徒然草第52段の「仁和寺にある法師」の教訓は松本城にもあてはまる。
①
■ 現在、松本城の二の丸にある旧松本市立博物館の解体工事が行われている。工事に伴い、外堀南側の土橋に解体材の搬出などのための通路が確保されていて、松本城を訪れる観光客用の通路がかなり狭くなっている(写真①)。このため、この通路を通らず、本来のルートへ迂回することをすすめる案内板が設置されている(写真②)。
②
本来の登城ルート 太鼓門を通ってみませんか?
外堀南側の土橋は元々無く、大名小路(現在の大名町通り)から外堀東側の土橋へ。二の門を潜り、太鼓門(一の門)を抜けて二の丸へ入るのが本来の登城ルートだった(写真③)。
現在、ほとんどすべての観光客は大名町通りの北端の交差点まで進み、●からそのまま真っ直ぐ土橋(明治24,5年に造られた*1)を通って二の丸へ行く(写真①)。だが、写真③に赤いラインで示されている本来のアプローチをしないと空間構成がよく理解できないし、配置の意図、演出(*2)も分からない。
③
④
太鼓門二の門
⑤
太鼓門一の門(櫓門)
⑥
太鼓門桝形
外堀東側の土橋を通り、太鼓門桝形を構成する太鼓門二の門を潜り、太鼓門一の門(櫓門)へ。
⑦
太鼓門を通って、二の丸庭園に至る。これが本来の登城ルートだが、もともと無かった外堀南側の土橋がこのルートをショートカットしてしまっている。
⑧
土橋から黒門一の門を見る。門の奥、左側が券売所。
⑨
黒門櫓門
観光客は本来の登城ルートの魅力的なシークエンス(視点の連続的な移動に伴って変化するシーン。回遊式庭園はその実例)を味わうことなく、内堀の土橋を通り、黒門一の門(写真⑧)、券売所から黒門櫓門(写真⑨)を抜けて本丸へと移動する。全く以て、残念というほかない。
⑩
撮影日:2017.04.17 左下の太鼓門を通るのが本来の登城ルート 右側後方に常念岳他、北アルプスの峰々が見えている
さて、徒然草第52段の「仁和寺にある法師」。
仁和寺のある僧が年取るまで岩清水八幡宮を参拝したことがないことを残念に思っていた。ある日、徒歩で出かけた。だが、山の麓の付属の寺・極楽寺とその隣の社・高良を参拝しただけで、山の上にある肝心の岩清水八幡宮を参拝することなく帰ってきてしまった・・・。
松本城に行ったものの、太鼓門を通る本来の登城ルートの魅力的なシークエンスを味わうことなく、天守を観ただけで帰ってきてしまった・・・。
松本市では大正8年に埋め立てられた(*1)外堀の南・西側の復元事業を進めている。外堀を元の姿に戻すために。ならば、元々無かった土橋も撤去すべきではないか。そうすれば、皆、本来の登城ルートで天守に向かうことになるから、上記のようなことは起きようがない。それが、観光客に対する配慮、ということになるだろう。
*1『松本城のすべて』「松本城を世界遺産に」推進実行委員会 記念出版編集会議(信濃毎日新聞社)による。
*2『松本景観ルネッサンス』(2014年)で、著者の溝上哲朗さんは天守へのアプローチ動線の計画で、内堀の土橋まで来て、初めて常念岳、北アルプスの景観を目にすることができるという演出をしているということを説いている。実に説得力のある論だ。
**その光景は本丸御殿にあと一歩までまでたどり着いたものへの最後のサプライズだったのである。**(16頁) 過去ログ