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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU ユーロ防衛強化策の取組  独仏、域内の年金・税・賃金制度統一を提案

2011-02-09 21:24:27 | 国際情勢

(今年1月からユーロ加入したエストニアのコイン “flickr”より By Numismatic Bibliomania Society
http://www.flickr.com/photos/coinbooks/5336977567/
ユーロ紙幣は全導入国共通のデザインですが、硬貨は裏側にそれぞれの国独自のデザインを施せます。エストニアは国土の地図が彫られています。なお、紙幣の印刷や硬貨鋳造はフィンランドに委託するそうです。【2月4日 朝日より】)

危機が続く欧州経済
欧州経済は、依然として財政・金融危機が続いています。
危機に陥った国内銀行の救済で財政赤字が深刻化し、ギリシャに続きEU・IMFに総額850億ユーロの支援を要請したアイルランドでは、与党・共和党が政権運営に行き詰まり、解散・総選挙(25日)に追い込まれています。
選挙戦での与党の苦戦は必至と見られており、政権奪取が有力視されている2大野党の統一アイルランド党と労働党は、アイルランドに対する金融支援の返済条件見直しなどを主張していますので、今後の火種となりそうです。

最初に支援を受けたギリシャは財政再建を約束していますが、市場では実現が危ぶまれ、国債償還が不安視されています。
また、今後、経済規模の大きいポルトガルやスペインが支援要請に追い込まれた場合、欧州金融安定化基金が不足する恐れが指摘されており、市場の懸念材料ともなっています。

【「ユーロ防衛基金」の強化・拡充
こうした状況で、4日、EU首脳会議が開催され、「ユーロ防衛基金」の強化・拡充の具体策を3月中にとりまとめることで合意しています。

****ユーロ防衛基金:強化策を3月にとりまとめ EU首脳会議*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)首脳会議は4日、「ユーロ防衛基金」の強化・拡充の具体策を3月中にとりまとめることで合意した。総額4400億ユーロ(約49兆円)の欧州金融安定化基金(EFSF)のうち融資に充てられる額の増額や、財政危機に陥っているユーロ圏諸国の国債をEFSFの資金を使い、市場から買い戻す案などが軸となる。3月中旬に臨時のユーロ圏首脳会議を開き、詰めの協議を行う。

一方、独仏両国は首脳会議で、「EUの競争力強化のため」(サルコジ仏大統領)の財政規律強化策を共同提案した。主な内容は、(1)一部の国で年金受給開始年齢や法人税率を引き上げ、EUで統一化(2)物価上昇率に連動した賃上げ制度の見直し(3)財政赤字の順守目標を憲法や法律などに明記--などで、ドイツが採用している財政規律策をEU全体に拡大するよう求めた。

これに対して、中小国は一斉に反発。ユーロ圏議長を務めるルクセンブルクのユンケル首相は「週35時間労働の国もあるし、週43時間労働の国もある」と欧州の多様性を強調。ベルギーのルテルム首相も、物価上昇率に連動した賃金引き上げを認めない提案内容に「絶対に合意は得られない」と強い懸念を表明した。【2月5日 毎日】
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“財政危機に陥っているユーロ圏諸国の国債をEFSFの資金を使い、市場から買い戻す案”というのは、基金を財政悪化国に融資し、財政悪化国が発行した国債を買い戻す方法で、ギリシャなどの財政悪化国の国債は価格が大幅に低下しており、発行時の価格よりも「安く」買い戻せるため、財政赤字の削減に役立つ・・・というものです。素人的には“なるほど・・・”という感がしますが、どんなものでしょう。
ユーロ圏諸国が安定化基金への現金拠出積み増しなどで融資能力を増強する案なども検討されています。

支援反対論が根強いドイツ
しかし、EU経済の中心的存在のドイツでは財政悪化国への支援反対論が根強く、昨年5月のギリシャ救済や他国の救済メカニズム創設に対する有権者の反発を受けて、メルケル政権の支持率が落ち込んでいます。
こうしたドイツ国内事情もあって、ドイツは欧州各国に財政規律強化策を強く求めています。

****ユーロ救済策拡大へのドイツの抵抗が軟化か、包括的対応策を条件に*****
ドイツ政府は欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の拡大やギリシャの債務負担軽減策に反対する姿勢を続けてきたが、欧州各国がドイツ型の厳しい経済改革を進める兆しを見せ始めたことから、強硬なスタンスを和らげる兆しが現れている。 
公には、ドイツは依然としてEFSFの規模拡大は不要だとの姿勢を崩しておらず、ギリシャによる債務再編を受け入れようとはしていない。
だが、水面下では、ギリシャの債務返済条件変更や欧州における賃金や年金制度の改革などを盛り込んだ包括的な合意を3月までにまとめるべく、交渉の場についたもようだ。 

