孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  環境汚染・食品汚染に見る中国社会の現状

2011-02-26 21:06:01 | 世相

(中国では乳製品のたんぱく質含有を増やすためのメラミン添加はかなり広範に行われていたようですが、問題は健康被害が表面化してからの対応です。“flickr”より By g_yulong http://www.flickr.com/photos/2friend/2881133980/

【「過ちは改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ」】
驚異的な経済成長をとげる中国では、かつての高度成長期の日本がそうであったように、成長の“代償”としての公害が日本以上に深刻・広範に社会を蝕んでいることは周知のところであり、そうした報道は枚挙にいとまがありません。

下記はそのひとつ、「イタイイタイ病」に関する記事です。
「イタイイタイ病」は、有機水銀による水質汚染を原因とする「水俣病<熊本県>」と「新潟水俣病(第2水俣病)<新潟県>」、亜硫酸ガスによる大気汚染を原因とする「四日市ぜんそく<三重県>」と並んで、「4大公害病」とも呼ばれる、富山県で発生したカドミウムによる水質汚染を原因とする公害病です。

「イタイイタイ病」は、1955年に神通川下流域の富山県婦中町(現・富山市婦中町)で1910年から1970年にかけて多発した病気で、患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから命名されたものです。この原因は、神通川上流の岐阜県飛騨市にある三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所から排出された廃水に含まれていたカドミウムが下流の富山県婦中町周辺の土壌を汚染したことにあるとされ、汚染された土壌で栽培されたコメや野菜を食べ、汚染された井戸水を飲んだ住民たちが体内にカドミウムが蓄積した結果、最終的には骨の激痛に苦しみ、容易に骨折、寝たきりとなりました。

****闇に葬られ続ける「イタイイタイ病*****
年間2000万トン、カドミウム汚染米比率は1割に達する
(中略)
日本の「4大公害病」を遥かにしのぐ
驚異的な高度成長により2010年にGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国となった中国にも「公害病」は当然ながら存在する。中国各地から報じられる環境汚染や公害から判断して、「公害病」の状況は、日本の「4大公害病」を遥かにしのぐほどに深刻と考えられるが、中国政府は依然として「公害病」の存在を公式に認めていないのが実情である。

2011年2月14日発行の週刊誌『新世紀週刊』は、“宮靖”記者による“鎘米殺機(カドミウム米の殺意)”という特集記事を掲載した。2007年頃、南京農業大学農業資源・環境研究所の潘根興教授が中国の6地区(華東、東北、華中、西南、華南、華北)の県レベルの「市」以上の市場で販売されていたコメのサンプルを無作為に170個以上購入して科学的に分析した結果、その10%のコメに基準値を超えたカドミウムが含まれていたという。これは2002年に中国政府農業部の「コメおよびコメ製品品質監督検査試験センター」が、全国の市場で販売されているコメについてその安全性を抜き取り検査した結果の「カドミウムの基準値超過率」10.3%と基本的に一致したのである。

鉛含有は28.4%、カドミウムは10.3%
上述の2002年に行われた中国農業部による市販米の抜き取り調査によれば、コメに含まれていた重金属で基準値超過が最も多かったのは鉛で28.4%を占め、これに次ぐのがカドミウムの10.3%であった。(中略)
中国のコメの年産量は約2億トンであるが、上述のごとく、基準値を超えるカドミウムを含むコメが10%あるとすれば、その量は2000万トンとなる。日本の2007年におけるコメの生産量は882万トンであるから、中国の「カドミウム汚染米」は日本のコメの年産量の約2.3倍もの膨大な量である。
(中略)
村人1800人中1100人が中毒と判定
(中国の「イタイイタイ病」発生地と考えられている広西チワン族自治区陽朔県興坪鎮の“思的村”の)李老人は1982年に退職して村に戻って以来、既に28年間も地元産のコメを食べており、体内に蓄積されたカドミウムによって「イタイイタイ病」の初期に似た症状を示していると多くの学者は指摘している。李老人と類似した症状を示している老人たちも同じ原因によるものと思われるが、これは“思的村”だけに出現したものではなく、全国の多くの地方には尿カドミウム値が基準値を上回ったり、「イタイイタイ病」に似た症状を呈している人々が存在しているのである。
(中略)
告発すれば、どんな報復を受けるか…
『新世紀週刊』の特集記事は、中国国内で大きな反響を呼び起こした。(中略)
ある地方で公害病の存在が表沙汰になれば、その地方政府の環境保護局のみならず、衛生局、工商局など関係部門の役人の責任が追及されることになる。そんなことになったら「立身出世」に差し障りが出るばかりか、責任を追及されて免職になりかねないし、下手に告発すれば、どのような報復を受けるか分からない。そういう事なら、「触らぬ神に祟(たた)りなし」が一番の処世術であり、公害病はますます深刻化して行くことになる。
『論語』には「過ちは改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ」とあるが、中国政府が祟りを恐れず公害病という「死に神」の存在を公表するようになるのはいつの日だろうか。
(2月26日 日経ビジネス 世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110222/218546/ より)
**************************

