
「 津島祭礼図屏風 」「 綴プロジェクト 」高精細複製品より
「 津島祭礼図屏風 」( 大英博物館蔵 )
「 綴プロジェクト 」高精細複製品より 「朝祭り 」の場面 。
天王川に浮かべた船の中でケンカが …… 。
江戸初期 京都の屏風絵に同じような図柄が……。
私は先日、京都国立博物館で開催中の 「 一遍聖絵と時宗の名宝 」展で公開された
「 洛中洛外図 屏風 」を見てきました 。
京都の市内、郊外をフカン的に描いた屏風で、この種の屏風は海外も含めて100点余
も現存しているということですが、今回、展示されたのは、仏教大学蔵と国宝指定の
舟木本 ( 東京国立博物館蔵 )の二点 。
いずれも、江戸時代初頭 ( 17世紀 )の作品 。特に滋賀県長浜市の医師、舟木家に伝来
した「 洛中洛外図屏風 」は、「 舟木本 」と呼ばれ、人物描写、風俗表現など見事で
いつまで見入ってしまいました
岩佐又兵衛作といわれる舟木本 ( 平成12年 国宝 指定 )は、独特の手法で人物などを
生き生きと描写しています。
この「 洛中洛外図屏風 」の他に近世初期祭礼図 ( 「祇園祭礼図 」「 日吉山王祭礼図 」
など )の図録も見てみました 。
これらは、いずれも都を中心にした名所や生活風俗を描いていますが、それらをお手本
に「 津島祭礼図屏風 」は描かれているのでは、と思われるからです。
「津島祭礼図屏風 」と同時期、或はそれ以前の近世初期肉筆風俗画をできるだけ多く
見ることによって、両者に共通するところがないか 探ぐることにしました 。
しかし、この作業は容易なことではありません 。本物は個人蔵のものはもちろん、
美術館蔵でも見られる機会が限定されます 。
図録を載せた美術書も、どこの図書館でもあるというわけにはいきません 。
こうした制約の中で、一応 私なりに調べた結果は以下の通りです 。
数ある 「 洛中洛外図屏風 」のいずれにも京都をフカンした画面に賀茂川が細長く
描かれていますが、そこで何か催しが行われているわけではありません 。
これに対して、「 日吉山王祭礼図 」の方は、どれも琵琶湖に七基の神輿 ( みこし )を
七隻の船に乗せて、浮かんでいる様子が描かれています 。
ここでは、琵琶湖はまるで細長い川のようで、図柄は 「 津島祭礼図屏風 」に共通する
ところがあります 。
アメリカの美術史家 ロバート シンガー氏の論文 「 祭礼風俗図について 〜 津島祭礼図を
中心に 〜 」に 「津島祭礼図屏風 」の中の大英博物館蔵を含む二点に「人物のモチーフ
に金地院本 日吉祭礼図と一致するものが見出されることから、少なくとも図の成立当初
において中央の祭礼を扱った図と同一の環境にあったと考えられる 。」とあります 。
先日、南禅寺の名刹 金地院 ( こんちいん )に行ってみましたが、すでにこのお寺には
なく、今は大阪市立美術館にあるとのこと 。公開されるのは稀とあって、この屏風絵が
載っている図録を探していたところ、近くの図書館で見つかりました 。
「近世風俗図譜 第八巻 祭礼 ( 一 )」( 小学館 1982 刊 ) に船の上でケンカするシーンが
ありますが、これとそっくりの場面が大英博物館蔵の 「津島祭礼図屏風 」にありました 。
また、見物人に丸顔が多いのも似ています。
シンガー氏が 「中央の祭礼を扱った図と同一の環境 」と言っているように、初期風俗肉筆
風俗画の影響下にあった江戸初期に京都の町絵師グループが制作に当たったという見方が
有力です 。 つづく

「 津島祭礼図屏風 」
( 大英博物館蔵 )より
「 日吉祭礼図 」
京都、金地院 ( こんちいん )蔵
筆者 鉛筆によるスケッチ