tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

楠木新著『定年後』(中公新書)/終わりよければ すべてよし

2018年01月20日 | ブック・レビュー
 定年後 - 50歳からの生き方、終わり方 (中公新書)
 楠木新
 中央公論新社

22万部を突破したというベストセラー、楠木新(くすのき・あらた)著『定年後~50歳からの生き方、終わり方』(中公新書)を読んだ。著者の楠木さんは私とほぼ同年代の元サラリーマンなので、言いたいことがビンビン伝わってくる。本書の帯には、

終わりよければすべてよし 自営業などを除けば誰もがいつか迎える定年。社会と密接に関わってきた人も、組織を離れてしまうと、仕事や仲間を失って孤立しかねない。お金や健康、時間のゆとりだけでは問題は解決しない。家族や地域社会との良好な関係も重要だ。第二の人生をどう充実させたらよいか。シニア社員、定年退職者、地域で活動する人たちへの取材を通じ、定年後に待ち受ける「現実」を明らかにし、真に豊かに生きるためのヒントを提示する。

Amazonの「内容紹介」には、

人生80年が当たり前になった今、長い自由時間をどう活かすべきか。
ライフサイクル的な視点から定年後の「傾向と対策」を考察する。
【目次】
プロローグ 人生は後半戦が勝負
経済的な余裕だけでは足りない / 終わりよければすべてよし …ほか
第1章 全員が合格点
定年退職日は一大イベント / 定年退職か、雇用延長か / 隠居と定年の相違点 …ほか
第2章 イキイキした人は2割未満?
名前を呼ばれるのは病院だけ / クレーマーは元管理職が多い? / 米国の定年退職者も大変 …ほか
第3章 亭主元気で留守がいい
日本人男性は世界一孤独? / 名刺の重み / 主人在宅ストレス症候群 …ほか
第4章 「黄金の15年」を輝かせるために
会社員人生の2つの通過儀礼 / 8万時間の自由、不自由 / 一区切りつくまで3年 …ほか
第5章 社会とどうつながるか
ハローワークで相談すると / 得意なことに軸足を移す / 100歳を越えても現役 …ほか
第6章 居場所を探す
自ら会合を起ち上げる / 同窓会の効用 / 家族はつらいよ? …ほか
第7章 「死」から逆算してみる
お金だけでは解決できない / 死者を想うエネルギー /「良い顔」で死ぬために生きている …ほか

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
楠木/新 1954年(昭和29年)、神戸市に生まれる。京都大学法学部卒業。大手生命保険会社に入社し、人事・労務関係を中心に、経営企画、支社長等を経験。勤務と並行して、大阪府立大学大学院でMBAを取得。関西大学商学部非常勤講師を務め、「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年、定年退職。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表、神戸松蔭女子学院大学非常勤講師


《第4章 「黄金の15年」を輝かせるために》に、こんなくだりがあり、思わず膝を打った。

会社組織で長く働いていると、人生で輝く期間は役割を背負ってバリバリ働く40代だと勘違いしがちである。しかしそれは社内での役職を到達点と見る考え方であり、本当の黄金の期間は60歳から74歳までの15年なのである。60歳にもなれば生きるうえでの知恵も蓄積されている。この15年を活かさない手はないのだ。(本書111ページ)

私もまさに「黄金の15年」のまっただ中にいる。頭も体も元気だし、何しろ今まで培った人脈がある。当然のことながら、今が人脈のピークである(毎日増え続けている)。また本書のプロローグには、

私が「定年後」について関心を持ってから15年になる。実は47歳の時に会社生活に行き詰って体調を崩して長期に休職した。その時に、家でどう過ごしてよいのかが分からなかった。(中略)私は休職した時に、自分がいかに会社にぶら下がっていたかを痛感した。同時に、個性や主体性の発揮は他人がいて初めて成立するものであって、独りぼっちになれば何もできないことを学んだ。(本書「プロローグ 人生は後半戦が勝負」)

長時間かけて社員全員が朝の9時なり10時なりにオフィスに集まるということ自体、すごいシステムなのだとよく分かったのである。当時は40代後半だったので、まだまだ定年後までは考えが及んでいなかった。しかしこのままでは退職後は大変なことになるだろうという予感は十分すぎるくらいあった。(同)


経験者はお分かりだろうが、会社というところは居心地のいいところだ。「第3章 亭主元気で留守がいい」には、「会社は天国?」というくだりがある。

会社に行けば人に会える。昼食を一緒に食べながらいろいろな情報交換ができる。若い人とも話ができる。出張は小旅行、接待は遊び。歓迎会、送別会でみんなと語り合える。遊び仲間、飲み友達もできる。時には会社のお金でゴルフもできる。規則正しい生活になる。上司が叱ってくれる。暇にならないように仕事を与えてくれる。おまけに給料やボーナスまでもらえる。(本書79ページ)

スーツを着ればシャキッとする。会社は家以外の居場所になる。などなど挙げていけばいくらでも出てきた。もちろん冗談で言い合っていたのだが、本質を突いているところもある。会話の中では、身も心も会社組織に埋め込んでしまうからいけないのであって、一定の距離を置いて接すれば会社ほど有意義で面白い場所はないとの結論に落ち着いた。(同)


