「真木柱 思いも寄らない結末」
■ 玉鬘は鬚黒の大将の手に落ちた。鬚黒は玉鬘がいやだなぁって思っていた男。玉鬘は情けない運命だった・・・、と嘆くばかり。光君は女君をきっぱり忘れることができない。大将がいない昼頃、光君は女君の部屋に行く。そこで**おりたちて汲みは見ねどもわたり川人の瀬とはた契らざりしを**と詠む。**(あなたとは立ち入って親しい仲になれなかったけれど、あなたが三途の川を渡る時、私以外の男に背負われて渡るとは約束しなかったのに)** それに対して**みつせ川わたらぬさきにいかでなほ涙のみをの泡ときえなむ**と返す。この歌の意味も本文から引く。**(三途の川を渡る前に、どうにかして、涙の川の流れの泡となって消えてしまいたい)** 自分の境遇を嘆き悲しんで詠んだ歌。光君へのその場限りの返歌、ではないと思う。かわいそうな玉鬘。 彼女はこの先どうなるのだろう・・・。
(鬚黒・・・、どこかで聞いたことがあるような名前だなぁ。「ひょっこりひょうたん島」に登場していたキャラ、あれはトラヒゲか。)
鬚黒には北の方という奥さんがいるけれど、長年物の怪に取り憑かれている。ふたりの間には3人の子どもがいる(男の子ふたりと女の子がひとり)。ある夜、玉鬘のところに出かけようとする鬚黒の身支度を手伝っていた北の方・・・、**がばりと起き上がり大きな伏籠(ふせご)の下から香炉を取って大将の背後にまわり、ぱっと灰を浴びせかけた。何が起きたのかわからないほどの一瞬のことで、大将は驚きのあまり茫然としている。**(198,9頁) 鬚黒灰だらけ、この帖の印象的な出来事。
この後、鬚黒は北の方には近寄ろうともしない。北の方の父親(式部卿宮)は娘と孫を引き取る。娘は邸を去るとき、**今はとて宿かれぬとも馴れ来つる真木の柱はわれを忘るな**と悲しむ。この娘(こ)は小学6年生くらいだけれど、歌を詠む。真木は檜(ひのき)かな、檜柱さん、私のこと忘れないでね。詠む歌もかわいらしい。歌を檜皮色の紙に書いた姫君は柱のひび割れたところに笄(こうがい)の先で押し込む。
鬚黒は息子ふたりだけ連れ戻す。鬚黒は落ち込んでいる玉鬘を慰めるために内侍として宮中入りを許す。冷泉帝がさっそく玉鬘の部屋を訪ねる。玉鬘は**このままでは、あってはならぬことも起きかねない身の上なのだ、と情けなく思っている(後略)**(212頁)大将も心配になって、早々と退出を願い出し、自邸に連れて帰る。その際、玉鬘が帝に宛てて読んだ歌。**かばかりは風にもつてよ花の枝(え)に立ち並ぶべきにほひなくとも** 何回も書くけれど、玉鬘は理知的な女性だ。鬚黒の息子たちは玉鬘によくなつく。11月にはかわいらしい男の子が生まれる。
この帖の最後に紫式部は唐突に近江の君(過去ログ)のことを書く。**そういえば、内大臣が引き取った近江の君を覚えていますか。**(221頁)今後の展開に必要なのだろうか。近江の君は夕霧に恋して、歌を詠むが、夕霧は返歌できっちり断る。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