透明タペストリー

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「リボルバー」を読む

2023-12-09 | A 読書日記

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スクロール操作を考えるとこんな写真もありかなと思う(ないか)。

 師走、12月。今週は朝カフェ読書、巣ごもり読書。で、先日丸善で買い求めた6冊の本を読み終えてしまった。

『リボルバー』原田マハ(幻冬舎文庫2023年)。この本の帯に**「ゴッホの死」。アート史上最大の謎に迫る、著者渾身の傑作ミステリ。**とある。ピストル自殺したゴッホの死に謎があるのか。知らなかった・・・。

ネットで調べて、ゴッホの死は一般には自殺とされているが、他殺説もあることを知った。原田マハさんは両説の間に上手く入りこむストーリーをつくった。

物語の主人公はパリの小規模なオークション会社で働く高遠 冴。パリ大学で美術史を研究して修士号を取得、〈ポスト印象主義における芸術的交流:ファン・ゴッホとゴーギャンを中心に〉というテーマで博士論文に挑戦するつもりの女性だと紹介されている(18頁)。

美術史を研究し、キュレーターの経験もある原田さんだからこそできる設定だろう。既に読んだアート小説にもこの小説にも原田さんの美術史に関する知識が活かされているし、また、本作でゴッホの〈ひまわり〉を15本のひまわりではなく、15人の個性的な人に見立てて、笑い、歌い、喜び、くつろぎ、・・・と評するなど絵画の鑑賞眼も発揮されている(*1)。

この小説に出てくる作品をネットで画象検索しながら読み進めた。ゴッホの〈鳥の飛ぶ麦畑〉って、こんな絵なんだ。ゴーギャンの「黄色いキリスト」ってこの絵か・・・、というように。

**「すみません。・・・・・・あの、ちょっと見ていただきたいものがあって・・・・・・」**(36頁)

冴の働くオークション会社を訪ねてきた50代と思しき女性がトートバックの中から取り出した紙袋、その中から出てきたのは錆びついた一丁のリボルバー(拳銃)だった・・・。ここからゴッホの死を巡って、虚実織り交ぜたストーリーが展開していくけれど、それが実に上手い。

**「作り話もたいがいにしてくださいよ、社長。それをやっていいのは小説家くらいですから」**(146頁)などと冴に言わせるあたり、原田さん自身が愉しんでいることが分かる。

物語のあらすじの紹介はしない。ゴッホの死の場面が終盤に出てくる。そうか、これが真相なんだ、と思わせるリアリティ。えっ! 他の作品と同様、ラストには驚かされた。


*1 『デトロイト美術館の奇跡』ではセザンヌの〈マダム・セザンヌ(画家の婦人)〉が重要な意味というか役割を持って出てくるけれど、原田さんはこの絵の鑑賞文に1頁割いている。