こんな計算式まで登場し、私も共感した。

社会とつながる力=X(自分の得意技)×Y(社会の要請や他人のニーズ)

Xの部分は、組織での仕事の延長線上でも対応できるので、会社員の比較的得意な分野だと言えよう。しかしY(社会の要請や他人のニーズ)をつかむことは簡単ではない。もともと言葉などでは言い表せない微妙なもので把握もしにくい。


以前、「自己啓発がブーム」という話をブログで紹介した。自己啓発に熱心な人は「X」を磨いているわけだがそれでは不十分で、社会のニーズである「Y」をちゃんと見極めなければ空振りに終わるのだ(いつまで経っても社会とつながれない)。これは鋭い指摘である。

22万部を突破する本だけあって、共感できるところが多い。以下に、ZUU onlineのサイトに出ていた本郷宏治氏(ジャーナリスト、書評ライター)の書評全文を貼り付けておく。

『定年後』心配の本質は孤独感 現役時の成功は持ち越せない【書評】
誰もが迎える会社定年の日

サラリーマンとして会社に勤めている人なら、仕事上の定年はいずれ到来する。その後の人生をどのように充実して過ごすか。日本人の寿命が伸びているいま、どう対処すればよいのかという不安を持つ人が多くいても不思議ではない。

あらゆる分野で先行きが不透明な時代に、何か指南本を求めたいと思う人もいるだろう。そうした人の心をとらえているのが中公新書の『定年後』である。

■定年後、サラリーマンは「行き場」がなくなる
著者の楠木新氏は、サラリーマンの生き方や働く意味をテーマに取材、執筆活動に取り組むキャリアコンサルタントである。著書に『人事部は見ている。』『経理部は見ている。』(ともに日経プレミア新書)、『左遷論』(中公新書)などがある。

『定年後』は今年4月の発売以来、9月末現在でこれまで約22万部突破したベストセラーである。主に40代から60代前半の年代層を中心に幅広く読まれているというこの本は、楠木さん自身の経験がもとになっている部分も含まれる。

大手生命保険会社に勤めていた楠木さんは、47歳で会社生活に行き詰まり、体調を崩して長期休職した経験がある。急に会社に行かなくなると、書店と図書館とスーパー銭湯以外に足を運ぶところがなく、自分がいかに会社にぶらさがっていたかを感じた――と本書で心情を吐露している。定年後の人生を「予行演習」したことで、定年後の生き方に興味をもち、いろいろな人に話を聞いたことが本書の出発点になっている。

定年後の心配の本質は、組織を離れてしまうと仕事や仲間を失って孤立しかねないという孤独感である。会社一辺倒の人生を送っている傾向が強い日本のサラリーマンにとって会社という「行き場」がなくなるという喪失感が何より大きいのである。それは多くの人が共感するところであろう。

■若い時の成功は定年後には持ち越せない
本書に特徴的なキーワードがある。「黄金の15年間」「人生後半戦が勝負」という言葉である。「黄金の15年間」というのは、60歳を定年の時期とすると、おおむね70歳半ばごろまでは誰の介助も受けずに過ごすことができ、家族の扶養義務もなくなって、自分の裁量で行動できる時間となる。この15年が人生後半戦を左右するという。

さらに本書は、会社で役職に就くなどしていても、若い時の成功や活躍は定年後には持ち越せずいったんゼロになり、そこからの新しい展開が待っていること。そして60歳で退職したとしても、その後の人生の時間は実に8万時間もあると指摘する。そうした時間をどう充実させるか。著者は「終わりよければすべてよし」を目指して行動すべきだと主張する。

本書では、著者が定年退職した人を取材したところ、イキイキしている人は必ずしも多くなく、実は自由になった時間をもてあまし、やることがなくて困っているという事例も多く紹介されている。著者自身の経験でもあるのだが、会社では名前を呼ばれていたのに、定年退職し、無所属の時間を過ごしていると誰も自分の名前を呼んでくれず、病院でしか呼んでくれないという笑えないエピソードも紹介されている。

■定年後も社会につながるためのアドバイス2つ
こうした状況に陥らないように社会とつながりを保つにはどうすればよいのか。本書では主体的な意思や新たな生き方を見いだすために、50代から「定年後」を検討するのが妥当だと指摘する。それには、会社在職中の50代で何らかの形で走り出しておいたほうがいいというアドバイスである。

特に印象的なのは定年後も社会につながっているために、(1)何に取り組むにしても趣味の範囲にとどめないで、報酬をもらえることを考えるべき、(2)自分の向き不向きを見極め、自分の個性で勝負できるものに取り組む――という2つの助言である。

世の中で働く多くの人にとって必ずやってくる定年とその後の長い人生。それを充実したものにするために参考となる、多くの示唆に富む一冊である。(本郷 宏治、ジャーナリスト、書評ライター)


ご興味を持たれた方は、ぜひご一読を!
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奈良まほろばかるたが完成/@1,200円。学校などには無償配布も!

