【まくら】
別名を「大岡裁き」「大工裁き」「大工訴訟」などともいう。
奉行が裁く「政談物」あるいは「裁き物」の代表的な噺。
江戸時代では裁判のことを「公事(くじ)」という。
また、犯罪が起きて逮捕されて裁判することを「吟味筋」と言い、訴訟が起こって裁判することを「出入筋」と言った。
訴訟の場合は訴訟人が目安(訴状)を奉行書に提出する。
目安糺という係が、訴訟を受理するかどうか、書類を検討する。
受理することが決まったら、借金問題のような金のやりとりに関することなら、奉行所は書類に裏書きして、被告の住む町の町名主や村役人に渡す。
裏書きには、内済(和解)させるように、と書いてある。
そこで、名主や村役が間に入り和解にもちこめれば、裁判所に行かずにすむ。
和解できない時は裁判となる。
裁判では原告、被告が決められた日に出頭し、吟味を受ける。
そこで裁許(判決)が出て、支払いの日限が決まる。
金(かね)の時代である江戸時代は、このような公事が非常に多かった。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
神田小柳町に住む大工の与太郎。ぐずでのろまだが、腕はなかなか。老母と長屋暮らしの毎日だ。
ここのところ仕事に出てこない与太郎を案じた棟梁(とうりゅう)・政五郎が長屋までやって来ると、店賃(たなちん)のかたに道具箱を家主・源六に持っていかれてしまったとか。
仕事に行きたくても行けないわけ。四か月分、計一両八百文ためた店賃のうち、
一両だけ渡して与太郎に道具箱を取りに行かせる。
政五郎に
「八百ばかりはおんの字だ、あたぼうだ」と教えられた与太郎、うろおぼえのまま源六に「あたぼう」を振り回し、怒った源六に
「残り八百持ってくるまで道具箱は渡せない」と追い返される。
与太郎が
「だったら一両返せ」と言えば「これは内金にとっとく」と源六はこすい。
ことのなりゆきを聞いた政五郎、らちがあかないと判断。
与太郎とともに乗り込むが源六は強硬だ。
怒った政五郎は
「ものがわからねえから丸太ん棒てえんだ。つらァ見やがれ、この金隠しッ」と啖呵を切り、
「この度与太郎事、家主源六に二十日余り道具箱を召し上げられ、老いたる母、路頭に迷う」と奉行所へ訴えた。
お白州で、両者の申し立てを聞いた奉行は、与太郎に、政五郎から八百文を借り、すぐに源六に払うよう申し渡した。
源六は有頂天。またもお白州。
奉行が源六に尋ねた。
「一両八百のかたに道具箱を持っていったのなら、その方、質株はあるのか」
源六「質株、質株はないッ」
奉行「質株なくしてみだりに他人の物を預かることができるか。不届き至極の奴」
結局、質株を持たず道具箱をかたにとったとがで、源六は与太郎に二十日間の大工の手間賃として二百匁払うよう申しつけられてしまった。
奉行
「これ政五郎、一両八百のかたに日に十匁の手間とは、ちと儲かったようだなァ」
政五郎「へえ、大工は棟梁、調べをごろうじろ(細工はりゅうりゅう、仕上げをごろうじろ)」
出典:落語のあらすじ
【オチ・サゲ】
語呂落ち
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『江戸っ子は五月の鯉の吹流し 口先ばかりではらわたはなし』
『厳しくみえても脆き霰(あられ)かな』
『江戸の名物 武士・鰹・大名小路・広小路・茶店・紫・火消し・錦絵・火事に喧嘩に中腹・伊勢屋・稲荷に犬のクソ』
【語句豆辞典】
【勘当】親が子に対し、親子の縁を経つこと
【中っ原(ちゅうっぱら)】むかっ腹を立てる。心の中で怒ること。あるいはむっとしやすい性質。
【手付け】保証として支払う金額。
【取り上げ婆あ】産婆。
【叩き大工】腕の未熟な大工。金槌で叩くしか能がないという意味。
【番太郎】江戸の町々におかれた自身番にいた小使。火の用心見回りなどをした。
【質株】質屋の株。質屋を営業するには、営業権を証する株を必要とした。
【この噺を得意とした落語家】
・三代目 古今亭志ん朝
・五代目 柳家小さん
・五代目 古今亭志ん生
・十代目 柳家小三治
【落語豆知識】
【カゼ】扇子の事。