よほど僕は、先週末の『元弟子』との飲み会が嬉しかったんでしょうね。
昨日も書いたとおり、何処か『憑きもの』が落ちたような気持ち。
そんな訳で、ちょっと書きたい事が出て来ちゃった。
先週末の『元弟子』との飲み会で、
『挨拶をしない人間は、礼儀も知らない』という話題になった。
そう言えば、前の部署で一人だけ残念な人間がいた。
とある国のプロジェクトを担当していた前任者が、仕事に万歳して退職し、
放り出された装置を僕が引き継ぐ事になって、ゼロからやり直して2年。
前任者から通算すると6年が経過していた装置開発にも、
やっと性能らしき物が出始めて、いよいよ東北大学へ納入と云う時期が来た。
その装置を最初から担当していた、僕より20歳年下の若者。
僕が引きついでから、その彼とマンツーマンで装置開発をして来た。
タダでさえ遅れているため、毎日遅くまで仕事をして、僕は追い上げに必死だった。
当然、帰りが12時を回る事が当たり前になって、終電の時間を気にしての毎日。
そんな訳で、仕事の切りが悪い所で中断する事が何度も有ったので、
僕が自家用車の通勤に切り替え、キリの良い所まで仕事をしてから、
帰りは飯を食わせながら、話をして、彼のアパートまで送って帰る毎日になった。
ところがある時、この男が反旗を翻した。
僕には全く理由が判らなかったのだけれど、一つ思い当たるとしたら
その男に『嘘』をついた事だろう。
その装置が、東北大学に出荷される直前に、その性能確認のために
東北大学から研究者が来て、装置でデーターを取り始めた。
専門的な話になるが『エネルギーシフト』と云う機能が有って、
具体的には装置の加速電圧200KV(20万)ボルトの電源電圧を、数ボルト可変する作業。
一見簡単そうだが、約10Vではなく10Vぴったりにする事は簡単じゃない。
電子顕微鏡は、物理現象でそう云った誤魔化しが利かない。
その時に担当者の彼が基準となる200KVをキチンと合せて居ない事を思い出した。
仕事をしながら『大体で良いんです』なんて言っていたからね。
ところが、そのいい加減な調整が、その時にネックになった。
研究者に『10V可変の設定をしたのに、移動量が小さい』と言われた。
それで担当者に変更してくれと頼まれたのだが、その時に僕は
『簡単には出来ない。やるんだったら2週間はかかる』
と答えたのでした。
コンピューターで1ステップ5V。20万ボルトを出すのに4万ポイント。
これでキチンと『物差し』を校正しておくのが常識だった。
調べてみたら、実際の電圧は数キロボルト低かった。
大きな問題にはならないのだけれど、そう云った作業をした時に目立ってしまう。
そして、学会に出すデータに200kVと書いてあるので、僕はその事を研究者に言えなかった。
それよりも、その事で担当者が信用を失うんじゃないかって言う心配の方が大きかった。
それで、僕は丸1日装置を借りて、可変幅の誤差を何度も検証して
誤差分を計算して、何処に改造を入れるべきかを机上で計算した。
そして、その翌日に改造を入れて、研究者に確認して貰った。
結果は良好。2週間かかると言った作業を2日で終わらせた。
ところがこれが担当者は気に入らなかった。
『貴方は2日で出来る仕事を2週間と言ったので、研究者にそう伝えた。』
と言われ、以前にもそう云う事が有ったので信用できないとも言われ、
それ以来、彼の僕に対する態度が急激に悪くなった。
自分が嘘をついたように思われるのが嫌だったのか?それは今も判らない。
とは言え、険悪な関係ながら納入も二人で行って、
半年かけて何とか性能を出して終えたのでした。
先に帰京して居た僕は、その結果が出るのをずっと待っていた。
すでに彼も出張から帰っていたにも関わらず、一向に報告が無いので、
本人に問い合わせたら、もう報告書は出してある・・・・と、言われた。
恩を売るわけじゃないけれど、せめて報告書を出す前に教えて欲しかったし、
『お疲れ様』の一言が有っても良かったんじゃないかと思った。
これほど『礼儀』も知らない人に遭遇するのは初めての事だったし、
仕事で空しい気持ちになったのは、後にも先にもこの時だけ。
先週の弟子と違って、この彼とは和解とかは無いでしょう。
恩を仇で返すような人間に、こちらから歩み寄る理由は有りません。
そんな事が有ったから、余計に先週の『元弟子』との事が嬉しかったのです。