透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

雨の日曜日

2010-07-11 | A 読書日記



 雨の日曜日。こんな日は自室で静かに本を読むのがいい。窓を開けていると涼しい風が入ってくる。スズメが盛んに鳴いている。

『ルリボシカミキリの青』福岡伸一/文藝春秋を読む。なかなか魅力的なタイトルだ。この本は「週刊文春」に連載中のコラムの70回ぶんほどを再構成・再編集し、手を加えたものだと著者がエピローグに書いている。内容は盛りだくさん。

建築家の伊東豊雄や作家の川上弘美、じゃなかった川上未映子も登場する。松本清張の作品も『1Q84』も取り上げられている。

伊東豊雄には**少年の心は、虫とか魚とか恐竜とかそんなウェットなものの方に惹かれるか、あるいは鉄道とかロボットとか銃とか、そんなメカニックなものの方に惹かれるか、かなり早期のうちに分化してしまうような気がするんです。(中略)建築家というのは一見、メカニックなものの方に惹かれた人のように思われていますが、実は最初はウェットなものの方に憧れた人のような気がするんです。**と問いかけ、

**(前略)トンボのヤゴが岸辺に一斉に上がってくるんです。それを一生懸命、捕まえて家に持って帰って、容れ物に放すのです。枝や草を入れて。するとヤゴたちは明け方、それに登り、しっかり掴まったあと、ゆっくり羽化を始めるのです。(中略)今でも思うのです。あんな建築が作れたらどんなにすばらしいだろうと。**という答えを得ている。(注:建築は「作る」より「造る」のほうが相応しいと思うが)

松本清張の『影の地帯』の死体処理の方法、死体をパラフィン漬けにして自動鉋で削るというのは実際には無理だと指摘している。この推理小説を読んだときは、なるほど!と思ったのだが・・・。

さて、このコラム集を読んで一番の収穫はルネ・デュポス(←過去ログ)が30年前に提唱したという、Think globally,act locally. という標語を知ったこと。これは最近建築の世界で唱えられている、近代建築に対する反省にも通じる。

読書の成果を欲張ってはいけない。何かひとつ掴めばいい。
龍馬伝を観たから、寝る。


季刊誌「考える人」 村上春樹ロングインタビュー

2010-07-11 | A 読書日記


 新潮社の季刊誌『考える人』夏号には「村上春樹ロングインタビュー」が掲載されている。80ページにも及ぶまさにロングインタビュー特集。

―― 三日間、ほんとうにありがとうございました。こんなに話していただいて、村上さんの小説家としての姿勢やお考えについて、深いところまでさまざまに腑に落ちた三日間でした。
村上 大変だったね。さすがに疲れたな。
―― ありがとうございました。

雑誌の表紙にはインタビューが行われた箱根の古いホテルの階段を上ってくる村上春樹が、そして特集記事の最後のページにはその階段を下りていく村上春樹の後ろ姿が写っている。インタビューの始まりと終わりのビジュアルな表現。

インタビューは『1Q84』のBOOK4の可能性についても触れている。

『1Q84』のBOOK4なりBOOK0なりがあるかどうかは、いまは僕にも何とも言えない。ただ、いまの段階で言えるのは、あの前にも物語はあるし、あのあとにも物語があるということです。(後略)

村上春樹は答えて、続篇の可能性を否定していない。今年の5月に箱根で3日間にわたって行われたインタビューは興味深い、春樹ファン必読。

他には「生物と無生物のあいだ」の福岡伸一と「日本辺境論」の内田樹(たつる)の対談が収録されている。

普段、雑誌は立ち読みで済ませているが充実の本誌は購入して読んだ(本稿中、敬称略)。