2018年01月19日 | 奈良にこだわる
ワンフレーズで歴史・文化、特産品など奈良県の「誇り」「ナンバーワン」を紹介し、子どもたちの愛郷心を育むため、NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」の啓発グループは、「奈良まほろばかるた」を制作・完成し、一昨日(1/17)に報道発表した。同会のニュースリリースによると、


写真はすべて1月17日、県庁内の文化教育記者クラブで撮影

奈良の〈誇り〉〈ナンバーワン〉を込めた「奈良まほろばかるた」が完成!
~小・中学校などで奈良の歴史・文化に親しんでもらえるよう、贈呈先を募集開始~


NPO法人奈良まほろばソムリエの会(理事長:鈴木浩[ゆたか])は、奈良のご当地検定「奈良まほろばソムリエ検定」(主催:奈良商工会議所)の最上級資格「奈良まほろばソムリエ」の取得者を中心とする会員約350人の団体です。奈良県の文化・観光の振興をめざし、7つの「グループ」で、ガイド、講演、文化財の保存継承などの活動を行っています。

そのグループの1つ、啓発グループ(担当理事:大山恵功[よしのり])が、本年1月15日(月)、当会オリジナルの「奈良まほろばかるた」を制作・完成しました。概要は以下の通りです。



向かって左端が、読み札と解説文を担当された米谷潔(よねたに・きよし)さん

(1)制作の経緯
啓発グループのメンバーの1人・米谷潔(よねたに・きよし 大阪市在住)が2015年「子供たちに歴史・文化が豊かな奈良の良さを知ってもらいたい」と、短い文で覚えやすい「かるた」の制作を提案。米谷がかるた文と札ごとの解説文の原案を作り、2016年10月以降、同グループの12人で別の案も出しながら検討を続け、2017年9月にかるた文と解説文を完成させました。絵は2017年2月、絵本作家・なかじまゆたかさん(橿原市在住)に依頼し、同年9月に仕上げていただきました。


すべての絵を描きおろされた、絵本作家のなかじまゆたかさん

(2)かるたの体裁
読み札、絵札各44枚で、箱入り。読み札の裏面の解説文で、奈良の歴史・文化を広く、深く学ぶことができます。絵はグラフィック絵画で、奈良らしい落ち着いた色調です。

(3)今後の活用方法
奈良県内に住む子供たち(小・中学生)に楽しみながら活用してもらえるよう、学校や子供会などの団体向けに公募するとともに、関係機関に働きかけていく予定です。学校、市町村内、さらには奈良県内と、かるた大会の輪が広がっていければ、と期待しています。制作代金の一部は「奈良県地域貢献サポート基金」から、補助金を受領する予定です。



(4)希望する小・中学校、子供会などの団体には「かるた」を無料進呈
ご希望の小・中学校や地域の子供会には、無料で進呈いたします(計400セット。送料は受取人払い)。ご希望される団体には官製ハガキなどに、①学校名または子供会名、代表者名②郵便番号、住所、電話番号③かるたの活用方法(予定)④かるたの希望セット数(上限3セット)を記入し「〒630-8001 奈良市法華寺町254-1奈良ロイヤルホテル内 NPO法人奈良まほろばソムリエの会・啓発グループ」宛て、本年3月15日(木)(必着)までに郵送していただきます。同月末をメドに、順次発送いたします。進呈先には今後、その活用方法などについてお知らせいただく場合があります。



(5)一般のご希望者には、1セットにつき1,200円の寄付金をいただき、「かるた」をお渡しいたします
一般の方(上記(4)以外のご希望者)のご寄付収受および引き渡し場所は、クラブツーリズム奈良旅行センター様(奈良市東向中町28 奈良近鉄ビル5階 電話0742-90-1000 営業時間10:00~17:00 日・祝休業)です。近鉄奈良駅5階の同センターで、1月17日から対応していただきます。

※本件に関するお問い合わせ先 当会啓発グループ・米谷潔(090・2101・8640)





なかじまさんの絵が素晴らしいのは当然としても(特に女性に人気)、読み札もとてもよくできている。これをマスターすれば「奈良検定2級」レベルの力がつくのではないだろうか。44枚すべての読み札を紹介する(原文はすべてひらがな)。 

【あ】飛鳥寺日本で一番古い寺
【い】一年の半分雨の大台ヶ原
【う】海のない奈良で生まれた柿の葉寿司
【え】役行者奈良御所生まれの修験僧
【お】雄岳と雌岳大津皇子が眠る二上山



【か】蛙飛び行事世界遺産の金峯山寺
【き】巨大な弥生時代の唐古・鍵遺跡
【く】空海が伝えたという大和茶
【け】蹴鞠行事鎌足祀る談山神社
【こ】興福寺五重塔を映す猿沢池
 
【さ】最古の歴史書古事記の編者太安万侶
【し】初代神武天皇祀る橿原神宮
【す】西瓜の種奈良が生産日本一
【せ】世界最古の木造建築法隆寺
【そ】蘇我馬子の墓と伝わる石舞台

【た】高山は茶筌の生産日本一
【ち】中将姫ゆかりの當麻寺と石光寺
【つ】築地塀四方をめぐる平城宮
【て】寺の屋根瓦行基葺きの元興寺
【と】唐の僧鑑真建てた唐招提寺



