![]() | 月と六ペンス (岩波文庫)モーム,行方 昭夫岩波書店このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
◆出版社からの内容紹介◆
平凡な中年の株屋ストリックランドは、妻子を捨ててパリへ出、芸術的創造欲のために友人の愛妻を奪った挙句、女を自殺させ、タヒチに逃れる。ここで彼は土人の女と同棲し、宿病と戦いながら人間の魂を根底からゆすぶる壮麗な大壁画を完成したのち、火を放つ。ゴーギャンの伝記に暗示を得て、芸術にとりつかれた天災の苦悩を描き、人間の通俗性の奥にある不可解性を追求した力作。
◆著者◆
(1874年~1965年1)イギリスの劇作家、小説家である。1930年代には執筆料の最も高い作家といわれた。
イギリス人の両親のもと、フランス・パリで生まれ、その後イギリスへ転居。
当初医者を目指したが、その後劇作家として成功し、心理小説、スパイ小説などを多く書いた。
第一次世界大戦中はイギリス「MI6」で諜報部員として勤務、ロシア革命阻止のためにロシアへ送り込まれた。
ハワイ、サモアなど南太平洋の島々、日本及び東南アジアの国々、メキシコを訪れていて、それぞれの土地を題材にした小説も多い。
シンガポールのラッフルズ・ホテルを「ラッフルズ、その名は東洋の神秘に彩られている」と絶賛し、長期滞在したことでも有名。
同じくタイの首都であるバンコクにあるザ・オリエンタル・バンコクを高く評価し、後に長期滞在しており、現在、同ホテルにはモームの名を冠したスイートルームがある。
【読んだ理由】
「読んでおきたい世界の名著」(三浦朱門編)を読んで。
【印象に残った一行】
『そりゃ俺だって男さ、だから、ときどき女が欲しくはなる。だが、一度肉欲が充たされてしまえば、俺はもうすぐ他のことを考えている、俺は、自分の肉欲には勝てない人間なんだ。だが、肉欲を憎んでいる。肉欲という奴は、俺の精神を押し込めてしまうんだ。あらゆる欲情から自由になった自分、そして何の妨げもなく、一切をあげて仕事に没頭できる日の自分、俺は、どんなにその日を待ち望んでいることか。女という奴は、恋愛する以外になにひとつ能がない。だからこそ奴等は、恋愛というものを、途方もない高みに祭り上げてしまう。まるで人生のすべてであるかのようなことを云いやがる。事実は、なに鼻糞ほどの一部分にしかすぎないのだ。肉欲というものは、俺も知っている。正常で、健康なものだ。だが、恋愛というものは、あれは病気さ。女という奴は、俺の快楽の道具にしきゃすぎないんだ。それが、やれ協力者だの、半身だの、人生の伴侶だのと云い出すから、俺は我慢できないんだ』
【コメント】
解説によれば、「月と六ペンス」という題名は。スタンダールの「赤と黒」の如き象徴的意味をもつもので、「月」は、人間をある意味での狂気に導く芸術的創造情熱指すものであり、「六ペンス」は、下らない世俗的因習、絆などを指しているらしい。
この小説には「芸術的創造情熱」と「世俗的因習、絆」との葛藤が一人の男の壮絶な人生を通して描かれている。

