先日(12/9)、〈伝統的酒造りが、ユネスコ無形文化遺産に登録!〉というニュースのことを書いたが、今日は〈日本酒、インド酔わす? 国内消費減、14億人市場に照準〉(毎日新聞 2024.12.5付〉という話を紹介する。
※トップ写真は、NARASAKE180mlミニ缶。高速オフセットのニュースリリースから拝借。向かって左から「百楽門 菩提もと純米(葛城酒造)」「大倉 山廃(やまはい)純米大吟醸(大倉本家)」「百楽門 純米大吟醸(葛城酒造)」「金鼓 山廃純米酒夢酵母 古都のしらべ(大倉本家)」
インド展開の記事は、福岡県八女市の「株式会社高橋商店」と、山形市の「株式会社アスク」の話だが、奈良県内でもこんな事例がある。大和郡山市の「中谷酒造株式会社」は、1995年、中国天津市に現地法人(天津中谷酒造有限公司)を設立し、日本酒を現地生産している。また生駒郡斑鳩町の「有限会社もも太朗」は、大阪市の「株式会社高速オフセット」とタイアップして、缶入り清酒の海外輸出を検討している。
輸出を検討しているのは、トップ写真の4種類だ。近代的醸造法のルーツであり、「日本清酒の発祥」といわれる「菩提もと造り」を筆頭に、奈良県を代表する名酒が、可愛い鹿の缶入りになってラインナップしている。私は早くに、もも太朗さんの店舗「ビエラ奈良」(JR奈良駅2F)で買い求め、おいしくいただいた(1缶1,000円ほど)。では、以下に毎日新聞の記事を紹介する。
日本酒、インド酔わす? 国内消費減、14億人市場に照準
和食に対する関心の高まりで日本酒の輸出が伸びる中、ほぼ未開拓なのが世界最多14億人が暮らすインドだ。2025年には名目GDP(国内総生産)で日本を上回る見通しの大国で、市場開拓にかけるメーカーなどが日本から現れてきた。ただし、これまで未開拓だったのには理由もある。果たしてインドで日本酒は売れるのか?
福岡県南部に位置する八女市。この地で江戸時代の1717(享保2)年に創業し、「繁桝(しげます)」の銘柄で知られる酒蔵「高橋商店」は24年2月、インドの首都ニューデリーに現地法人を設立した。現在、酒販ライセンス取得の手続きを進めている。日本酒メーカーとしては初めての挑戦に、中川拓也社長(50)は「現地の活気を見てわくわくした。平均年齢も若く中流層がもっと増えれば日本酒のような嗜好(しこう)品に手が伸びるようになるだろう」と力を込める。
海外に活路を見いだした背景には、日本酒の国内消費量減と新型コロナウイルス禍がある。現在の売上高はコロナ前から1~2割減。売上高の内訳は福岡を中心に九州が約9割で、海外は韓国、台湾など2%に満たない。販路開拓に向けアジアや欧州を視察しても、同業他社が既に進出済みで競争環境は厳しい。
インドに目を向けるきっかけは23年9月、知人から日本酒に造詣が深いインド人を紹介されたことだった。100人に1人しか受け入れてもらえなくても東京都に匹敵する人口だ。財務省の貿易統計によると、23年の日本酒の輸出額約410億円のうち、インド向けはわずか約2800万円だった。
23年11月にインドを視察し、進出を決意した。酒販ライセンスが取れ次第、日本酒を中心に梅酒、焼酎もニューデリーに運ぶ計画だ。同業他社の酒や福岡の加工食品も扱い、まずはインドの日本料理店への提供を目指す。
既に輸出を始めている会社もある。山形市の米穀類販売業「アスク」は7月、初めてインドへの日本酒輸出を始めた。山形、新潟両県計7社の日本酒9434本を積んだコンテナを東京まで陸送し、海路でムンバイに送り出した。流通・販売は現地の酒類製造販売大手ADS社の協力を得る。
コンテナに運び込まれるインド向け日本酒=アスク提供
(この写真は、毎日新聞の記事サイトから拝借した)
元々、アスクは米を通じて日本の農業技術を世界に広めようと、14年からインドでの日本米生産に乗り出していた。インドで和食店が増える一方、日本米の輸入が制限されていたためで、山形県開発の「はえぬき」の現地栽培に成功した実績がある。日本酒輸出もその延長線上にある。
インドでのターゲットは、日本料理店や、起業で成功するなど比較的裕福な若者たちだ。10月には卸関係者向けのお披露目会のほか、酒を無料で振る舞う野外音楽イベントを企画した。
また飲食店の要望でADSが該当地域の酒屋に商品を卸すマッチングアプリも開発。日本酒の飲み方を紹介する動画も作成した。アスクの河合龍太常務(47)は「日本の酒文化を広めるにはオールジャパンで戦う必要がある。日本酒蔵だけでなく焼酎蔵も我々の販売網をうまく使ってもらいたい」と意気込む。
高関税や規制の壁
インドで人口の約8割が信仰しているというヒンズー教では、飲酒が良くないものとされる。しかし現地では飲酒は日常という。「飲酒が厳しく制限されている州はあるが、実際の飲酒人口は相当いて、若者を中心に飲まれている」。高橋商店の現地法人を担うアディティヤ・クマル・ビジャイさん(42)はそう解説する。中川社長にインド進出をアドバイスした当の人物だ。
ビジャイさんによると、飲酒の場は、バーなどの店やお祝いの場、晩酌と幅広い。ウイスキーのようなハードリカーが中心だが、若者にはビールが人気という。日本酒の知名度は低く、手に入っても関税などで日本の約7倍という高価格になるが、「外国の酒を積極的に飲みたいという層は存在している」と話す。
インドへの日本酒輸出は進んでいくのだろうか。日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューデリー事務所の川崎宏希さん(29)は「日本企業からの食品分野での相談は全体の2割くらい。酒類となると更にその半分に満たない程度で、現地の様子を見に来ている段階の企業が多い」と説明する。
和食を提供する店が増えているといっても、インド国内にあるのは23年現在で410店舗(農林水産省調べ)。中国の7万8760店(同)はもとより、タイの5330店(同)など東南アジアと比べてもかなり少ない。川崎さんは「若者に変化はみられるが、(インド国民は)基本的に食に保守的。日本食のプロモーションをしていても難しいと感じる」と付け加えた。
高関税などもあり、日本酒は比較的高級な飲食店で扱われている印象という。川崎さんは日本人が多い首都圏のほか、ポルトガルや英国の進出で歴史的に海外の食文化の影響を受けている西部ムンバイやゴアでは、現地の住民に受け入れの素地がありそうだと指摘する。
スタートアップが多く、海外の文化に敏感な人たちが多い南部ベンガルールも候補という。規制の複雑さや現地流通の実態もハードルになる。アスクが現地のADSの協力を得たのも「州によってルールも税金も違う」(河合常務)ためだ。
現地生産も視野
一方、高橋商店の中川社長は詳細な現地調査をせず進出に踏み切った。「輸出や現地流通のルールが分かっても、現場がそれを守っているかどうか分からない。走りながら考えようと思った」。リスクや経営のスピードを考慮し、中川社長が個人で出資した。
中川社長は、日本酒の将来的な普及にはインドの食に合わせることも考え、現地生産が欠かせないとみる。「現地の米と水でインド人が飲む酒を醸せて、初めて日本酒の文化的な価値を認めてもらえる。そうしてインドで広がればやっと商売になっていくと思う」と話す。輸出と並行して現地のワイン醸造所などへ技術を伝え、委託生産することも模索。11月には現地で試験醸造に挑戦した。【植田憲尚】
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