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■ 『神々の消えた土地』(新潮社1992年)を再読した。時は終戦直前、昭和20年の1月から9月。舞台は東京と信州松本。
昭和20年の1月の下旬に松高を受験して合格した私は、初夏になって信州松本に列車で向かう。**塩尻の駅を過ぎると、西の窓に忘れることのできぬ北アルプス連峰が遥かに連なっているのを、係恋の情を抱いて私は望見した。黒い谿間の彼方に聳える全身真白な乗鞍岳は、あたかもあえかな女神が裸体を露わにしているかのようであった。**(84頁)そして思誠寮(*1)で生活し始める。
松高を受験する直前、麻布中(旧制)の生徒だった私は東洋英和女学校の生徒、知子と知り合う。戦争が激しくなって知子は甲府に疎開。知子から松本高校思誠寮気付として私に手紙が届く。その後ふたりは松本で再会し、知子の希望通り美ヶ原に登る。そしてそこでふたりは結ばれる、「ダフニスとクロエ―」のように・・・。
知子は7月8日に同じ汽車でまた松本に来ると約束して甲府に帰っていった。その日、松本駅でいくら待っても知子の姿は現れなかった。ようやく手に入れた切符で1週間後に甲府に出かけた私が見たのは、7月6日から7日にかけての空襲で焦土と化した街だった・・・。
今朝(21日)、朝カフェで読み終えた時、悲しくて涙が出た。
北 杜夫のファンでよかったな、と思う。
*1「どくとるマンボウ青春記」の舞台となった学生寮