ドイツ政府高官はロイターに対し、ギリシャの債務負担を和らげるため、EFSFの役割拡大について、現実的な選択肢を積極的に議論していると明らかにした。
選択肢の一つには、EFSFに対し、ギリシャがディスカウント価格で市場から自国債券を買い戻す資金を融資する権限を与えることが考えられる。(中略) 
ギリシャが債務再編を回避する能力や、危機がポルトガルやスペインなどに拡大した場合のEFSFの対応能力に対する懸念から危機が再燃したことについて、ドイツ政府の強硬な姿勢が危機に火をつけたとの批判が広がった。(中略)

<小刻みな対策は拒絶> 
欧州連合(EU)高官によると、ドイツ政府はユーロ圏諸国に対し、「小刻みな」アプローチには断固反対すると強調している。なぜなら、ドイツでは年内に7州で選挙が行われ、追加支援策が浮上するたびに議会の了承を求めることは不可能なためだ。
ショイブレ財務相は経済誌に対し「われわれは数カ月ごとに対策を調整せずに済むよう、一つの包括的なパッケージで対応しなければならない」との考えを示した。 

トリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁の後任人事をめぐる思惑も絡み合う。
ウェーバー独連銀総裁のECB総裁就任を支持することをドイツが交換条件にしていると公に認める向きはいないが、ウェーバー総裁がギリシャに対して救済融資の返済期間を30年に延長する案を提示したのは、偶然の一致ではなさそうだ。ウェーバー総裁はそれを通じ、ユーロ危機解決の立役者になろうとしているとの見方がある。 

メルケル独首相は、ドイツ政府はユーロ救済に必要なことは「なんでもする」と強調。先週ダボスでサルコジ仏大統領と会談した後も、そのメッセージを繰り返した。
メルケル首相はユーロ救済に伴う政治的コストを軽減する一方で、EU首脳会議で「すべてに反対した」とのレッテルを貼られるのを避けるため、各国に対し、法定退職年齢の引き上げや、賃金交渉システムや法人税制の改革を求めている。 
メルケル首相が提出した改革案は、ユーロ圏諸国に対し、ドイツを見習って「債務にブレーキをかける」ため財政規律を修正し、法定退職年齢を67歳に引き上げるよう求めた。
だが、緩やかな年金制度改革ですら大規模な抗議デモを招いたフランスのサルコジ大統領をはじめとする各国首脳にとって、それは受け入れ困難な提案だ。 

<国内政治に左右されるドイツ> 
メルケル首相は2009年に再選されて以来、昨年5月のギリシャ救済や他国の救済メカニズム創設に対する有権者の反発を受けて、支持率が落ち込んでいる。
ノルトライン・ウェストファーレン州の選挙では、与党キリスト教民主同盟(CDU)が敗北を喫し、連立与党は連邦参議院での過半数議席を失った。
関係者によると、ドイツ政府が3月下旬に予定されていたユーロ危機に関する首脳会議を数週間先延ばしすることを提案したのは、会議が3月27日に行われる地方選挙への悪影響を懸念したためと受け止められている。
ドイツではユーロ圏救済策の内容やタイミングに関する議論が国内政治に左右されており、メルケル首相は、有権者に対して欧州諸国の犠牲になっているといった印象を持たせまいと努めている。(後略)【2月2日 ロイター】
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【「うまくいっている国のやり方を取り入れるべきだ」】
“ドイツを見習って”「債務にブレーキをかける」べく、メルケル首相がサルコジ仏大統領とともに共同で提出した改革案は、国家主権に踏み込んだ内容とも言えます。

****欧州各国の年金・税・賃金の制度一致を 独仏が提案****
年金や税、賃金など、欧州各国の制度をもっとそろえよう――。ドイツとフランスが4日、ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議でそんな提案をした。制度がばらばらなために、ドイツのように競争力の強い国とギリシャのような弱い国との差が広がり、共通通貨ユーロを不安定にしたとの立場からだ。

会議後の記者会見でメルケル独首相は「欧州の競争力を強めたい。うまくいっている国のやり方を取り入れるべきだ」と語り、3月中に結論を出したい考えを示した。
提案内容は具体的に公表されていないが、ロイター通信は、▽各国が法律で政府債務の制限を決める▽人口統計に基づいて、年金支給開始年齢を引き上げる▽インフレに連動した賃金制度を廃止する▽法人税の最低税率を導入することなどが内容になっていると報じた。

