映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「孤狼の血 LEVEL2」 白石和彌&鈴木亮平&村上虹郎

2021-08-22 17:46:40 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「孤狼の血レベル2」を映画館で観てきました。


孤狼の血level2は好評だった前作に引き続き白石和彌監督による続編である。日本の映画界で常に一定レベル以上の作品を供給する貴重な存在の白石和彌だけに期待して映画館に向かう。深作欣二、笠原和夫コンビが産んだ傑作県警対組織暴力に心酔しているという柚月裕子が書いた原作に基づき、前作孤狼の血役所広司演じる不良刑事を映画に放ち、われわれを楽しませてくれた。傑作だと思う。第2作目は平成3年(1991年)の広島を舞台にしたオリジナルのシナリオである。

今回は鈴木亮平演じる新しい凶暴な狂犬が映画に放たれる。それだけで一定以上のレベルは確保する。でも、ちょっと脂っこいかな?食材がいい焼肉屋で、おいしいけど胃が疲れているときに脂がギトギトしたものをもう一度食べるような感じのしつこさでちょっと疲れた経済学の限界効用低減の法則のように一作目ほどの良さは感じない。でも、これは主役松坂桃李の存在の弱さによるかもしれない。


昭和63年(1988年)が舞台だった前作から3年経った。広島では大きな抗争も減っていた。呉原東警察の刑事日岡(松坂桃李)は裏社会にも影響力を持っていた。そんなとき、五十子会の元幹部上林(鈴木亮平)が刑務所を出所してきた。いきなり、出所後刑務所時代に自分をいたぶった刑務官の親族を残忍なやり方で殺した。県警は特別本部を作るが、手が出せなかった。

勢いがついた上林は仁政会の幹部にケンカを売り、五十子会2代目の角谷(寺島進)を痛めつけ自らの地位を高めていく。一方で日岡は旧知のチンピラ幸太(村上虹郎)を上林組にスパイとして侵入させて、組織を錯乱させようとするのであるが。。。

⒈鈴木亮平
実質主演というべき存在で大暴れである。あえて模範囚として、刑務所を出所することになるが、最も危険な人物を町に泳がして裏社会をムチャクチャにする。いきなり、刑務官の家族宅に押し入り目をくり抜く。鈴木亮平は身長186cmで体格もいい。暴れ回ると迫力がある。この映画は鈴木亮平のための映画と言ってもいい。


「仁義なき戦い」が大ヒットした後の2作目で深作欣二、笠原和夫コンビはテキヤ筋の極道、千葉真一演じる大友という狂犬を映画に放つ。まあ、大友のハチャメチャぶりは映画史上でも屈指である。「孤狼の血」の好評で2作目を作るにあたり、白石和彌が千葉真一を意識したのは間違いない。映画は主人公に対峙する悪役も強くないとバランスがとれない。そういった意味では成功なんだろう。

寺島進、宇梶剛士といったヤクザ映画の常連強面を痛ぶり、吉田剛太郎を怯えさすそのパフォーマンスで今後の俳優としての存在感を持てるようになったのは鈴木亮平にとっては大きい。ただ、今後続編を考慮に入れるなら、エンディングに向けての結末は正解ではない


⒉松坂桃李
元々ははぐれ刑事役所広司演じる大上のもとで刑事稼業を学ぼうとしていたのが第1作である。刑事映画は黒澤明の「野良犬」の志村喬と三船敏郎、もっとアバズレで言うと「トレーニングデイ」のデンゼルワシントンとイーサンホンクというように未熟者と熟達者の対比を見せるのが常道である。まさに1作目はそんな関係だった。


まず、たった3年で裏社会に睨みをきかすことができるのかな?という疑問がある。あとは、主役としての有能さがストーリーに見えないのが実に弱いところだ。裏社会の方々に手を打っているつもりだが、うまくいかない。頭が悪い。逆に鈴木亮平は刑事の悪だくみを見抜く。頭がいい。村上虹郎演じるチンピラを大暴れする上林組に潜入させるが、相手に見透かされてしまう。この作品にもう一歩乗れないのは松坂自身の問題ではないが、主役の弱さもある気がする。