【な】奈良の鹿春日大社の神のお使い
【に】二月堂春を告げるお水取り
【ぬ】額田王めぐる争い大和三山
【ね】年号は大化で始まる日本国
【の】能楽の始まり大和猿楽四座

【は】花の長谷寺舞台造りと登廊(のぼりろう)
【ひ】卑弥呼の墓ともいわれる箸墓古墳
【ふ】藤原京日本初の本格都城
【へ】壁画で知られる高松塚とキトラ古墳
【ほ】法華寺は光明皇后ゆかりの尼寺

【ま】万葉集奈良生まれの最古の歌集
【み】三輪山は大神神社のご神体
【む】室生寺は女人高野のたたずまい
【め】めらめらと炎が走る若草山焼き
【も】裳階(もこし)あり六重に見える薬師寺東塔

【や】大和は国のまほろばとうたった倭建命(やまとたけるのみこと)
【ゆ】油煙墨ススをかためた奈良の墨
【よ】吉野山桜の名所と西行法師

【ら】蘭奢待(らんじゃたい)天下一の名香収める正倉院
【り】両手で廻し飲みする 西大寺大茶盛
【る】盧舎那仏(るしゃなぶつ)は東大寺の大仏さん
【れ】冷気に晒して作る三輪そうめん
【ろ】ロマンある最古の古道山の辺の道
【わ】若宮おん祭生きた日本の芸能史


このかるたを発案された米谷潔さん(大阪市出身・在住)に以前、岡潔の言葉を教えていただいた。『春宵十話』に登場する。《奈良の築地塀のこわれた所など、世の移り変わりに超然としているようなのがいいと思うが、こういう奈良の良さというのも秋の日射しというのと同じで、わかる人にしかわからないだろう》《奈良の良いものを保存したいが、本当に良いものはちょっとしたところ、何でもないところにある》《観光観光というけれども、もちろん見に来たい人は来ればよいが、それよりもこの町を中心に日本らしい文化を興したいものだ。そんな夢を私は持ち続けている》。

このような「奈良の良さ」を子供たちに伝えていくためには、かるたはとても良いツールである。群馬県が誇る「上毛(じょうもう)かるた」のように広まってほしいと願っている。小・中学校の先生や子供会の代表者の方、ぜひご応募ください(1団体最大で3セットまで可能・先着順)。個人の皆さんは、ぜひ近鉄奈良駅ビル5階、クラブツーリズムさんの窓口でお買い求めください!

※読売新聞奈良版(1/21付)で大きく紹介された



※同会の会報紙「ソムリエの風」2017年12月号に、すべての絵札が紹介されている



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1月25日(木)開催!/藻谷浩介氏と山田桂一郎氏を迎え、第9回観光力創造塾(2018 Topic)

2018年01月18日 | お知らせ
いよいよ来週です!「第9回 観光力創造塾」(南都銀行と県の共催)を1月25日(木)に開催します。基調講演(2本立て)は、藻谷浩介氏(日本総合研究所主席研究員=向かって右)と山田桂一郎氏(JTIC.SWISS 代表、奈良県立大学客員教授=左)。そのあとはお2人と若手の前田徹くん(南都経済研究所主任研究員)を交えてのトークセッション。コーディネーターは私が務めます。

お2人の共著『観光立国の正体』の要約は、こちらに載せています。シンポジウムの参加は無料で要申し込み。申し込みの締め切り日は明日(1月19日)ですが、残席がありますので受付は継続いたします。お申し込みは、こちらの3枚目に必要事項を記入し、南都銀行本支店の窓口にお持ちいただくか、FAXで「公務・地域活力創造部」にお送りください。

今回のテーマは「観光地奈良の生き残り戦略2018」です。かつて南都銀行の「観光振興による地域活性化セミナー」というシリーズ講演会で、藻谷氏は2005年、山田氏は2007年にお招きして、奈良の観光振興について熱く語っていただきました(2007年の概要はこちらに載せています)。

それから10年以上が経ち、インバウンドなど観光を取りまく環境は一変しました。新たな時代に新たな「生き残り策」をお聞きするシンポジウムです。たくさんのお申し込みをお待ちしています!概要は以下の通りです(南都銀行のニュースリリースより)。

第9回「観光力創造塾」を1月25日(木)に開催します!
~ テーマは「観光地奈良の生き残り戦略2018」~


南都銀行(頭取 橋本 隆史)は本年10月に「観光戦略室」を立ち上げ、奈良県全体での「稼ぐ観光」の確立をめざし、国内外からの宿泊観光客を奈良県内に誘致するための仕組みづくりに取組んでいます。

新年を飾る今回は、「観光地奈良の生き残り戦略2018」をテーマに、地方から日本を再生させる処方箋として注目されている話題作『観光立国の正体』(新潮新書)の共著者を講師に迎え、「観光立県・奈良」に向けた今後の戦略等についてご提言いただきます。

第Ⅰ部は地域振興のエキスパート 藻谷 浩介氏に、第Ⅱ部では観光のカリスマ 山田 桂一郎氏にそれぞれご講演いただきます。また、第Ⅲ部のトークセッションでは、講師の藻谷氏と山田氏を交えての討論会を行います。概要は以下のとおりです。

