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■ 『デジタル化する新興国』伊藤亜聖(中公新書2020年)を読む。
**デジタル技術による社会変革は、新興国・途上国の可能性と脆弱性をそれぞれ増幅する**(46頁)ということを中国やインド、東南アジア諸国、アフリカ諸国の実情を示しながら論考する。
デジタル技術に関する新興国の状況について著者は「後発性の優位」ゆえ、新しい技術の導入が先進国より先行する「飛び越え型」の発展が生じ始めていると指摘。この点について示されている具体的な事例には驚くばかり。例えば、南アフリカにはドローンの空撮映像を活用して柑橘類やナッツ、チェリーなど果樹園のそれぞれの木の生育状況を農家に提供する会社があり、農家は専用アプリで生育状況をリアルタイムで把握し、害虫対策や肥料の投入量の判断に活用しているという。「精密農業」の実践だ。
デジタル技術の負の側面、脆弱性については、**自動化による失業の可能性や、政治的権利が制限された国々における監視社会化、そして報道機関と市民社会が弱い国々におけるフェイクニュースの蔓延である。**(202頁)と指摘している。
最終第6章で著者は新興国デジタル化の潮流の中で日本が果たすべき役割について論じている。
工業化の時代には先進工業国・日本として貢献してきたが、新興国がデジタル化する時代の日本は役割が不明瞭であり、問題とも指摘しつつ、示される結論は教科書的というか、常識的。日本を新興国の共創パートナーと位置づけ、デジタル技術の可能性を共に広げ、共に実現すること、脆弱性が深まらないような取り組みの実践。