⒊村上虹郎
少年の輝きを持った河瀬直美監督の「2つ目の窓からまだ7年しか経っていない。個人的には出演する作品と相性がいい。前作ソワレもいい。ようやく映画界で存在感を示せるようになったときのこの役柄である。


架空の街呉原市のラウンジのママの弟で、日岡刑事に頼まれて上林組に潜入するチンピラだ。時おり、日岡とコッソリ会って情報を与えているが、所詮は下っ端のチンピラ、警察とヤクザの両方にいいように利用される悲しい役柄である。見ていて切なくなる。「仁義なき戦い」で言えば、川谷拓三のようなものだ。でも、この役演じて役者としての村上虹郎の今後に期待できる気がした。ある意味、松坂桃李と対照的である。

⒋女性陣の弱さ
この映画で弱いのは女性の存在感だと思う。その昔「極道の妻たち」でダイナマイトボディで活躍したかたせ梨乃を久々登場させたけど、60すぎたかたせには女盛り当時の片鱗は感じられない。あとの女性陣は小者ばかりである。


「仁義なき戦い」2作目では千葉真一という粗暴な野獣を放つと同時に、梶芽衣子と北大路欣也の哀愁の恋にもポイントをあてた。女性の関わりが少なすぎると映画として弱いのではないか。

白石和彌監督作品だけに当然レベルは高いけど、もう一歩と感じさせるのはそんなところか。
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映画「ドライブマイカー」 西島秀俊&濱口竜介&村上春樹

2021-08-22 06:46:28 | 映画(日本 2019年以降主演男性)
映画「ドライブマイカー」を映画館でみてきました。


おお!こう来るか、そんな場面に魅せられる。

「ドライブマイカー」村上春樹の短編集「女のいない男たち」の中にある同題作品が原作である。濱口竜介監督が脚本演出する。題名「ドライブマイカー」はビートルズ「ラバーソウル」の一曲目。この短編集は2014年発売とともに読んでいて、個人的にシェエラザード」と「木野」が自分のテイストに合う。「シェエラザード」の感想は7年前ブログにもアップした。題名を聞いたとき、「ドライブマイカー」のあらすじをすっかり忘れていたのに気づく。

東出昌大と唐田えりかの不倫話で別の意味で有名になったけど、濱口竜介監督の前作「寝ても覚めてもには強い衝撃を受けた。ヒッチコックの「めまい」のような展開かと思ったら、あっと驚く逆転場面を用意する。好き嫌いが激しい蓮實重彦寝ても覚めても」と唐田えりかを絶賛する。元東大総長のインテリじいさんには世間のゴシップ話は一切関係ないようだ。

主人公の舞台俳優、女性運転手、俳優の元妻、元妻が関係を持った青年と主要4人で成り立つストーリーである。妻(霧島れいか)に先立たれてひとりになった舞台俳優家福(西島秀俊)が、チェーホフ作の舞台演出を依頼され、広島に向かう。現地での移動には女性ドライバーみさき(三浦透子)をつけてくれた。演劇には亡き妻と関係があった若手俳優高槻(岡田将生)がオーディションを受け加わる。亡き妻をめぐっての高槻との心の葛藤を持ちながら舞台稽古を進めていくという話である。

原作のベース設定は変わらないが、濱口竜介監督短編では触れていないストーリーを加える。原作は自分を愛してくれていた元妻がなぜ他の男と寝ていたのかという謎を探る要素があり主人公へのスポットが強くあたっている。確かにそれもあるが、ドライバーと元妻が関係を持った青年の存在感を拡張する。これはこれで悪くはない。


映画を見る前は、3時間というのも随分と長いなあ、チェーホフの「ヴァーニャ伯父」の演劇の場面が多いのかな?と思っていた。でも話の広がりに興味が持て、思ったよりも時間を長く感じない

カンヌ映画祭で脚本賞と聞いたときは村上春樹の原作短篇もあるので「何で?脚色賞でないの?」と思った。でも、こうやって見終わると、短篇小説で描かれていない「ないもの」を想像して脚本化を進め、映像でわれわれに見せてくれる濱口竜介監督の巧みな手腕に感服する。

⒈シェエラザード
映画の解説に「ドライブマイカー」に加えて、「女のいない男たち」から「シェエラザード」と「木野」からもエッセンスを引き出していると書いてある。自分なりに映画でどう使われるか推測していたが、映画が始まってすぐ「シェエラザード」の中の空き巣に入る話を主人公家福の妻がベッドで語っている。そのシーンが出てきて自分はハズレと気づく。女性ドライバーが語ると推測していた。「木野」については1か所だけかな?