【第9回観光力創造塾の概要】
・日 時: 平成30年1月25日(木)13時 ~17時(12 時 30 分受付開始)
・会 場: 奈良春日野国際フォーラム 甍 ~I・RA・KA~(旧 奈良県新公会堂)1階 能楽ホール
(奈良市春日野町 101)
・対象者:ホテル・旅館、レストラン・料理店、物販、社寺ご関係者、自治体、 観光協会・地域おこしグループ等の観光関連団体の皆さま 等
・定 員:300名(先着順、ただし定員に達し次第、締め切ります)
・参加費:無 料
・申込期限:平成30年1月19日(金)

・内 容
第Ⅰ部[基調講演]
テーマ : 「稼ぐ観光」への転換
講 師 : 藻谷 浩介(もたに こうすけ)氏 日本総合研究所 主席研究員
第Ⅱ部[基調講演]
テーマ : 「感幸地」としての奈良
講 師 : 山田 桂一郎(やまだ けいいちろう)氏 JTIC.SWISS代表、奈良県立大学客員教授
第Ⅲ部[トークセッション]
テーマ : 激論!「観光地奈良の生き残り戦略」
パネリスト : 藻谷 浩介 氏 日本総合研究所 主席研究員
山田 桂一郎 氏 JTIC.SWISS 代表、奈良県立大学客員教授
前田 徹 南都経済研究所 主任研究員
コーディネーター:鉄田 憲男 南都銀行公務・地域活力創造部 観光戦略室
・共 催:当行、奈良県
・後 援:近畿財務局
・協 力:一般財団法人 奈良県ビジターズビューロー、一般財団法人 南都経済研究所

※申込方法:当行本支店に備付のチラシ(別添)裏面の参加申込書に必須事項をご記入のうえ窓口にご提出いただくか、当行観光戦略室宛ファックスでお送りください。定員超過によりご参加いただけない場合は、当行からお電話でご連絡いたします。

【本件に関するお問合せ先】
公務・地域活力創造部 観光戦略室 ℡0742-27-1611


皆さん、奮ってお申し込みください!





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社寺参拝・酒蔵探訪と新酒の試飲/清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー、3月3日(土)実施!(2018 Topic)

2018年01月17日 | お知らせ
こんな楽しいバスツアーがある。タイトルは「清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー」 (奈良発着ツアー)。一般財団法人奈良県ビジターズビューローが主催・実施し、南都銀行が協力するバスツアーである。日本酒好きの私が、ガイドを務める。同法人のHPによると、
※トップ写真は奈良豊澤酒造。1月7日に撮影

清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー (奈良発着ツアー)  
清酒発祥の地で日本酒文化を満喫!

お酒の神様・大神神社にて特別参拝と酒殿・杉玉見学、名物の三輪素麺と柿の葉寿司をご賞味いただいた後、清酒発祥の地・菩提山正暦寺~春日大社特別参拝と酒殿見学、最後は奈良有数の清酒ブランド「豊祝」の酒蔵である奈良豊澤酒造で酒蔵見学と利き酒体験といった日本酒文化をたっぷり堪能できる日本酒ファンにお奨めのコースです。さらに今回、奈良まほろばソムリエ(奈良まほろばソムリエ検定)鉄田憲男氏の解説つきです。



大神神社境内の活日(いくひ)神社。1月8日に撮影

名 称 清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー
日 時 2018年3月3日(土)
集 合 近鉄奈良駅またはJR奈良駅
料 金 9,800円/お1人様

◆最少催行人員:15名
※事前に予約サイト(SMART TRAVEL)でのお申込みが必要です。
※予約状況により中止する場合があります



1月8日、正暦寺で営まれた清酒祭で

大神(おおみわ)神社では、杜氏の祖神・高橋活日命(たかはしいくひのみこと)をお祀りする「活日神社」も参拝する。ランチは池利「千寿亭」。清酒発祥の正暦寺では、ご住職のお話を聞く。春日大社では、春日祭(かすがさい)にお供えするお神酒を醸す「酒殿」を外から拝観するとともに、境内末社のお酒の神さま「壺神(つぼがみ)神社」もお参りする。

奈良豊澤酒造は近年、この春日大社のお神酒(社醸酒)を醸している酒蔵で、最後にここで新酒などを試飲する。南都銀行のニュースリリースに、ツアーの趣旨が出ている。


春日大社境内の壺神神社。1月7日の撮影

奈良県ビジターズビューローとの連携企画第1弾
「清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー」を開発!

