透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「伝統と未来」 黒川紀章の講演

2010-07-18 | A あれこれ

 NHKのラジオ深夜便で黒川紀章の文化講演会「伝統と未来」の後半を聴いた(深夜便アーカイブス:昭和62年3月22日放送から)。たまたま先週前半を聴いたので後半も聴かなくてはと、前日寝不足だったが起きていた。

「侘数寄」から「花数寄」へ。「わび、さび」という日本の伝統的な美意識の再解釈、再定義。

簡素と華麗、無飾と装飾というような両義性にこそ日本の伝統的な美があると黒川さんは唱える。谷崎の「陰翳礼讃」も闇と光の両義的な美の礼讃と理解すべきだという。薄暗い部屋の中でこそ映える蒔絵された漆器の美。

相反するふたつのものを「共生」させるという日本の伝統的な美学。現代建築や都市の計画でこの美学を実践し続けてきたという話の流れ。

黒川さんの講演は論理的で分かりやすく、なかなか興味深かった。

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日本の伝統的な住まいにある縁側、縁空間から発想した中間体、中間領域。この内でもあり、外でもあるという両義的な空間の魅力を現代建築(例えば福岡銀行本店のアーバンルーフ)で具現化した。

都市も建築も生物のように新陳代謝すべきというメタボリズムの理念を中銀カプセルタワーという具体的な建築で示した。

私は黒川さんの建築には槇さんや谷口さんの建築程の美を感じない。でも、共生の思想を具現化した建築は説得力をもって迫ってくるし、実に魅力的だ。やはりデザインには理由が、そしてその背景に思想がなければならないのだ。