原作では、戦前の日本共産党にいた女性給仕ハウスキーパーのような存在の女がアラビアンナイトの「シェエラザード」の如く語り役になる。高校時代に好きな男の子の留守中の家に忍び入って引き出しを覗いたりした昔話を語っていくのだ。この空き巣感覚は、映画でいうと、香港映画「恋する惑星」やキムギドクの「うつせみを想像するような話だ。


元妻音の語りを聞き、そうか、こういうところで使われるんだ。と思っていたら、それだけでは終わらなかった。ベッドで語るその話は夫にだけ話しているわけではなかったのだ。ここからは濱口監督の脚本が冴える。想像を超えるある解釈を聞いて、背筋がぞくぞくした。しかも、岡田将生の語りがいい。濱口監督の前作寝ても覚めても」で唐田えりか演じるヒロインが予想外の行動をするのを見るときのドキドキと同じような驚きを自分は感じた。

⒉広島と瀬戸内海
主人公家福が演出する演劇を広島で公演する。それに伴い広島に2ヶ月ほど滞在するのだ。期間中はしまなみ海道で瀬戸内海を渡ったところにある島に滞在する。移動する車でセリフを聞いている。泊まる旅館から眺める景色は絶景で、海岸沿いを走る赤いサーブを高所から俯瞰して撮る映像コンテも美しい


ドライバーは稽古場と島を往復する。市内の島が見える海辺で主人公とドライバーがたたずむ高いアングルからのショットも自分にはよく見えた。当然、原作とは無縁の場所でロケハンには成功している。


⒊演劇の場面
家福が演出を受け持つ演劇は、ちょっと変わっていて、さまざまな人種の役者がそれぞれ母国語で演じるのだ。演劇に詳しくない自分はこんな劇あったんだ。そんな感じである。家福と一緒にコーディネートするプロデューサーが韓国人で、中国、アジア系も含め色んな人種の人がいる。聞くことはできるが、話は出来ず手話で演じる韓国人女性もいる。映画の配役リストを見て外国人が多いなあと思っていたけど、そういうことだ。


この場面については好き嫌いあるかもしれない。韓国人プロデューサーに関する逸話とか、もう少し縮められても良かった気もする。村上春樹作品は同じく短篇を基にした「バーニング」が韓国で製作されている。きっと「ドライブマイカー」も韓国でも公開予定なのかもしれない。

⒋ドライバー
淡々と運転をこなす寡黙な女性ドライバーである。逸話が増えて存在感は原作より増している。北海道の小さい町の出身で23歳、喫煙者だ。実質母はシングルマザーで苦労して育つ。演劇の主催者側から、移動には必ず運転手をつけてくれと言われ、いったん主人公は拒否する。でも、安心して運転を任せられるとわかる。事情があって、中学生から車を運転していたので、年の割には運転歴は長い。


「おそらくどのような見地から見ても美人とはいえなかった。ひどく素っ気ない顔をしている」原作ではこうなっている。村上春樹はこういう感じで容姿を表現することが多い。もともと絶世の美女が出てくることはほとんどないし、少なくとも「女のいない男たち」に出てくる女性は美しくない。三浦透子は適役かもしれない。田畑智子にも似ている。彼女のプロフィールを見ると、自分が観ている映画が多い。え!そうだったんだという気分だ。チャラチャラしたところのないこういう感じの女の子って職場にはたまにいる。この映画の三浦透子に好感を覚える。

彼女が運転している場面で、すべての音が消えてしまうシーンがある。「ゼログラビティ」でも宇宙空間でのシーンで突然音が消えたのを思い出す。映画館の中が静寂に包まれる。別世界にいるみたいで、すごくいい瞬間だった。

でも、最後のワンシーンこれってどう解釈するんだろう?わからない。
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