南都銀行(頭取 橋本 隆史)は、一般財団法人奈良県ビジターズビューロー(理事長 荒井 正吾氏=奈良県知事)と連携して、「『清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー』商品」を開発しました。同法人とは平成29年10月に「観光地域づくりに関する連携協定」を締結し、本商品は、奈良県内の周遊型観光地域づくりに向け、同法人と連携して取組む企画第1弾となります。



これら2枚は、奈良豊澤酒造で1月7日に撮影

当行は「Chance 地銀共同化行(*)」とともに地域の観光振興を行うために、「日本酒蔵ツーリズム推進協議会」に参加しており、本商品はその一環としての企画でもあります。
(*)Chance 地銀共同化行
三菱東京UFJ銀行の勘定系・情報系などの基幹システムを基に構築した「Chance 地銀共同化システム」を共同利用する地銀の広域連携。現在、当行のほか、めぶきフィナンシャルグループ、百十四銀行、十六銀行、山口フィナンシャルグループが参加しています。

当行は、平成29年10月に、公務・地域活力創造部内に「観光戦略室」を設置しており、今後とも奈良県ビジターズビューローをはじめ行政や観光関連団体との連携を強化して、奈良県全体の「稼ぐ観光」の確立に貢献してまいります。概要は、以下のとおりです。



「清酒発祥の地・奈良を巡るバスツアー」
【出 発 日】 平成30年3月3日(土)
【募集人員】 40名(最少催行人員15名)
【旅行代金】 9,800円(大人・お 1 人様)
【旅   程】 近鉄・JR 奈良駅(9:00 出発)==大神神社==池利三輪素麺茶屋「千寿亭」(昼食)==【途中休憩・お土産】==正暦寺==春日大社==奈良豊澤酒造==近鉄・JR 奈良駅(18:00 着)
※ツアーの募集・販売および実施は、奈良県ビジターズビューローが行います。
※本ツアーのガイドでも、当行公務・地域活力創造部観光戦略室が協力します。


「日本酒」をテーマとして、その発祥にまつわる社寺を参拝し、最後にはお神酒を醸(かも)している酒蔵を見学して新酒などを試飲する、というスペシャルツアーである。現地では神職、住職、蔵人に熱く語っていただく。私はバスの車中で、お酒にまつわるいろんなお話をさせていただくつもりである。

皆さん、ぜひお申し込みください!
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藻谷浩介&山田桂一郎著『観光立国の正体』新潮新書/地域内でおカネを回そう!

2018年01月16日 | ブック・レビュー
 観光立国の正体 (新潮新書)
 藻谷浩介、山田桂一郎
 新潮社

1月25日(木)、「観光地奈良の生き残り戦略2018」と銘打ち、奈良県と南都銀行の共催で「第9回 観光力創造塾」を開催する。無料だが申し込みが必要である。まだ席があるので、今からでもぜひお申し込みいただきたい(お申し込み方法は、こちら)。

講師にお迎えするのは藻谷浩介氏と山田桂一郎氏。お2人には『観光立国の正体』(新潮新書)という共著がある。イベントに申し込まれている方の中にも未読の方がいらっしゃるようなので、本書の概要をここに紹介しておく。まず、本の要約サイトflierの「レビュー」によると、

観光はサービス業である。ゆえに、観光を地域の基幹産業に据えるのであれば、観光客に「また来たい」と思わせるサービスを提供してリピーターを獲得していかなくてはならない。それを怠れば客から旅先に選ばれなくなり、やがて観光地として寂れていく。そして、地域全体の活力までもが失われていくことにもつながる。

日本の観光地は、かつては団体客を効率よく回していくことで収益を上げていた。しかし、団体客が減って個人客の割合が高くなった途端に、客をリピーターに変える魅力や価値が十分に備わっていないことを露呈し、多くの観光地は集客に悩むようになっていった。

著者の一人である山田桂一郎氏は、山岳ガイドやスキー教師としてスイスの観光産業に携わってきた人物だ。日本各地を回り、スイスで培った経験や知識をもとに観光地の再生、ひいては地域の再生のためのアドバイスをしている。そのポイントは「住民主体の地域経営」と「地域全体の価値向上」である。本書ではこれらの点を踏まえて立て直しに取り組み、成果を上げた地域が紹介されている。

観光産業だけが潤うのでは意味がない。農林漁業や商工業などの他の産業、そして一般住民までもが豊かさを実感できるようになることが重要なのだと山田氏は強調する。その地域が真の意味で豊かであれば、訪れたものに幸せを実感させ、良き思い出となる。まさに観光地を「感幸地」にするためのヒントが詰まった一冊だ。




では、以下に主な論点を本文から抜粋して紹介する。

第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス(山田桂一郎)
残念ながら日本の観光・リゾート地のほとんどは、そういった(海外の事例のような)厳しいリピーター獲得競争を知らないまま、ひたすら一見客だけを相手に商売を続けてきました。特に高度成長期からバブル期、近年までずっと一拍だけの団体客メインでやってきたために、せっかく二泊、三泊と連泊を希望している個人のお客様に対して、二泊目以降の夕食を出せなくなってしまう旅館やホテルが未だに存在しています。もしくは、そういう個人客にも団体用のビュッフェスタイルの食事でごまかしています。

経営的に見ればどう考えても長期滞在者の方がありがたいはずなのに、そういう一番大切な顧客を満足させるノウハウを持っていないのです。このことは、日本の観光業界において「リピーターあってこそのサービス業」というビジネスの常識すら共有されていない証拠と言えます。

昔々、画一的な団体旅行が主流だった時代は、それでも問題なかったかもしれません。しかし、これだけ価値観が多様化し、インターネットでいくらでも情報が得られる時代、その手法が通用しないのは明らかです。実際、宿泊者数ではなく消費額ベースで見ると、団体客のシェアはすでに全体の約1割です。つまり業界の売上の約9割が、今では個人によって支えられています。