鉛汚染については、下記の記事も。
****中国で子供100人が鉛汚染、原因は電池工場か****
新華社電(電子版)によると、中国安徽省安慶市の住宅地に住む200人以上の子供が昨年末までに病院で検査を受けた結果、100人余りの血液から基準を超える鉛が検出され、そのうち24人が治療を受けた。
保護者は、付近にある二つの電池工場が鉛汚染と関係しているとみているという。
中国各地で工場排水垂れ流しによる鉛などの重金属汚染が頻発、子供に被害が出るケースが目立っている。【1月6日 読売】
******************************

中国の大気汚染のひどさも、北京オリンピック時に参加予定選手が参加を拒否する意向を示すなど、かなり問題になりました。
****測定不能レベルの大気汚染=米大使館が北京市の汚染にコメント―米大使館*****
2011年2月23日、環球時報は記事「米大使館発表=北京の空気は汚すぎて測定できない」を発表した。以下はその抄訳。

21日、北京市は霧に包まれた。空気汚染評価は2011年初の5級(重度の汚染)となり、「老人と子どもは外出を避けること」と発表された。米国大使館は「危険、測定不能なレベル」と異例の結果を伝えている。
米国大使館は2008年初頭以来、大使館に設置された大気観測所での調査を続けている。観測したデータは1時間ごとにツイッターで発表されている。昨年11月には「クレイジーなほど悪い」とコメント。後に「表現が不適切だった」としてコメントを削除する問題もあった。
中国側は、米大使館の観測結果は大使館区域に限定されたものであり、北京市全体の大気状況を示すものではないと指摘している。大使館地区は繁華街に位置し、車の交通量も多いため、汚染物質が多く観測されやすいという。【2月25日 Record China】
*****************************

人命に優先する利益追求
公害は前述のように高度成長期の日本でも大問題になりましたし、当時の(今も?)企業・当局の隠ぺい体質も日本でも同様でした。
ただ、問題表面化からその後の経過は、日本が公害対策・環境問題の先進国としての道を歩んだのに対し、どうも中国では対応が鈍く、カネ儲け・責任逃れのためなら人命軽視もいとわない風潮がはびこっているようにも思えます。

そうした傾向を端的に表しているのが有害物質メラミン入りの粉ミルク問題です。
中国産の牛乳や乳製品に有害物質メラミンが混入し、乳児4人が死亡、子ども5万3000人が被害を受けたという事件が表面化したのは08年9月のことです。健康被害の受けた乳幼児は、その後約30万人とも言われています。

有害粉ミルクという点では、日本でも昭和30年に、1万3千名もの乳児がヒ素中毒になり、130名以上の中毒による死亡者を出した「森永ヒ素ミルク事件」というものがありました。
ただ、日本の事件が問題発覚後は改善されたのに対し(森永側が企業責任を認めたのは、発生から15年経過した1970年(昭和45年)の裁判中のことですが・・・)、中国では今なお利益追求のため有害物質メラミンが混入された粉ミルクが市場に出回っているようです。

昨年7月から12月末までの半年だけで、2130トン余りの汚染粉ミルクが押収され、汚染粉ミルクの生産、販売に関わったとして96人が逮捕されています。
このため、安全な外国産粉ミルクへの需要が増大しているとか。

