透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

時間がぎっしり詰まった蔵

2010-07-30 | A あれこれ


諏訪の蔵  091101撮影


三郷の繭蔵 090211撮影

 土蔵は木造で板の表面に耐火被覆として土が塗られていることが分かります。柱と柱の間に厚い板を落とし込み、その表面に堅木や竹のくさびを打ち込みます。上の写真でくさびの跡が規則的に並んでいることが分かります。くさびに縄をかけて土壁に塗り込むことで剥落を防いでいることが下の写真で分かります。二度三度と重ね塗りをするんですね。時間のかかる仕事です。

さてこの先どう書きすすめるか・・・、考えていませんでした。

ガウディのサグラダ・ファミリアは調べてみると着工が1882年で、完成は2256年と予想されています。着工から完成まで約370年!今話題の東京スカイツリーは着工が2008年7月で、完成予定が2011年12月です。たった3年数か月で高さ634(武蔵国に因んだとか)メートルの電波塔を造ってしまうというプロジェクトです。

「大きいことはいいことだ」というチョコレートのテレビCMがむかし流行りましたが、今は「速いことはいいことだ」という風潮ですね。建築も然りです。建設工期の短縮が必ずと言っていいほど課題になります。東京スカイツリーはサグラダ・ファミリアの100分の1の工期です!

上の蔵にはあんこが、じゃなかった、時間がぎっしり詰まっているような気がします。今のインスタントな建築には時間をストックすることなどできそうにありません。

「♪のんびりゆこうよ俺達は」 やはりむかし流行ったCMソングの歌詞のような社会、経済、文化にはもう戻れないでしょうね。 






「いるかホテル」の羊

2010-07-30 | F 建築に棲む生き物たち



■ 今は池上彰ブーム、といっていいだろう。池上さんはテレビ番組に出演する機会も多いし、池上さんの本(主に新書)が書店に何冊も平積みされている。

タイトルに惹かれて『<わかりやすさ>の勉強法』講談社現代新書を一昨日購入して、今日(29日)読み終えた。このようなことには関心がある。

**わかりやすい説明とは、相手にまず話全体の「地図」を渡した上で、「いまの話は地図のここに位置します」と示す説明です。そのためには、相手に渡す全体の「地図」を、話し手が用意していなければいけません。** このような指摘には素直に頷くことができる。

池上さんは本書でストック情報とフロー情報について触れ、ストック情報は手元に置いておけばいつでも見ることができ、そのことが、自分にはいちばん重要だと書いている。

電子書籍体験は未だしていないが、イメージとして一過性の情報、フロー情報のような気がする。紙の本はストック情報、電子書籍はフロー情報と対比的に捉えることができるだろう。

紙の本は書棚に並べておけば、いつでも目に触れることになる。それに対して電子書籍はものとして存在していないから、再読のきっかけにはなりにくいのではないか。やはり情報の外在化(目に見えるような状態にしておく)って大いに意味がある、と思う。

自室で書棚をながめていて、村上春樹の『羊をめぐる冒険』講談社文庫が目に入った。取り出して再読し始めた。数年前に読んだ長編小説だ。電子書籍ではこうはいかないだろう。

カバーを見て、建築の壁に羊の影が映っていることに気が付いた。これは・・・、小説に出てくる「いるかホテル」だ。

ということで、本稿を「建築に棲む生き物たち」というカテゴリーに入れておく。


棲息地:いるかホテル 観察日:100729

**ホテルは小さく、無個性だった。(中略)ネオンもなく大きな看板もなく、まともな玄関さえなかった。レストランの従業員出入口みたいな愛想のないガラス戸のわきに「ドルフィン・ホテル」と刻まれた銅板がはめこまれているだけだ。(中略)建物は五階建てだったが、それはまるで大型のマッチ箱を縦に置いたみたいにのっぺりとしていた。** いるかホテルの外観はこのように描写されている(下巻18頁)。