しかし、そういう現実は理解していても、古いタイプの事業者というのは自らマーケティングをしてきた経験もありません。そもそも自分たちの魅力について真剣に考えたこともないため、どういう層のお客様にどのような商品提供や情報発信をすればよいかも分からないのです。その結果、やみくもな価格競争に巻き込まれてしまうケースが多くなってしまうのです。

さらに困るのは、寂れた観光・リゾート地ほど、そういった老舗旅館や大型ホテルの経営者が地元観光連盟のトップや役員になどに君臨していることです。既得権にどっぷり浸かった古株の中には、自分たちの無策を棚に上げて、お役所から予算を引っ張ることしか頭似ない人も多々います。観光産業を狭い枠でしか捉えられず、社会全体の中に位置付けることができないため、お客様から見放された真の原因を見抜いていません。

第2章 地域全体の価値向上を目指せ(山田桂一郎)
(スイスのツェルマットでは)レストランで使う食材やホテルの備品にしても、「地元で買う・地元を使う」の思想は徹底しています。多少コストが高く付いたとしても、地域内でお金を使ってキャッシュフローを活発にした方が、結局は地元のためになる。この考え方はツェルマットが観光・リゾート地としてスタートした19世紀末から一貫して変わりません。もちろん、質が悪いものを扱うと厳しく指摘されますから経営努力を怠ることはできません。

今、日本の観光・リゾート地に一番欠けているのが、この「地域内でお金を回す」という意識ではないでしょうか。特に近年は、目先の価格競争に気を取られ、1円でも安い業者から食材・資材を購入しようと躍起になっている事業者が増えています。しかし、そうやって無理に利益を出しても、地元の生産者や業者が倒れてしまえば、結局はその地域の活力そのものがなくなってしまいます。

第5章 エゴと利害が地域をダメにする(藻谷浩介、山田桂一郎)
藻谷浩介:行政がすすめているガイド養成事業についても、山田さんは「ボランティアガイドばかり増えていてプロとしては使えない」と指摘されていますよね。熊野古道などではガイドをちゃんとプロにするぞという考えを持って、養成事業に税金も使ってきたわけですが、これは相対的にはマシと言えるんでしょうか。

山田桂一郎:これも全国的に同じ問題を抱えているのですが、どこも的を射ていないというか、極めて効率が悪い。例えば、行政が主催するガイド養成講座は平日の昼間中に開催することが多く、基本的にリタイアした暇なおじさんおばさんしか参加出来ません。しかも、稼ぐ気がなく生涯学習の講座のような感覚で参加しているので、ビジネスの話をすると文句を言う人までいます。これでは、他に仕事を持った人たちや既にガイド業で活躍している人たちがスキルを磨いて食っていきたいと思っても参加出来ません。

山田桂一郎:きつい言い方に聞こえるかも知れませんが、私は「質の低いボランティアガイドはストーカーと同じである」と言っています。相手が何を望んでいるのかも確かめず、自分の知識をひけらかすように上から目線でひたすらしゃべり続けて観光客につきまとっているわけですから。


「質の低いボランティアガイドはストーカーと同じ」とは、キツい言葉であるが、奈良にはそんな人はいないと信じたい。そういえば県は「プロの観光ガイドを増やす」と公言していたが、進捗しているのだろうか。

藻谷浩介:観光地は地域としてまとまって行動しなきゃダメですよという話をすると、若い世代は比較的分かってくれる。なぜかというと、いい時代を知らないから。旅行業界のアンシャンレジーム構造がなぜできたかというと、戦後、旅行の「リョ」の字も知らない人たちが一生に一回ぐらいは旅行に行ける時代になり、さらに一年に一回ぐらい行ける時代になったので、今の中国人による爆買いみたいな現象が国内で起きたわけです。

藻谷浩介:素人さんが大勢旅行に行くので案内業、つまり旅行代理店が大成長を遂げるという時代が70年代にあった。年寄りの脳中にはその残像がいまもあるんだけど、そんなのを知らない若い人たちは、昔の常識は役に立たないと分かっている。旅館だって、飲食店と同じように直接ネットで見て自分で選ぶと分かっている。

藻谷浩介:だけど、旧来型の人たちがまだ生き残っていて、客が来ないと「お前ら観光協会のプロモーションが悪いからだ。だから俺に実権を戻せ」となってしまう。有名観光地で起きているのはそういうことですよね。せっかく若手が頑張ってやろうとしたり、北陸の某有名温泉のように県の観光担当が事情を分かって指導していたところで、突然先祖返りが起きてしまう。もしくは、世代交代を全くせずに老害が残る。

山田桂一郎:まあ、戻ってきても考えることは単純な宣伝や広報が中心で、例えばいきなり知事のところへ行って「大河ドラマか朝ドラを引っ張ってこい」と訴えたりするから、行政側も頭抱えますよ。

藻谷浩介:つまり彼らは、「知名度が落ちているから客が来ない」という認識なんですよね。松下村塾のあった山口県の萩は二年に一度は大河ドラマに出ているのけれど旧態依然の事業者の巣のようになっています。関ヶ原も同じく二年に一回は大河ドラマに出るけど、誰も観光に行かない。事実に照らして考えればわかりそうなものですが、考えない。ましてや知名度ではなく自分の経営が悪いと考えることはない。

