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【原文】
城陸奥守泰盛は、双なき馬乗りなりけり。馬を引き出させけるに、足を揃へて閾をゆらりと越ゆるを見ては、「これは勇める馬なり」とて、鞍を置き換へさせけり。また、足を伸べて閾に蹴け当てぬれば、「これは鈍して、過ちあるべし」とて、乗らざりけり。
道を知らざらん人、かばかり恐れなんや。
【現代語訳】
安達泰盛は無双の名ジョッキーだった。厩舎から引かれる馬が障害物をひらりと飛び越えるのを見ると、「この馬は気性が荒い」と言って、鞍を他の馬に載せ換えた。また、脚を伸ばして障害物につまずく馬がいると、「この馬は運動神経が鈍い。事故が起こる」と言い、乗ることはなかった。
乗馬を知らない人は、ここまで用心しないだろう。
乗馬を知らない人は、ここまで用心しないだろう。
◆鎌倉末期の随筆。吉田兼好著。上下2巻,244段からなる。1317年(文保1)から1331年(元弘1)の間に成立したか。その間,幾つかのまとまった段が少しずつ執筆され,それが編集されて現在見るような形態になったと考えられる。それらを通じて一貫した筋はなく,連歌的ともいうべき配列方法がとられている。形式は《枕草子》を模倣しているが,内容は,作者の見聞談,感想,実用知識,有職の心得など多彩であり,仏教の厭世思想を根底にもち,人生論的色彩を濃くしている。