■ 北 杜夫の『ぼくのおじさん』(新潮文庫1981年)を読んだ。この本を1981年の6月7日に、当時住んでいた国立にあった東西書店(*1)で買い求めて読んだことが奥付に書いたメモで分かる。
この本には9作の児童文学、童話が収録されているが、表題作の「ぼくのおじさん」が最も長く、厚さがおよそ1cmの本の半分以上を占めている。
ぼくの名前は雪男(ゆきおとこ、じゃない)。ぼくにはおじさんがいる。おじさんはぼくのおとうさんの弟で、ぼくの家に居候している。おじさんは万年床でたいていこどもマンガを読んでいる。でもおじさんはなんと学校の先生、それも大学の、臨時講師だけど・・・。
ぼくの友だちのあるおじさんは宿題を教えてくれるし、あるおじさんは動物園へ連れていってくれる、あるおじさんはお小遣いをくれる。だけど、ぼくのおじさんは宿題はやってくれないし、動物園にも連れていってくれない。お小遣いだって自分がもらいたくてピイピイしている。野球の人数が足りないからおじさんに頼んだら、ピッチャー以外はゴメンだと言う。おじさんをピッチャーにしたところ1対38で負けてしまった。
学習雑誌社の作文コンテストでぼくの作文が二等になって、おじさんとハワイ旅行に行くことに。その頃おじさんは当選すれば外国旅行、という懸賞に応募していたが、ことごとく外れていたのだった。
おじさんは雑誌社の編集長と会ったとき、四か国語がペラペラしゃべれると言っていたのに、ハワイの税関では係官の質問に答えられずに、トランクを開けられてしまって、うめぼしのつつみやノリのカンをひっぱりだされて質問攻めにあう。おじさん大汗。
この後、ハワイでの出来事がユーモアたっぷりに描かれる。
おじさんはホテルの風呂の使い方をぼくに教えてくれたけれど、シャボンはたくさん使わなければ損だと言って、アワだらけになってアップアップ、立ち上がろうとしてすべってころんでしまったり、ぼくと別行動して警察にひっぱられてしまったり・・・。
読んでいると、ぼくがこのおじさんのことが好きだということが伝わってくる。作品に漂うほのぼの感が好い。
この小説は中学生向けに書かれた(*2)。北 杜夫はこのことを踏まえ、ぼくがハワイで知り合った日系三世のヘンリー・佐藤君のおとうさんの話を受けて次のように書く。**どんなにきたなく、戦争に負けた国であっても、そこはぼくが生まれた国にはちがいない。それをよくするのもわるくするのも、みんなぼくたちの生き方によるのではなかろうか。**(131頁)
さらに「ぼくのおじさん」の「あとがき」にも**世界は、いろんな国がそれぞれに協力して、よい世界にならねばなりません。自分の国の都合だけ考えていてはいけません。みなさんも、日本の国のことをまず知り勉強するとともに、日本と世界との関係ということも学んでいってください。そうすることが、世界をよりよくすることだと思います。**(141頁)と書いている。
*1 ネット情報によるとこの書店は2015年の8月31日に閉店した。
*2 この小説は旺文社の「中二時代」に昭和37年5月号から連載が始まり、翌年「中三時代」の4月号で終った。
『ぼくのおじさん』は2016年に映画化された。DVDがあるだろうから、借りてきて観よう。