一茶 (文春文庫 ふ 1-2)藤沢 周平文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
◆出版社/著者からの内容紹介◆
生涯二万に及ぶ発句。一方遺産横領人という消しがたい汚名を残した男。
俳聖か風狂の人か、あるいは俗事にたけた世間師か。
稀代の俳諧師の複雑な貌を描き出す、著者渾身の力作長篇。
【読んだ理由】
藤沢 周平作品と一茶に興味があったから。
【印象に残った一行】
『一体に一茶は、瓦版の記事になるような出来事に、強く興味を惹かれるたちだった。火事があった。泥棒が入った。どこそこで心中があったという記事を聞き込むと、丹念に句帖の端に記した。のがさず書いた。
深夜ひそかにそういう記事をしたためながら、一茶の心を占めてくるのは、一種のやすらぎだった。不幸な事件の主人公たちの姿をあれこれと夢想し、おれだけがみじめなわけではないと思うことは楽しかった。
それに長い間不遇な暮らしを強いられ、日の目をみることなく四十を迎えた男が、まともな世間の躓きを確かめて抱く、邪悪な喜びだったのだが、一茶はその喜びの邪悪さに気づいていなかった。せっせと話を集めていた』
【コメント】
めでたさも 中くらいなり おらが春
やせ蛙 負けるな 一茶ここにあり
雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る
名月を 取ってくれろと 泣く子かな
我と来て 遊べや 親のない雀
これらの句の裏に隠された一茶の、三歳で実の母と死別、三男一女、晩婚の妻を亡くすなど、ある意味過酷かつ激しい人生を知ることが出来た。