【内容】
ふとした不始末からごろつき侍にゆすられる身となった与之助が、思いを寄せていた娘から身を引き、ごろつきを斬って切腹するまでの心の様を描いた表題作。わがままで武術自慢の藩主の娘を、一介の藩士が無遠慮にこらしめる「奇縁無双」。維新戦争に赴いた恋人の帰りを40年間も待つ女心を哀切に謳った「春いくたび」。ほかに「一代恋娘」「友のためではない」など全13編を収める。
恋芙蓉、孤島、非常の剣、磔又七、武道宵節句、一代恋娘、奇縁無双、春いくたび、与之助の花、万太郎船、噴き上げる花、友のためではない、世間、
【著者】
山本周五郎 |
【読んだ理由】
山本周五郎作品。
【最も印象に残った一行】
春は足早に過ぎていった。
甲斐駒の峰々から残雪がすっかり消えると、朝毎の濃霧いつか間遠になり、やがて春霞が高原の夕を染めはじめた渓川の水は溢れるように嵩を増し畑の麦は日毎に伸びた。・・・辛夷が散り桃がさき、やがて桜も葉に変わる頃が来ると、高原はいっぺんに初夏の光と色と似包まれる、時鳥や郭公の声が朝から森に木魂し、溪谷の奥から野猿が下りて来る。
【コメント】
「春いくたび」のストリィーも胸打たれるが、季節の移ろいの描写も素晴らしい。
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