■ 松本清張短編全集全11巻を読んできたが、あと1巻『青のある断層』を残すのみとなった。
この巻に収録されている推理小説研究家・山前 譲氏の「松本清張と人生」には松本清張が19歳の時に印刷所の見習いになり、広告図案に興味を覚えたこと。1940年(昭和15年)に朝日新聞小倉支社の広告部の嘱託となり、2年後に正社員となったこと。デザイン関係の展覧会を愉しんでいたことなども記されている。
松本清張は今でいうグラフィックデザインに興味があったのだ。作品のタイトルにもこのことが表れていて色や幾何学的な用語をタイトルにしたものが少なくない。本巻のタイトルには「青」がついているし、この作品は画家、というか画業がテーマだ。若い人妻に思慕する参謀長と軍医が相争うという、本巻収録作品のタイトルは「赤いくじ」。
「黒い樹海」「黒の回廊」「黒い福音」「黒革の手帖」など、清張のイメージカラーとも言われる「黒」がタイトルに使われている作品は多い。「蒼ざめた礼服」「黄色い風土」「赤い氷河期」「白と黒の革命」「白い闇」等、色がタイトルに使われている作品が挙がる。
清張の代表作の「点と線」過去ログ 「ゼロの焦点」過去ログ をはじめ「球形の荒野」過去ログ 「渦」「偶数」などは幾何学的なタイトルだ。「蒼い描点」や「虚線の下絵」というタイトルはデザイン的だし、ずばり「空白の意匠」というタイトルの作品もある。
関心事は意識しないでも表に出てしまうものなのかもしれない。尚、松本清張はスケッチも上手かったし、写真も上手かった。