● **あなたは、袋小路に住んでいる。つきあたりは別の番地の裏の塀で、猫だけが何の苦もなく往来している。**
表題作に登場する男、小田切は作家志望だがなかなか芽が出ない、袋小路状態。小田切にぞっこんで、なんだかストーカーチックに思いを寄せている「私」。ふたりの関係も袋小路。
中学生の時、私は一年先輩の小田切を好きになる。それ以来12年間ふたりの間には「何」も起こらない。私は**「小田切さん、このままじゃつらいです。最後に一度だけでいいから」そのあと迷って「一緒に寝て下さい」**とメールを送る。男は断る。
「恋人未満家族以上」と作者はふたりの関係を表現している。言い得て妙(ってあたりまえか)。作者にとって男と女の理想的な関係なのかもしれないな、と思う。
「袋小路の男」は私(女)の視点から描かれていたが、次の作品「小田切孝の言い分」はふたりの関係を、ときには男の視点から描いた続編。
彼女は会社の上司と「して」妊娠してしまう。そのことを電話で男に告げる。この男はこんな時優しい。
**「で、手術はいつ?」「えっ?」「だからいつ? 決めたんだろ」日向子が戸惑っていると、小田切は「車で送ってやるよ」**
ラストはこの作家なりのハッピーなエンディング。ふたりは袋小路から抜け出すかもしれない・・・、私はそう思った。