日本男道記

ある日本男子の生き様

阿倍仲麻呂 2

2024年11月19日 | 土佐日記


【原文】 
かの国人、聞き知るまじく、思ほえたれども、言の心を、男文字にさまを書き出だして、ここの言葉伝へたる人にいひ知らせければ、心をや聞き得たりけむ、いと思ひのほかになむ賞でける。唐土とこの国とは、言異なるものなれど、月のかげは同じことなるべければ、人の心もおなじことにやあらむ。
さて、今、そのかみを思ひやりて、ある人のよめる歌、
みやこにて山の端に見し月なれど波より出でて波にこそ入れ

【現代語訳
あちらの国の人々は、これを聞いてもわかるまいと思われたが、この歌の内容を漢字でおおよその様子を書き表して、こちらの言葉を習得している人(通訳)に説明したら、歌の心を理解することができたのだろうか。大変意外なことにこの歌を称賛したそうだ。唐と日本とは言葉は違うが、月の光は同じはずだから、人の心も同じなのだろう。
さて、今その昔を思いやって、ある人の詠んだ歌は、
みやこにて…
(都で山の稜線に出たり入ったりしているのを見た月だけど、ここでは波から出て波に入っていくのだよ)


◆『土佐日記』(とさにっき)は、平安時代に成立した日本最古の日記文学のひとつ。紀貫之が土佐国から京に帰る最中に起きた出来事を諧謔を交えて綴った内容を持つ。成立時期は未詳だが、承平5年(934年)後半といわれる。古くは『土左日記』と表記され、「とさの日記」と読んだ。 

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