****中国で国産粉ミルク低迷、毒物混入の不信続く*****
中国産の粉ミルクの売れ行きがニュージーランドなど外国産に席巻され、低迷している。
有害物質メラミン入りの粉ミルクを飲んだ乳幼児約30万人に健康被害が出た2008年の事件が尾をひいているためだ。問題の粉ミルクがいまだに市場に流通するなど、消費者の国産ブランドへの不信感に歯止めがかからない。中国紙「国際先駆導報」などによると、同事件が起きるまで、国産の市場シェアは約60%だったが、昨年は約50%にまで低下し、今年は外国産が過半数を占める見込みだという。

インターネット上では、「外国産は高くて金がかかるが、国産なら命がかかる」との言葉が流行するほどだ。国外や香港に旅行に出かけた人々が外国産粉ミルクを買いだめして来るケースも多い。特に、富裕層が好む高級粉ミルクでは、外国産が90%を占めているという。【1月25日 読売】
**************************

被害が出ることを知らなかったと言うならまだしも、死者を含む深刻な健康被害が出ることが表面化しているにも関わらず、同様商品が生産され流通するというのは、日本の感覚では理解できないところです。

モラルの欠如
こうした公害問題の深刻化、人命を軽視した利益追求姿勢の背景には、批判勢力としての野党・マスコミが機能しない事実上の共産党一党支配という政治体制の問題がありますが(中国当局は北京五輪前の問題発覚を恐れてメラミン含有ミルク事件を隠ぺいしましたが、日本ならそれだけで政権崩壊です)、それ以外にも、モラルの欠如とも言うべき文化の問題もあるように思えます。

最近、中国ネットで批判が集中している「冷血医師」の話題。
****患者が死んで今夜はぐっすり」、愚痴ったのは女性医師、すでに洗濯係に左遷―中国****
2011年2月25日、中国で「患者が死んだおかげで今夜はぐっすり」などと書き込まれたマイクロブログに非難が殺到している問題で、「看護師」と伝えられたブログ主は免許取得後3年の若い医師で、問題発覚後は洗濯係に異動させられたことが分かった。南方日報が伝えた。

ネットユーザーたちから早くも「冷血医師」との称号を賜ったこの女性医師。当初は看護師と伝えられていたが、同紙の取材で免許取得後3年の若い医師であることが分かった。普段の勤務態度は「特別優秀ではないが、クレームを受けたこともない」という平々凡々なもの。問題発覚後はすぐに病院の裏方である洗濯係に異動させられた。彼女が勤務する広東省汕頭市内の病院副院長は「通常は重大な医療事故を起こした医師に下す処分」と話す。

この「冷血医師」は22日晩、マイクロブログに「患者がもうすぐ死にそうなんだけど、夜中は勘弁してほしいな~。私の担当時間が終わってから死んでくれない?」「今日は良い知らせ!患者が午後2時10分に死んだの。おかげで今晩はぐっすり眠れる~。明日はどこに遊びに行こうかな」などと笑顔の写メ付きで毒を吐き、ユーザーらの怒りを買っていた。(後略)【2月25日 Record China】
*****************************

本人笑顔の写メ付きで書かれたこのブログはさすがに炎上したようですが、そもそもこんなことを本人顔写真付きで書くこと自体が信じられません。
自分を含めた人間すべての心の中に、こうしたどす黒いものがあることを否定するつもりはありません。彼女、中国だけの問題ではありません。人間性の本質とも言うべきものでしょう。

しかし、“偽善”とも言われるかもしれませんが、“思う”ことと、実際に“口に出すこと”“行うこと”は別問題です。
そこを規制するのはモラルであり、文化です。
その中心に位置するのは、西欧社会であればキリスト教であり、日本であれば仏教や儒教などに基づくモラル・規範でしょう。

昨今は日本でも“本音”“毒舌”がもてはやされていますが、無責任な本音が横溢する一部ネットはおぞましいものがあります。
中国社会は、共産主義の理念が規範としての役割を失った後、それに代わるものがなく、本音の欲望だけが社会を席巻しているようにも思えます。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする