みんなの寅さん―「男はつらいよ」の世界 (朝日新聞社) ハードカバー
佐藤 忠男 (著)
「あ、あのバカがまたやってきた、ああ大変だ」
これは寅が旅から帰ってきたときの、おいちゃん(寅の叔父さん)森川信(後に役者は代わる)の台詞、いや内心の台詞。その表情がよい。
「大変だ」とは言っているが、葛飾柴又とらやの周りの人々は、それがないと退屈な日常に耐えられない。おもしろいめずらしい話と美人を伴って寅が現れる。あのバカといわれながらも、であるがゆえに寅に神性すら宿り我らの寅が神々しく輝く瞬間である。観客もワクワクするが、・・・決して拍手など送るわけにはいかないというのは誰もが百も承知なのだった。
と、まあそんなことは書いてないのだが、この本は、このように「男はつらいよ」の内容をありきたりに説明するだけの本ではない。
松竹蒲田=大船の経営者の城戸四郎のキャラクターや、そのもとで活躍した小津安二郎、黒澤明、木下恵介、成瀬巳喜男、吉村公三郎、島津保次郎、清水宏など監督から山田洋次監督がどのように影響を受けたのか、あるいは、男はつらいよは「無法松の一生」や山田監督自身の「馬鹿まるだし」「なつかしい風来坊」や小津安二郎の「喜八もの」にその源流をともにする部分あるなど、ちょっとした映画論入門にもなっている。
奄美と「男はつらいよ」はその始まりと最終作にも関連がある。しかしナゼ奄美なのか、興味はあるが実はよくわからない。(きょうは時間がありません。つづく?)
佐藤 忠男 wikipedia 著者の語り口もいいですね、あと数冊読んでみるつもり。
amazon 内容(「BOOK」データベースより)
東京は葛飾・柴又生まれ、ご存じフーテンの寅さん。日本はおろか世界の映画史上稀にみる連続ヒット作品で、ギネスブックの記録を更新中の「男はつらいよ」シリーズ―。マンネリといわれながら、なぜ人気は衰えないのか。その秘密を解明しつつ、観客を魅了し続ける車寅次郎の世界を描いた好著。--------------------------------------------------------------------------------
登録情報
: 214ページ
出版社: 朝日新聞 (1988/12)
発売日: 1988/12月20日 第一刷発行
定価 1200円
P214 寅さんの手紙もまた独特の名文だ。こういうみごとな様式を見失ったために、われわれは容易に手紙が書けなくなっているP214
そればかりではない、キーボード入力だけに頼っているうち漢字すら書けなくなってしまいそうだ。
なんとしっかりした字だろう。
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「男はつらいよ・望郷編」1970年8月26日公開。シリーズの5作目。
「心を入れ替えて堅気になろう」と寅次郎は、浦安の豆腐屋に住み込みで働き始める。知らせを受けたとらやの人達はおおいに喜ぶ。豆腐屋の娘で、近所の美容院で働く明朗快活な節子(長山藍子)は、に寅次郎は恋をする。が、所詮寅次郎に堅気の仕事は無理だった。
「水の流れと人の世は… 惚れたと一言 いっておくんなさい ホラ 江戸川も泣いてらあ」