあこの話は別のところで書かせていただくとして、利典師の記事全文を以下に紹介する。

ルネサンス!山の宗教(2)2010.10.26
白装束で「非日常」の修行 いったん死んでリセットする。
金峯山寺執行長 田中利典さん


--「修験道(しゅげんどう)」とはどのような宗教、道なのか教えてください
田中 ひと言で言うと自然の宗教。日本独特の山岳、神祇(じんぎ)信仰と外来の仏教、道教、陰陽(おんみょう)道が融合して出来上がった。古来の信仰に外来の思想がうまく組み込まれ熟成されたのです。修験道は非常に日本ナイズされた仏教。明治に修験道廃止令が出されたが、修験には近代以前の日本人の神仏習合が脈々と残っているのです。

--そんな修験道は大きな可能性を秘めているわけですね
田中 今、街中で山伏の格好をしてたら、ちんどん屋さんと間違われるかもしれない。ある講演に山伏の姿で出たら、抱きつかれたことがある。オオサンショウウオみたいに、ほとんど天然記念物状態ですわ。変であるだけ「異界」のもので、山伏は体験し伝える貴重なものを秘めていると思います。

--ところで、仏教は極端にならない「中道」という立場をとります。釈迦は享楽を受けた後、苦行に入ったが、苦行の無意味さを知った。それなのに修験道ではなぜそこまでして厳しい山に登るのですか
田中 人は極端を知るからこそ真ん中を知ることができる。お釈迦さんは享楽と苦行の両方を知ってから後に中道を見つけられた。あのお釈迦さんでさえそうなのだから、私たち凡庸な者は自分なりに楽しい思い、苦しい思いをしてからそこにとらわれない生き方を知ることができる。頭で考えるのではなく、自ら実感すべきです。始めから中道ありきは凡人には分かりづらいと思いますよ。

--なるほど。実践を大切にするのが修験道なのですね
田中 山では一見自分の力で歩いているように思うが、自分の力で歩いていないと感じざるを得ないことも多々あります。山で危険な目に遭(あ)って助かると、何か大きなものに導かれ、守られていると体感する。普段の生活ではあまり仏様のおかげで生きているとは思わないでしょう。

--修験道の目的とされる「擬死再生」とはどういうことを言うのですか
田中 日本人は古来、「ハレ」(非日常)と「ケ」(日常)を行き来する知恵がある。ケでは気が衰え、穢(けが)れてくるので、元に戻るためにハレに入り、寺社参りや山修行で聖なるものに触れる。山修行で非日常を送る。山修行には白の死に装束で入って擬似的にいったん死に、聖なるものに触れる。それで生まれ変わって再び日常で生活する。つまりハレによってリセットする。これが擬死再生の修行なのです。

--ハレの山修行をすると何かが変わるのですね
田中 山修行を終えると「精進(しょうじん)落とし」をする。ある先達はせっかく聖なるときを過ごしたのに最後にどんちゃん騒ぎをしてもったいないと言う。でもそれは違うのです。

--後のどんちゃん騒ぎの方を楽しみに山に行く人もいますよね
田中 山修行を終えた人は自分では聖と思っているけど、日常側から見るとそれもある種の聖なる穢れ。それに、日常にあまり聖なるものが入って来るとバランスを崩すので少し精進で落とす。自分の中で精進は残っていくもので、聖なるまま帰らないのが大切。それを担いだまま日常で生きるのは周りには迷惑なことです。修行後に精進落としをして普通になっても立派な人は立派な人のままです。(聞き手 岩口利一)
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