しかし、政策の手足をしばりかねない提案に参加国の反発は必至だ。アイルランドのように法人税率が12.5%と極端に低い国があるし、ベルギーのように公務員の賃金がインフレに応じて上がる国もある。ファンロンパイEU首脳会議常任議長は会見で「具体的な議論はしていない」と語るにとどまった。【2月5日 朝日】
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早くも、ギリシャは独仏共同提案に反発しています。
****ギリシャ副首相、債務上限に関する仏独提案を一蹴*****
ギリシャのパンガロス副首相は7日、日刊紙タネアとのインタビューで、債務の上限を国内法で制定するというフランスとドイツの共同提案を一蹴した。
仏独両国は4日に開催された欧州連合(EU)首脳会議で、競争力強化と債務危機解決に向けてユーロ圏やEUの加盟国が採用すべき一連の措置を共同提案した。
共同提案には年金支給開始年齢の引き上げや賃金のインフレへの連動撤廃なども盛り込まれているが、他のEU加盟国の反応は芳しくない。
パンガロス副首相は「すべての国家の憲法に介入するEUの決定という考え方を断固として拒否する。それがドイツの救済案に加わる前提条件になるという構想は魅力的ではない」と述べた。【2月7日 ロイター】
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一方で、ギリシャのような“放漫財政”救済に対する反発はドイツだけではありません。
****09年加入のスロバキア ギリシャ融資を拒否*****
「ギリシャの経済危機は無責任な政策と現実との落差が原因。規律を守らない国は、報いを受けなければおかしい」。昨年、ギリシャヘの救済融資をユーロ圈で唯一拒んだスロバキアのラディツォバー首相がこのほど、ブラチスラバで朝日新聞との単独会見に応じた。今後の救済融資についても、ユーロ圈の財政の相互監視を強め、違反国には制裁を課すなどの条件づけがない限り、応じがたいとの考えを示した。

スロバキアは09年1月にユーロ圈入りした2番目の新参国。」「(ユーロ圈移行は)間違いなく我が国経済によい影響をもたらしたが、唯一の欠点が財政規律を守らないいくつかの国があったことだ」と不満を語った。
ユーロ圈は昨年5月にギリシャヘの融資を決めたが、スロバキアではその後の総選挙で中道右派の現政権が誕生し、議会は融資のための法案を否決。他国から「連帯が足りない」と批判を浴びた。
ラディツォバー氏は「EUの基本的価値は何も連帯だけではない。他国はスロバキアが融資しないという決定に寛容でなければならない」と反論した。また、「年金や失業手当を含め、こんなに手厚い社会政策をとれば、債務不履行にもなる。そのツケがわが国民に回ってくるのは理解できない」と付け加えた。【2月4日 朝日】
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EU加盟国にはユーロを導入する義務がありますが、イギリス、デンマークは適用除外。現在ユーロ圈加入目標時期を公言しているのはラトビアとルーマニアだけだそうです。加入しやすいように条件緩和を求めていた中東欧諸国の動きはユーロ危機後、鈍っています。

もっとも新しいユーロ移行国が、今年1月からユーロ導入したエストニアです。
****ユーロ加入 喜びと戸惑い エストニア、他国救済に直面*****
欧州の財政危機で欧州連合(EU)の単一通貨ユーロが大揺れのなか、エストニアが1月から、旧ソ連の国としては初めてユーロ圈に入った。名実ともにEU本流の一員となったわけだが、ギリシャやアイルランドに続き、ポルトガル、スペインなどの救済を手伝わされる可能性がちらつく。「こんなはずではなかった」。首都タリンはお祝いムードと戸惑いが入り交じっていた。(中略)
 
ギリシャに次いでアイルランドの財政危機が懸念された昨年11月の世論調査では、ユーロ移行に「反対」が52%で「賛成」の34%を上回った。
バスで通勤中の会社員カナリ・クリュティマさん(30)は「ギリシャのような国を救うために私の税金が使われるのはうれしくないが、我が国は独立後に外国から多くの財政支援を受けて今があるのだから、今度はほかの国を助ける番だと思うしかない」(後略)【2月4日 朝日】
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立場の異なる多くの国々を統合していくのは至難の業です。
今回の独仏共同提案が実現すれば、統合への大きな一歩でしょうが、国家主権への大きな制約を課す考えでもあり、抵抗が大きいのではないでしょうか。
「うまくいっている国のやり方を取り入れるべきだ」というドイツの姿勢が鼻につく感も・・・・。

コメント
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