第7章 「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである(藻谷浩介、山田桂一郎)
山田桂一:ただ次回の東京に関して言えば、そもそも言われているような経済効果はないですよ。都市圏人口もGDPも世界最大の都会で、元々が巨大ですから、オリンピックのプラスなんてほとんどないのです。東京でのオリンピック効果と、鳥取での国体の効果は、比率で考えれば後者の方が大きいですね。そしてどちらもたいしたことはない。


本書に出てくる「地域のボスゾンビ」はちょっとした流行語になり、かつて「都議会のドン」と並べて論じられた。サイト「デイリー新潮」によると、

「都議会のドン」だけじゃない!「観光立国」の前に立ち
はだかる「地域のボスゾンビ」たち(2016年11月29日)

小池百合子都知事の誕生で、それまで語られることのなかった「都議会のドン」や彼を取り巻く利権構造が可視化されたが、「ドン」が生息しているのはもちろん東京に限らない。むしろ、問題は地方の方が深刻だ。地域の再生に現場でとり組む2人の専門家が「ぶっちゃけ」で現状を語って話題を呼んでいる『観光立国の正体』(藻谷浩介、山田桂一郎著)によると、観光立国にとって最大の問題は「地域のボスゾンビの存在」だと言う。

■「半沢直樹の敵みたいな人」
「地域のボスゾンビ」とは、地元の有力な観光事業者で、一族からはしばしば政治家などが輩出することもある「現状維持勢力」のことである。自分たちの商品や魅力に磨きをかけることなく、「もっとPRすれば客は来てくれるはずだ」と信じて、旧来型の観光の仕組みに安住し続ける人たちである。「比喩的に言えば、自分では何もしないけど他人の邪魔だけはする、半沢直樹の敵みたいな人」(藻谷氏)。

バブル崩壊以降、有名観光地の多くは凋落傾向に苦しんできた。そうした現状を打開しようと、地元の事業者の中には若手を中心に、新しい試みをしようと考えている人たちも出ている。それが功を奏して復活を果たした観光地も多くある。しかし、そうした若手たちの試みを苦々しく見ていて、事あらば潰してやろうと考えている「地元の名士」たちも沢山いたのだ。その「地元の名士」が現状維持を図り、改革の芽を潰しにかかったとき、「ゾンビ」と化するわけである。

『観光立国の正体』の中で挙げられている例の一つに、志賀高原がある。志賀高原ではかつて、若手事業者たちが停滞する現状を打開するために新しい試みを構想したことがあったが、地元に君臨していた「ボス」が圧力をかけて改革の芽を潰してしまったのである。それから数年が経ってインバウンドブームが起きたものの、志賀高原はそのブームに対応するための準備が出来ておらず、外国人客を取り逃がしてしまった。しかも、圧力をかけていたそのボスの会社自体が倒産してしまったのである。

同じ頃、近くにある野沢温泉では若手の改革が実を結んで、スノーリゾートとしての評価が高まった。今では外国人スキーヤーが2週間単位で滞在する場所にまで変貌を遂げているが、地元のボスに食い物にされた志賀高原は、いまだ充分にインバウンドを取り込めずにいる。

■有名観光地でゾンビ大復活!
同書の中で、著者で観光カリスマの山田桂一郎氏はこう語っている。「最近の動きでとても気になるのは、全国的に有名な観光地や温泉地の観光協会や宿泊業組合等の組織で、役員が老齢化していることです。これまでの古い体質から脱して、新しい組織で動きだしたと思ったら、役員が前の世代に先祖返りしてしまっている場合も多い。でも、居座っている古い人たちも何をすればいいのかぜんぜん分からない。役職を手にして喜んでいることだけは確かですが(笑)」

「九州にある超有名温泉地でも、新しい観光推進組織が立ち上がり地域全体で支えて行かなくてはならないという時期に、地元の宿泊業組合の役員が代わって『逆走』が始まったことがありました。役員が代わっただけで、それまでまちづくりに頑張っていた組織がただの会員同士の親睦会になってしまった。全国の老舗温泉地ではいくつも実例がありますが、どの地域でもうかうかしているとやる気ある若手にとって代わろうとするヤクガイゾンビに乗っ取られますね。ヤクガイとは薬害ではなくて、役職だけを欲しがる役害です」

この九州の有名温泉地の他にも、北陸地方の有名温泉地、中部地方の海辺のリゾート地など、役害ゾンビが復活している観光地は枚挙にいとまがない。皮肉なことに、「地方再生」とか「観光立国」というスローガンが声高になっていることが、ゾンビたちを妙に元気にしている面もあるという。(デイリー新潮編集部)


デービッド・アトキンソン氏とはまた違った意味で、「よくぞ書いてくれた」と爽快になれる本である。シンポジウムではお2人がどのような切り口で「観光地奈良の生き残り戦略」を語ってくださるのか、今から楽しみ(心配?)である。お申し込みは現在も受付中(お申し込み方法は、こちら)。たくさんの方のお申し込みをお待ちしています!
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